小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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ガーディアンの会員制サービス+調査報道で光る

 6月からタイムズ、サンデータイムズなどのウェブサイトが有料化される。いよいよ・・・ということで、話題沸騰状態だ。1日の閲読だと1ポンド(平日の紙媒体を買うのと同じ値段)だが、1週間だと2ポンドを払う。1週間2ポンドは安い感じがする。私のようにタイムズを購読しておらず+時々買ったり、無料でサイトで記事を読んでいる読者にとっては、非常に便利だ。わざわざ新聞販売店に行って買わなくてもいいのだ。支払い方法がどれだけ簡単かがカギかもしれない。
 
 無料路線(広告で経費をカバー)のガーディアンにとっても、心穏やかではない時期となる。もしタイムズが成功すれば、ガーディアンにしても何らかのビジネス上のヒントになる。今日の紙面を見たら、「エキストラ」というサービスを始めるようだ。これは、年に25ポンド払ってもらって、いろいろなサービスをディスカウント料金で利用できる、というもの(例えばレストランの食事代だったり、イベントの参加料だったり。ガーディアンの社内見学とか、記者との懇談会とか)。もし既にガーディアンの定期購読者だったら、無料でエキストラのメンバーになれる。タイムズで言えば、「タイムズプラス」というサービスに似ている。つまり、「読者のクラブ」のようなことだ。それほど高くないので、試しに入ってみようかなとちらっと思う。

エキストラ、プレミアム会員サービスのお知らせhttp://www.guardian.co.uk/media/2010/may/20/guardian-news-media-premium-membership

 でも、このブログをしばらく読んでくださった方で気づかれた方もいらっしゃるかもしれないが、私は実はそれほどガーディアンが好きなわけではない。海外(米国)で評判が高いというのは知っているのだが。英国で「ガーディアンを読むタイプの人」というのは、1つのパターンがあるような気がする。ただのイメージかもしれないのだけれどもー。例えば、「ガーディアンを読むタイプの人」は、「テレグラフを読む人」を馬鹿にするのである。「シャンパン・ソーシャリズム」という言葉を聞いたことがあるのだが、どうもそんな感じ。つまりは、自分はブルジョア生活を送りながら、「労働者の権利」などを語るのが好き・・という感じであろうか――この論理のつながりは英国独特かもしれないが。(ガーディアンの新ビルに行って中を見る機会のある方は、きっと驚くであろう。まるで「近代美術館」である。受け付けや社内のあちこちに置かれている、極度にカラフルで、アートっぽい椅子に座っていると、まるで自分自身がアートになった気が。「仕事が遊び」・・・ふうーん、ガーディアンだなあとしみじみ感じるのであった・・・。)

 ・・と散々、訳の分からない(?)悪口を言ってしまったが、独断と偏見はここまで。先日、調査報道に関して、ガーディアンに行って取材をし、朝日「Journalism」の4月号に記事を書いた。その結果、「ガーディアンにはいろいろ気に入らないところがあって、個人的には好きじゃないけど、でも、調査報道をここまで太っ腹でやれるのはすごい」と心から感心し、畏怖した。すごい新聞であり、絶対になくなってはならない新聞である。こんなに勇気のある新聞も、なかなかないであろう。

 実際に話を聞いて分かってきたのは、これだ!とガーディアン側が思ってやる調査報道が、「いつも成功するとは限らない」こと。お金もかかるし、裁判で負けることもある。大恥もかくし、自分たちの側にいるはずの団体からも批判されることもある。それでも、やっているのである。何故?、と私は思ったー結局のところ、「それが新聞の使命だから」と信じているからやるのだろう。

 「割に合わない仕事=調査報道」に取り組む、ガーディアンの記事(「Journalism」掲載分)を次のエントリーで出します。(今入れたら、「長すぎる」というメッセージが出たので・・・。)
by polimediauk | 2010-05-21 07:58 | 新聞業界