英国事情

2011年度の英予算案、経済の安定と成長を目指す

 英国民の目下の関心ごとの1つは、政府の新しい予算計画の下、生活がより良くなるのか悪くなるのかである。まあまあ生活には困らないが裕福ではない低から中・中流階級の負担が増える、という声が出るかと思うと、貧困家庭でも食物など生活必需品の購入をせざるを得ず、付加価値税(VAT)が高いので最も苦しむのは貧困家庭という声もある。ただ、「あっという間にお金が出て行ってしまう=エネルギー費、生活関連物資の価格が上昇している」という点は、収入が多い人も少ない人もひしひしと感じているかもしれない。

 連立政権側も野党労働党側も、どちらもややプロパガンダ的な意見の表明が多く、なかなか現状を見極められないが、政府が大幅に歳出を抑えようとしているのは事実だ。政府からの補助金はカットされるか、大きく増えることはない。そういう意味では、厳しい時代となる。あまり景気の良い話はない。

 3月末に発表された、財務大臣の「予算案」の中味を、「英国ニュースダイジェスト」最新号に書いた。

 しばらくすると、サイト上にも出る予定である。-以下のウェブサイトから、左側の「英国ニュース解説」を選ぶ。今現在は、リビアの話になっている。

 http://www.news-digest.co.uk/news/component/option,com_frontpage/Itemid,1/

 以下は、それに若干付け加えたものである。


 2011年度予算案、発表
 経済の安定と成長を目指す


 3月23日、オズボーン財務相が、2011年度の予算案を発表した。巨額財政赤字を抱える英国経済は、公的分野の大幅削減を余儀なくされている。果たして、この予算で、景気を回復するための経済成長を達成できるだろうか?

 2011年度の予算案(予算総額は2・3%増の7104億ポンド、約92兆円)には3つキーワードが掲げられている。すなわち、「強く、安定した経済」、「成長」、「公正さ」である。強く安定した経済の達成のために財政赤字解消策を維持し、成長のためには民間投資への支援策や規制緩和を行う、また、公正さ達成のために公正で効率的な税金・福祉・年金政策を実行することを挙げている。

―赤字削減策、成長策

 気になる財政赤字だが、2010-11年度の借入額は1460億ポンドになる見込み。予算案を実行すれば、2011-12年度は1220億ポンドとなり、これは前年度比で16・3%減。13年度末には700億ポンドまで減少することを目標とする。対GDP比では借入額は2010年度で9・9%。11年度はこれを7・9%に減少する予定で、15年度までに1・5%まで引き下げる方針だ。

 昨年発表した政府の財政再建策とは、付加価値税の引き上げ、歳出削減(公務員約49万人の削減)、補助金削減、省庁別予算の平均19%の圧縮など。財務相はこうした一連の赤字削減政策を11年度も維持するという。

 昨年11月、政府は今年の経済の成長見通しは2.1%、来年は2・6%と予想していたが、予算責任局(OBR)が算出した今年の見通しは1・7%となり、財務相は予想を下方修正せざるを得なくなった。

 銀行のバランスシートに対する課税率は0.075%から0.078%に、また北海での石油・ガス生産に対する課税率も20%から32%と大幅に引き上げられる。後者の課税率引き上げにより、政府は20億ポンド相当の歳入増を期待している。

 しかし、緊縮策ばかりでは経済は伸びてゆかない。そこで、成長のために財務相が発表したのは法人税減税の加速だ。現在28%の税率を26%にし、2014年までに23%にする。先進7カ国(G7)の中では最低となる。(ちなみに、フィナンシャルタイムズの計算と2011年予算の数字によると、ドイツは29・4%、カナダは31%、イタリアは31・4%、フランスは33.3%、米国は40%、日本は40.70%とあった。)

 同時に、中小企業向を対象に調査開発予算に対する税金控除率を12年度から大幅に増やす。21の経済特区を作り、特定地域での経済成長を促す。

 また、勤労と個人の責任を奨励する「公正で簡素、効率的な税金、福祉、年金体制」構築の具体策として、燃料税を予算案発表日の夕方から1リットルで1ペニー分削減するとともに、インフレ率の上昇につれて上がるはずだった燃料税の値上げに関しては先送りにした。若年層の失業者が増えていることから、今後2年間で、追加の8万人に対し、仕事の経験する機会を与える。また、65歳以下の国民の所得税の控除金額を来年から630ポンド上げ、8,105ポンドにする。新規に住宅を購入する国民への支援策、住宅ローン補助策も提供する、と述べた。

―評価と今後

 財務相の予算案をビジネス界は概ね歓迎したが、野党労働党のエド・ミリバンド党首は、政府の赤字削減の速度と規模が大きすぎることが、成長率の下方修正の理由だとして、財政再建策を続けて実行する予算案を批判した。26日にはロンドンで数十万人規模の人が、政府の大幅な公的分野の予算削減に抗議するデモに参加した。

 公的部門の大幅削減、補助金削減に喜ぶ人はいないが、赤字を減らすための緊縮策を「仕方ない」と思う人も案外いる。調査会社YouGovによると、予算で「財務相が正しい選択をしたと思うか」と聞かれ、37%が「間違っている」としたものの、34%が「正しい」と答え、29%が「分からない」としている(サンデー・タイムズ3月27日付)。財政削減の規模について聞かれ、最も多かった答えが「正しい規模。しかし、もっと時間をかけてやるべき」(29%)。これに「正しい規模」(25%)が続いた。削減自体には同意する意見が大部分を占めたのだ。

 公的部門に勤める人を中心に失業者が増える厳しい数年間が続きそうだが、財政を再建し、経済が上向くためにはほかに選択肢はないのが現状だ。「トンネルの先の明かり」が見えるまでの辛抱の時なのだろう。
 
関連キーワードBudget Box:予算箱。
 財務相が予算案の演説を財務邸から下院に運ぶために使う、赤い皮におおわれた箱。150年ほど前、当時のグラッドストーン財務相が、中は黒繻子、外は赤い皮の箱を作らせ、演説を入れて運んだことがきっかけ。予算案発表の日、財務邸の前に立った財務相が予算箱を手に持って、報道陣のカメラに納まるのが、現在では恒例になっている。1965年、キャラハン財務相が慣例を破り、初めて新たに作らせた予算箱を使った。1997年以降、ブラウン財務相も新たな予算箱を使った。昨年、オズボーン財務相はグラッドストーンが使ったオリジナルの予算箱を使ったが、箱の傷みが激しいため、今回は新しく作らせた箱を使った。
by polimediauk | 2011-04-07 21:01 | 英国事情

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