小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

アサンジはスウェーデンに移送されたほうがよい、という見方も

 内部告発サイト「ウィキリークス」の創始者ジュリアン・アサンジは、スウェーデンでの性的暴行容疑を巡り、滞在中の英国からスウェーデンに移送されるべきかどうかー?

 アサンジがロンドンで逮捕された(自ら出頭して、逮捕)のは、昨年12月。その後、アサンジ側は裁判に訴え、現在まで移送を拒んできた。

 今月2日、ロンドンの高等法院(刑事事件の第2審にあたる)は、「アサンジはスウェーデンに移送されるべき」という一審判決を支持する判断を出した。

 世界の大企業や各国政府が隠しておきたい情報を暴露することで名をはせたウィキリークス。アサンジの性的暴行容疑は、サイトの業務やその評価とは、本来、別物の話である。

 しかし、アサンジ側はスウェーデンに身柄が移送されれば、米国への引き渡しにつながる可能性があるとして、移送を拒んできた経緯があった。

 米国といえば、近年、自国が主導をとったイラク戦争やアフガン戦争などに関する機密情報や、外交公電をウィキリークスに暴露され(情報自体は、米兵ブラッドリー・マニングがウィキリークス側に渡したといわれている)、「アサンジ、憎し」の状態にあるーーといっても、まあ、どの程度「憎し」かどうかは分からないが、いずれにせよ、何らかの処置をとったことを見せないと、機密情報が暴露されたのに、指をくわえたままで何もできなかった、というのは米政府側としてはしめしがつかない。

 そこで、米国はアサンジに対し刑事責任を追及する可能性が指摘されており(着々と準備を進めているとも言われている)、そうなったら、アサンジ側としては、いまだ確定はしていないものの何らかの罪で(「スパイ罪」など)「有罪」となる「かも」しれないー。

 ということで、アサンジ側は、米国への身柄引き渡しにつながるような、スウェーデンへの移送に対し、ずっと抵抗してきたのである。

 ご存知のように、「スウェーデンでの性的暴行」事件とは、2010年夏、オーストラリア人のアサンジが、滞在していた英国からスウェーデンに旅行をし、この時に性的関係を持った2人の女性が「アサンジに暴行を受けた」と主張している事件。アサンジは国際指名手配され、同年12月、ロンドン市内で逮捕された。現在は、保釈中の身である。

―EAW(European Arrest Warrant)を使われて

 英国に滞在中のアサンジがスウェーデンに移送されるのは、スウェーデン当局からの依頼によるものだが、移送の根拠として使われるのが「ヨーロピアン・アレスト・ウオレント」(欧州逮捕状、EAW、2003年施行)。欧州連合加盟国間での、主に刑事事件に関わる容疑者の引渡しについて、容疑の証拠を十分に示さなくても、引渡しを要求できる。欧州連合内の容疑者の身柄引き渡しを、よりスムーズに行うために作られた仕組みだ。

http://en.wikipedia.org/wiki/European_Arrest_Warrant

 アサンジ側は、「スウェーデンでは公平な裁判が期待できない」などとして抵抗してきた。

 そして、2日の高等法院は、移送を認める判断を出し、アサンジは報道陣に「次の手段を考える」と述べている。

 今後は、最高裁に訴える方法が考えられるが、ウィキリークスは資金難(米外交文書の公開後、米系クレジットカードの会社などが、ウィキリークスの活動資金の取り扱いを凍結した)に苦しみ、当面、活動を停止した状態だ。裁判費用を負担するためにアサンジが考えついたのが自伝執筆だが、出版社と締め切り時期などに関して意見が衝突。結局、著作権保持者であるアサンジの了解を得ないままに、9月、出版社が本を出す顛末となった。出版社側は既に支払い済みの、一部の前金以上に、アサンジ側に支払いをする予定はないと述べており、アサンジは、財政的には苦しい状況にある。果たして、最高裁に訴えるほどのお金を調達できるだろうか?

―「スウェーデンに行ったほうがよい」?

 米「フォーブス」のジャーナリストで、以前にアサンジに単独インタビューをしたこともあるアンディー・グリーンバーグが、「ジュリアン・アサンジは何故スウェーデンに行ったほうがよいのか」という記事を書いている(2日付)。

http://www.forbes.com/sites/andygreenberg/2011/11/02/why-julian-assange-might-be-better-off-in-sweden/

 グリーンバーグが取材した弁護士たちによれば、親米である英国の司法に身をゆだねるよりも、「予測がつかない」スウェーデンの司法にゆだねたほうが、アサンジにとって、有利ではないかという。「英国にいつづければ、スウェーデンに移送された場合よりも、もっと早く米国に連れて行かれるだろう」(弁護士ダグラス・マクナッブのコメント)。

 一方、アサンジ自身は、スウェーデン司法との戦いの「真相」を、新たに立ち上げたサイト(「スウェーデン対アサンジ」)に詳細に書いている。
http://www.swedenversusassange.com/

 「ガーディアン」報道によれば、アサンジの弁護士側は14日以内に、最高裁に上告する権利を取得するための司法手続きをするかどうかを決めるという。もし上告しないと決めた場合(裁判費用を負担できないなどの理由から)、あるいは上告する権利を却下された場合でも、欧州人権裁判所に「移送は人権違反」と訴える可能性もある。

 あっさりと移送が決まってしまうのか、それとも長い戦いとなるのか、今月中旬には少しは判明しそうだ。
by polimediauk | 2011-11-03 12:39 | ウィキリークス