英国事情

ハリー王子の人種差別発言、重要度の判定は?

 ヘンリー(ハリー)王子が、3年前、サンドハースト陸軍士官学校で訓練を受けていた時、人種差別的発言をしたという件が大きなニュースとなった。BBCニュースのサイトでも、日曜日(11日)、ずっとトップだった。

 (以下でビデオが見れるが、ずい分便利なサイトができたものだ!!)

http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00147368.html

 
(引用)流出した映像で、ヘンリー王子は「あれが『パキ』(パキスタン人の差別語)の友人、アハメド」、「『ラグヘッド』(ターバンを巻いた人の差別語)みたい、こっち向いて」などと話していた。2006年の陸軍士官学校時代に、仲間の兵士に対する差別語を連発していた映像が流出した(中略)
  
 映像の中には、訓練中に祖母であるエリザベス女王に電話している場面もあった。映像の中でヘンリー王子は、電話を手に「おばあちゃん、もう行かなきゃ。おじいちゃんと犬によろしく!」、「(王子様、行くぞ!)じゃあね、もう切るね」と話していた。(引用終わり)


 パキスタン人(ここではパキスタン系英国人)のことを、普通にいえば「パキスタニ」Pakistaniということになるのだが、「パキ」となると、人種を指しているのではなく蔑称と解釈される。(「ベッカムに恋して」という映画でも、主人公が「パキ」と呼ばれて悲しむ場面があった。)

 それでも、軍隊の仲間同士ではいろいろ言うであろうし、記事を読めば読むほど、それほど大したことではないと思う感じがした。もちろん、王子は謝罪し、謝罪しないわけにはいかないのだろうけれども。英国には人種差別禁止法があるので、うっかりはしておられず、パキスタン系英国人もたくさんいるし、本当に気をつけなければならない。

 問題は、メディアが騒ぎすぎることである。元々報道が最初に出たのは日曜紙の「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」である。こちらは「売りたい」という欲望がある。

 しかし、BBCがまるで鬼の首でも取ったかのような(BBCはどちらかいうと反王室なのでーー王室が嫌いなのでなく、反権力という姿勢をいつも出す必要があるので)大事件として扱うのがいやらしい感じがした。自分たち自身もちょっと失言があると、視聴者から大量の文句が来る。今度は他の人が対象になったので、思い切りやっている感じがした。

 BBCサイトが視聴者から意見を募っている。これを見ると、「大したことはない」、「政治的に正しいーーポリティカリーコレクトーに過ぎるのではないか」?という声が結構あった。テレグラフの読者からの投稿欄でも同様だった(12日付け)。

 このトピックからやや離れるが、ネットも含めて様々なプラットフォームで24時間情報を出せるようになったメディアにとって、課題になるのは、「大げさに騒ぎすぎずにいかにニュースを伝えることか」、ということかもしれない。時に、3ぐらいのものを10ぐらいに見せてしまうことがある。すると、ことの本質がすり抜けてしまうと思う。

 私たち視聴者にとって重要なのは、新聞を読む時も同じだが、やはり自分の頭の中で一度咀嚼してみる、ということなのだろう。それにしても、騒ぎすぎのような事件だった。(・・・しかし、もし日本の皇室の誰かがこんな発言をしたら、そういうことはありえないが、もしそうならこれは大騒ぎだろう。日本の皇室と英国の王室の国民の間での受け止められ方がずい分違う。)

 一方、日本でも「ミスター・ビーン」で知られるコメディー俳優ローワン・アトキンソンが「キリストを侮辱した」コントを民放ITVのテレビで行い、これに対して視聴者から不満が寄せられた。通信規制団体オフコムがこれを「問題なし」としたことが分かった。

http://www.guardian.co.uk/media/2009/jan/13/rowan-atkinson-jesus-sketch-cleared-ofcom

 アトキンソンは聖職者として番組に登場し、水をワインに変えたキリストを、一種の手品師として描いたコントだった。このコントは前に何度もやっている。おそらくビデオ・DVDにも入っていると思う。

 私自身、この番組を見ていたのだが、特別な番組だった。チャールズ皇太子の60歳の誕生日を祝うイベントで、英国内のコメディアンが集まり、劇場を借りて皇太子や観客を笑わせてくれた。その様子がITVで放映された。

 前にこのコントを見たときは笑ったのだけれど、今回のテレビでアトキンソンのコントを見て、どうにも場違いな感じがして、テレビを消してしまったのを覚えている。オフコムに不満の声(500件余)が寄せられたと聞いて、不快に思った人は他にもいたのだなと思った。

 一方、オフコムはMTVチャンネルの中に出演した米国のバンドが、いわゆる4文字言葉や「ニガー」などと言う言葉が入った歌を歌ったことで、「重大な」放送規定破りが起きた、と結論づけた。ネット時代、多チャンネル時代に、こういう規制があること自体が古めかしい感じがするが、難しい時代になったものだ。
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Commented by 兵隊さん at 2009-01-15 16:55 x
小林先生みなさん、新年よろしく。

ポール・マッカートニーが80年代に出したアルバムに
Frozen Jap(当時来日したとたん大麻でつかまったポールが
腹いせに、食品?に例えて日本人を皮肉ったとされる
タイトルです)という楽曲がありましたが、ポールは質問に
答えて「確かに隠語ではあるかもしれないが、差別的だとは
思わない」と言い切りました。(結果的には、改題されることに
なりましたが)彼がビートルズに所属していたときに、相方の
ジョンさんが、もうこの手のネタはやり尽きてしまったことは
いうまでもありません。

ジョンが、ユダヤ人、ユダヤ世界への暴言をメディアで
行うようになり、そのせいでライブ活動ができなくなった66年。
アメリカのティーン雑誌上でキリストにまで言及したことで
完全に世間を敵にまわし、仕事が遮断され、戦争映画のロケで
なんとか煙に巻こうとします。そして復帰作品が、例の
ストロベリー・フィールズです。ビーチボーイズに触発され、
幼年時代の思い出をポールと共に一枚のシングルに現しますが、
ポールの正攻法と違い、ジョンのほうには、「隠語」が含まれて
いていた
Commented by 兵隊さん at 2009-01-15 16:55 x
Let me take you down 'cause I'm going to
Strawberryfields, where nothing is real

ここは通常「現実味が何一つないあの場所へ」と訳される
ことが多いですが、実はジョンは「何もイスラエル的なことが
ない(where (you know) nothing Israel(i)」と言い含めて
います。

これを知って、エリック・クラプトンたちは自作のタイトルに
Disraeli Gearなどというトンデモ名をつけたのは有名です。

ジョンはどんどん暴走し、LSDをタイトルにしたり、
68年には悪名高き「ジョンとヨーコのバラッド」を公開し、
タブーを隠語にすることすらもう面倒くさくなったようで
ヤケクソで周囲の嫌がることばかり連呼するようになります。

まあ、この話は、パンクの時代まで延々と続いてきりがないの
ですが、私のいいたいことは、禁止語やタブーの類はイギリスの
60年代において行き着くところまでいっていた、ということ
ですね。ジョン・レノンの後を何十年も遅れて普通のボンボンが
歩いてきよるな、って感じです。
Commented by polimediauk at 2009-01-17 07:39
兵隊さん 、「先生」と呼ぶのだけはご勘弁を!!!(「先」には生まれているでしょうけれど。)・・・というのはいいとしても、お詳しいですね!!!「ジャップ」って言う言葉、確かにポールは使ってた感じがしますよ。それがこの曲だったのかな、と思いました。

今は、政治的に正しいかどうか(PC)にみんな過剰反応しています。とにかく言ってはいけないことが結構あって、訴えられたら困るしね。言葉だけじゃなくて、例えば、イスラムの女性でスカーフで頭を覆っている人が、ある美容院の就職試験で落ちたんですね。そしたら、イスラム教徒だから差別しているということで、訴えたんですよ、この女性が。そんなこともありました。
by polimediauk | 2009-01-13 23:43 | 英国事情 | Trackback | Comments(3)

ジャーナリズムの話いろいろ+欧州事情も


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