小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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エコノミストの有料化、英「エディンバラ国際テレビ・フェスティバル」(上)

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(エディンバラ・テレビフェスティバルで質問に答えるジェームズ・マードック氏。撮影Rob McDougal 2009/MGEITF)

 英週刊誌「エコノミスト」が、いよいよサイトの記事閲覧を有料にするという。

http://www.mediaweek.co.uk/news/936610/Economist-charge-readers-its-online-news-content/

 現在、エコノミストは紙媒体掲載から1年以内の記事に限り、サイト上での閲覧を無料にしている。発売中の雑誌の記事がそのまま読める。

 今後の有料化のやり方は、アイチューンをモデルにしたマイクロペイメントシステムも1つの選択肢だという。有料化は今後6ヶ月以内に実施される。

 エコノミストの発行人イボンヌ・オッスマン氏は、マードックの新聞ニュース有料化案を歓迎するとしながらも、他の新聞がこれにならうかどうかは分らないとしている。

 上記の「メディアウイーク」記事によれば、有料・無料方針をエコノミストは何度も変更しているそうだ。以前は有料記事と無料記事を並列させていたが、これを全て無料にしたのが2006年の9月。それでも、過去56ヶ月、販売部数は増え続けており、無料化にしてもマイナスのインパクトがなかった、ということになる。

 8日のBBCラジオ4の「ユーアンドユアーズ」という昼の番組で、オンライン・コンテンツの無料化・有料化に関してアンケートをやっていた。殆どの人が「内容がお金を払うに足るものであれば有料でもいい」という声だった。ただし、これが平均かどうかは分らない。ユーチューブやフェースブックが有料になったらやめる、という人も結構いた。

 面白いと思ったのが、いちいち1つ1つのニュースサイトが有料になっては、使うほうとしてはたまらないから、複数のニュースサイトが徴収した収入をシェアできるよう、ニュースを読みたいときは特定のアドレスになったサイトに入って読むようにしては、という提言だった。――つまり、ネットバンキングなど、セキュリティーの高いサイトに行くとき、アドレスの一部が変わるような仕組みを、複数のニュースサイトでも設定したらどうか、ということ。

 アイフォーンで無料音楽ダウンロードサービスのスポティファイが使えるようになった(英語)。早速やってみようとしたら、毎月約10ポンドを払う代わりにダウンロードが無限にできる「プレミアム」会員のみのサービスになっていた。

 9月8日号の新聞協会報に、先のエディンバラ(普通、エジンバラでなくエディンバラと書くことをこれで知った)のテレビ会議の様子を書いた。以下はこれに補足したものである。

英「エディンバラ国際テレビ・フェスティバル」(上)
 マードック氏次男の痛烈なBBC批判で議論噴出


 英スコットランドの首都エディンバラで、放送にかかわる問題について関係者が意見を交わす「エディンバラ国際テレビ・フェスティバル」が、8月28日から3日間開催された。ガーディアン紙を筆頭にBBC、民放各局が主催し、千人余りが参加した。米ニューズ・コーポレーションの欧州・アジア部門を統括するジェームズ・マードック氏が、初日の基調講演でBBCを批判し、公共放送の伝統が強い英放送業界に物議を醸したほか、オンラインコンテンツの有料化などが議論された。2回に分けて紹介する。

 ジェームズ・マードック氏は、ニューズ社のルパート・マードック最高経営責任者(CEO)の次男。父親が築いたメディア帝国の後継者と目される。約900万人の契約者を抱える英国最大の有料衛星放送BスカイBの会長(非常勤)であり、ニューズ社の経営陣としてタイムズ、サンなど影響力の強い英国の新聞数紙を統括する立場にもある。

 基調講演でマードック氏は「英国の放送市場を支配するBBCが独立したジャーナリズムの存在を脅かしている」と述べ、広告収入の減少で厳しい状況にある民放各局と比較して、その巨大さが目立つBBCを批判した。

 また、独立したジャーナリズムを確保し、民間企業が投資や創造性を十二分に発揮できるよう、英国の放送政策を抜本的に変革すべきだと訴えた。政府や放送・通信監督団体オフコムによるメディア規制が「過剰な」現況は、監視社会を描いた小説「1984年」をほうふつとさせるとまで言い切った。

 放送業界は「権利主義的」でBBCは「国家がスポンサー」となっており、その活動を監視するBBCトラストは何もしていない。「規制が強い公共放送市場のために、視聴者は受動的に情報を得るだけ」-。「規制は撤廃し、BBCは縮小させ、『顧客』に選択の自由を与える」「市場にすべてを任せればうまくいく」という論旨で、BBCを中心とする英国の公共放送体制を真っ向から否定。独立したジャーナリズムを保証する唯一のものとして「利益」を挙げ、講演を締めくくった。

―反応

 講演直後、BBCトラストのマイケル・ライオンズ会長は筆者に、「BBCは有料放送スカイのライバル局。スカイ自体も巨大になっている。BBCだけを批判するのはおかしい」と述べた。

 ガーディアン紙は翌29日付の社説に「エディンバラのアメリカ人」(市場経済の信奉者=「アメリカ人」とする皮肉)とする見出しを付けた。もし英放送業界が「意見を前面に出し、規制がなく、完全に独立」するとした場合、これは「米国の新聞のようになれということではないか」と問うた。「市場経済だけではメディアはやっていけない」「米新聞業界が困窮状態にあるのがその証左だ」と書いた。

 しかし、「規制が過剰」「BBCはすべての人のニーズを満たすためにサービスを広げすぎている」という2点に関して同意する意見が、フェスティバルの複数のセッションで出た。

 フェスティバルに聴衆の一人として参加していた、下院文化メディアスポーツ委員会の委員長ジョン・ウイッティンデール保守党議員もその一人だ。「規制の厳しさとBBCの巨大さに関して、党もおおむね同意する」と筆者に述べた。「自分が好きなサービスだけを選択し、低いライセンス料を払いたいという国民は少なからずいると思う」。来年春までには総選挙が行われ、保守党政権が誕生する確率が高いと言われている。新政権がライセンス料の縮小など何らかの手段をとるという観測が出ている。

 インターネット上で情報が随時発信される現在、放送内容にさまざまな規制を設けるこれまでの仕組みは確かにいささか古めかしいとも言える。一石を投じた講演となった。(来週掲載の「下」に続く。)
by polimediauk | 2009-09-10 02:45 | 放送業界