英国事情

次の金融危機を防げるか? FSAの新規制案

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             (FSAターナー会長)

 英金融監督機関の金融サービス庁(FSA)が、3月18日、金融危機の再発生を防ぐための新規制案(FSA会長の名前を取って「ターナー報告書」と呼ばれる)を発表した。銀行に対しては収益性よりも経営の安定を優先する、自己資本率を上げるなどを提言し、危機を未然に防ぐための積極的な監督業務の実行を宣言した。これでグローバルな危機発生を防ぐことはできるのだろうか?報告書を巡る話を、「英国ニュースダイジェスト」(4月2日号)に書いた。以下はそれに若干補足したものである。

次の金融危機を防げるか? FSAの新規制案

ーターナー報告書の主な提言

*FSAの役割を変更し、金融機関の戦略や広い意味でのリスクの監視に焦点を移す。金融機関が窮地に陥っているかどうかを未然に察知する。
*資金繰り状況をもっとよく監視する。英中央銀行、国際通貨基金などと協力する。
*銀行は景気の良い時に、将来の不況時の資金難に備えてこれまで以上に資本を増強しておく。
*銀行資本・流動性規則と会計報告を抜本的に変更する。
*格付け機関を監督下に置き、利害の衝突がないか、不当な格付けがないかを確認する。
*長期的視点でビジネスを行なえるように、銀行の賃金体制を変える。
*ヘッジファンドを銀行同様に監督できるようにする。
*全欧州レベルでの調整を強化する。欧州金融監督団体の新設も。

―「市場が何とかしてくれる」は通用しない

 多くの英国民が金融危機の兆しを見たのは、2007年9月、住宅金融ノーザン・ロックで取り付け騒ぎが起きた時だった。翌年2月、ノーザン・ロックは国有化され、同年9月の米リーマン・ブラザーズ証券の破綻を受けて世界的な金融危機が発生した。その後、英国の大手数行は巨額公的資金注入を受け、現在ほぼ国有化状態にある。

 金融危機発生の原因と監督業務の役割、今後危機を防ぐにはどうするかに関し、昨年秋、ブラウン首相が金融監督機関である金融サービス庁(FSA)に分析を依頼した。その結果が18日発表された「ターナー報告」だ。報告書をまとめたターナーFSA会長は、これまで「ライト・タッチ」(軽い)とされてきたFSAの監督業を「インテンス」(強い、激しい)監督業に大きく変える、と宣言した。

 会長によれば、金融危機以前のFSAには「市場が自分で直してくれる」という哲学が満悦しており、金融機関の経営陣の方が監督業者よりもリスクをよく察知できると考えられてきた。会長は、今後FSAは企業戦略やシステム全体のリスクの監督に焦点をあてる、と述べた。

 具体的には、銀行の自己資本率の引き上げや、好況時に資本準備を増強してかんしょう部分を作り、不景気にはこれを使って貸し出しを続行する柔軟性を持たせるなど、銀行の経営を安定化させる提言や、規制対象外のヘッジファンドなどを銀行同様に監督できるようにする、また、リスクを過剰にとらないよう、銀行の報酬政策を見直すことを促すなど、地道な金融経営を求める策を進言した。BBCのロバート・ペストン記者は、「提言のほとんどが常識だ」と評した。

―英国独自の問題は?

 では、何故英国で金融危機が起きたのだろう?ターナー報告書によれば、ロンドンは世界の巨大銀行の拠点になっており、こうした銀行がリスクの高いビジネスを行なっていたこと、住宅ローンの貸付が急激に増えていたこと、他の金融機関からの借り入れに過剰に依存した、リスクが大きなビジネス慣行をノーザン・ロック(国有化)、ブラッドフォード&ビングレー(国有化)、HBOS(ロイズTSB銀が買収)などが行なっていたからだった。また、国際的なビジネスを展開する金融機関に対して、十分な監督が行き届かなかったことも原因だった。ターナー会長は欧州全体の金融業務を監督する団体の新設を提言している。

 報告書はおおむね好意的に受け止められたが、果たしてどこまで厳しい監督業務が実行できるのかというと、疑問の声が上がる。ターナー会長が現職に就任したのは昨年9月だが、ほとんどの他の職員は「ライトタッチ」でこれまで仕事をしてきたのだ。また、もし監督がきつくなれば、国際的ネットワークを持つ大手銀行は海外に逃げてしまう危険性もある。そうなれば、世界の金融街の1つロンドンにとっては打撃になる。また、果たして他国が英国の規制案に同意するかという課題もある。報告書は、4月2日ロンドンで開催される、主要20カ国・地域(G20)金融サミットに向けた、金融監督業務の方向性に関するたたき台となる。どこまでターナー報告書の提案が賛同を得られるかの答えは意外と早く出るのかもしれない。(追記:サミット終了時点で、ターナー報告書の概要はほぼ最終宣言に引き継がれたと言って良いだろう。)

―ターナー会長のプロフィール

 アデア・ターナー。54歳。2005年、貴族の称号を授与される。大学教授の息子としてイングランド東部で育つ。ケンブリッジ大学で歴史と経済を勉学後、BP、チェースマンハッタン銀行、マッキンゼー社に勤務。英国産業連盟の事務局長、メリルリンチ欧州の副会長などを務めた後、2008年、政府の気候変動委員会の会長に。2005年には英国の年金制度の将来に関する報告書を、2008年には気候変動に関する報告書をまとめた。08年9月から金融サービス庁(FSA)会長。FSAの監督不行き届きに関して謝罪はしていないが、「間違いを犯した」と数度にわたり発言している。
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by polimediauk | 2009-04-03 21:28 | 英国事情 | Trackback | Comments(0)

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