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英ITVの「ダウントン・アビー」が人気に ―時代モノ・ドラマは何故受ける?

 思わず息を呑み込むほどの大邸宅、これを取り囲む大庭園、たくさんの召使に囲まれて、登場するのはフリルやレース使いがぜいたくな装束に身を固めた美しい男女たちー。こんな登場人物が織り成すドラマに、英国民はついつい熱中してしまう。「コスチューム・ドラマ」(時代モノ・ドラマ)は英国のお家芸の1つだ。英民放ITVの新ドラマ「ダウントン・アビー」を例に、時代劇が受ける理由に注目した。

 以下は「英国ニュースダイジェスト」最新号のニュース解説に補足したものである。(掲載分は電子ブックで読める http://www.news-digest.co.uk/news/index.php )

英国の「コスチューム・ドラマ」は何故受ける?

 英国の民放ITV1で、英国の貴族が住む大邸宅を舞台にした新ドラマ・シリーズ「ダウントン・アビー」(=邸宅の名称)が、9月末から放映中だ。

 ドラマの設定は1912年。第1次世界大戦勃発直前。イングランド地方の田園に建つカントリーハウス「ダウントン・アビー」で暮らすグランサム伯爵一家とその召使たちの数年間が描かれる。グランサム卿の跡継ぎに予定されていた人物が、沈没したタイタニック号に乗船していたことが分かり、一家は大パニックになる。グランサム卿には娘しかおらず、遠縁に当たる人物が邸宅を引き継ぐことになったからだ。「よそ者」に財産を引き渡したくないグランサム卿の母と妻は策謀をめぐらす。果たしてダウントン・アビーの将来はいかにー?

 「ダウントン・アビー」では、巨大な庭を持つお城のような邸宅に住み、毎朝、寝室から使用人を鈴一つで呼びつける貴族の贅沢な暮らしがテレビ画面を通して映し出されてゆく。優雅な暮らしを続けるグランサム伯爵一家を支えるのは、階段を上り下りしながら忙しく働く、使用人たちだ。「使う人」と「使われる人」という対照的な関係にある2つの階級に属する人々のドラマが展開されてゆく。

 「ダウントン・アビー」は、典型的な英国のコスチューム・ドラマ(あるい
はピリオド・ドラマ、日本流に言えば時代劇)の1つといえるだろう。過去のある時代にドラマを設定し、登場人物がその時代の衣装や建物の中で演技する。

 コスチュームドラマはすでに著名な小説などから、テレビ化あるいは映画化が多いが、「ダウントン・アビー」は脚本家ジュリアン・フェローズのオリジナル作品である。

 フェローズは上流社会を描いた映画「ゴスフォード・パーク」(2002年)の脚本でアカデミー賞を受賞している人物だ。1949年、外交官の息子としてエジプトで生まれ、俳優、小説家、映画脚本家、監督になった。妻はケント公伯爵夫人の女官エマ・ジョイ・キッチナーで、90年の結婚後、ジュリアン・キッチナー=フェローズに名前を変えている。

 ケンブリッジ大学やドラマ学校で勉学し、テレビ界で俳優としてのキャリアを積んだ後、「ゴスフォード・パーク」で一段と著名になった。映画監督デビューは「セパレート・ライブズ」(2005年)。ビクトリア女王を描いた「ヤング・ビクトリア」(2009年)のオリジナルの脚本も書いた。上流社会をテーマにした小説「スノッブス」を2004年に上梓。貴族、王室、上流階級の人々のドラマを手がけることが多い。

 コスチューム・ドラマと一口に言っても、選択する時代やドラマの種類は千差万別だ。古代の戦闘映画「ベン・ハー」(1959年)、エリザベス・テーラーが出た「クレオパトラ」(1963年)、シェークスピアもの「マクベス」(1971年他)、タイタニック号沈没を扱ったレオナルド・ディカプリオ主演の「タイタニック」(1997年)など、その扱うテーマや時代は幅広い。


ーオースティンが代表格

 しかし、英国のコスチューム・ドラマの中で一つのジャンルの域に達しているのが、18世紀から20世紀初頭を背景に描かれた、中・上流階級の恋物語と人間ドラマであろう。

 その代表格はなんといっても小説家ジェーン・オースティン(1775年生-1817年没)の数々の作品だ。現代からすれば少々窮屈そうな装束に身を包んだ男女が、直接的な表現が許されない時代の制約を受けながらも、最後はそれぞれの幸せな場所を見つけてゆくドラマは、現代人の心にも強く響く。

 「ダウントン・アビー」もそうだが、使用人を使う側と使用人として使われる側の対比を描くドラマも、繰り返し登場している。ITVが放映した「アップステーアズ、ダウンステアーズ」(1971-75年)は、ロンドンにある大邸宅を舞台に、「アップステアーズ=階上の使用人を使う側の世界」と「ダウンステアーズ=階下での使用人の世界」を描いた。その後、同様の設定のドラマが続出した。BBCはITVドラマの続き物を同題名「アップステアーズ、ダウンステアーズ」で制作中で、年内に放送予定といわれている。

―何故人気?

 時代モノは何故人気があるのだろう?番組制作者側からすれば、「一定の視聴率が稼げる」「すでに評価の高い小説を元にしているので成功率が高い」などの理由があるだろう。

 時代モノの専門サイト「ピリオド・ドラマ」によれば、人気の理由は「視聴者が現実を忘れて、没頭できるから」。つまり、「別世界」だから、と。歴史となった過去の日々へのノスタルジー感も喚起する。

 さらには、「うっとり感」もあるのではないだろうか。多くの人にとって、上流階級の暮らしや贅沢な所持品、装束は手の届かない、憧れの存在だ。その生活をドラマを通して垣間見ることで、一瞬でも、自分もその中の一部になった思いがする。その一方で、使われる側の人間ドラマに共感を抱く人も多いだろう。

 コスチューム・ドラマは、階級制度の名残が残る、英国らしい楽しみごとの1つのようだ。

*英国コスチューム・ドラマのトップ10(選定はPeriod Dramas.com による。www.perioddramas.com)

1 「北と南」(2004年、BBC)(時代設定:1851年、監督:ブライアン・パーシバル、原作:エリザベス・ギャスケル、脚本:サンディー・ウェルチ、主演:ダニエラ・デンビーアッシュ、リチャード・アーミテージ、一言:社会問題と恋愛物語が平行して進む。放映後、すぐにDVD化)

2 「高慢と偏見」(1995年、BBC)(時代設定:1811-12年、監督:サイモン・ラングトン、原作:ジェーン・オースティン、脚本:アンドリュー・デービス、主演:ジェニファー・エール、コリン・ファース、一言:ファースのダーシーを超える人はいまだいないかも)

3 「リトル・ドリット」(2008年、BBC)(時代設定:1805-26年、監督:アダム・スミス他、原作:チャールズ・ディケンズ、・脚本:アンドリュー・デービス、主演:マシュー・マクファーデン、ジュディー・パルフィット、一言:刑務所に入った父の面倒を最後まで見た可憐なドリットに幸せが訪れる)

4 「ジェーン・エア」(1973年、BBC)(時代設定:1829年、監督:ジョアン・クラフト、原作:シャーロット・ブロンテ、脚本:ロビン・チャップマン、主演:ソーカ・キューザック、マイケル・ジェイストン、一言:小説に忠実に作った作品として、米ワシントン・ポスト紙が絶賛)

5 「ジェーン・エア」(2006年、BBC)(時代設定:1829年、監督:スザンナ・ホワイト、原作:シャーロット・ブロンテ、脚本:サンディー・ウェルチ、主演:ルース・ウィルソン、トビー・スティーブンス、一言:ロチェスター役スティーブンスのニヒルな物腰と純真なウィルソンの演技が光る)

6 「分別と多感」(2008年、BBC)(時代設定:1795年、監督:ジョン・アレクサンダー、原作:ジェーン・オースティン、脚本:アンドリュー・デービス、演:ヘイテイー・モラハン、ダン・スティーブンス、一言:これまでなく性を前面に押し出した脚本といわれる。)

7 「ラーク・ライズ・ツー・キャンドルフォード」(2008年、BBC)(時代設定:1891年、監督:ジョン・グリーニング他、原作:フローラ・トンプソン、脚本:ビル・ギャラハー、主演:オリビア・ハリナン、ジュリア・サワルハ、一言:郵便局を舞台にした人間模様。地味だがついつい見てしまう作品)

8 「ある晴れた日に」(1995年、映画)(時代設定:1790年、監督:アン・リー、原作:ジェーン・オースティン、脚本:エマ・トンプソン、主演:エマ・トンプソン、ヒュー・グラント、一言:才女トンプソンが脚本も書いた作品。なぜかグラントが「弟」に見えてしまう)

9 「エマ」(2009年、BBC)(時代設定:1815年、監督: 、脚本:ジェーン・オースティン、サンディー・ウェルチ、主演:ロモラ・ガライ、ジョニー・リー・ミラー、一言:エマがあまりにも憎たらしいので新聞では酷評されたが、女優の名演技の証拠かも?)

10 「ブライト・スター」(2009年、映画)(時代設定:1818年、監督:ジェーン・キャンピオン、脚本:ジェーン・キャンピオン、主演:ベン・ウイショー、アビー・コーニッシュ、一言:詩人ジョン・キーツの恋物語。映画評は、どれも絶賛)
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by polimediauk | 2010-10-15 17:23 | 放送業界 | Trackback | Comments(0)

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