小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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映画「ハリー・ポッター」はどうやって作られた? 英スタジオ・ツアー

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 世界中にファンを持つ、英作家JKローリングが書いたファンタジー小説「ハリー・ポッター」シリーズ。

 今年3月、英国に「ザ・メイキング・オブ・ハリー・ポッター」という博物館ができた。ここには実際の映画撮影で使われた衣装や小道具がたくさん置かれている。ハリー・ポッターのファンばかりか、本を読んでいない人、映画も見ていない人にも「楽しめる内容になっている」―という話を実際に行った人から聞いた。

 博物館には、(配給会社の)「ワーナー・ブラザーズ・スタジオ・ツアー・ロンドン」 http://www.wbstudiotour.co.uk/ という名前も付いている(以下、「スタジオ」と呼ぶ)。

 先日、このツアーに参加してみた。まず、ロンドン・ユーストン駅からワトフォード・ジャンクション駅まで電車に乗る。約20分ほど。そこからシャトルバス(片道1・20ポンド=150円ぐらい)でスタジオへ。

 バスの中では、スタジオの敷地の歴史を語る動画が上映される。第2次世界大戦中は、国防省のためにここで戦闘機が作られていた。その後は飛行機のエンジンを作る工場となり、「リーブズデン・エアロドローム」と呼ばれていた。1994年に工場は閉鎖され、その後は映画用音響施設、セットの組み立て場所になった。

 映画になったハリー・ポッターシリーズのセットを再現するスタジオ構想ができたのは2000年ごろであった。

 中に入ると、短い紹介の映画を見た後、広々とした宴会場に通される。ここはホグワーツ魔法魔術学校の「グレート・ホール」だ(上の写真はホールにつながる大きなドア)。俳優たちが着用したシャツやガウンがずらりと並ぶ。実際に映画で使われた本物である。

 グレート・ホールを抜けると、チョコレートの数々(本物は熱で溶けてしまうので、プラスチック製)、カツラやコスチューム、魔法学校の少年たちのベッドルーム、ダンブルドア校長先生の部屋など、次々とセットが再現されてゆく。

 本当に細かいなあと思うのは、校長先生の部屋にあった油彩の肖像画だ。複数の肖像画はすべてが映画の美術担当者たちが実際に描いたものだ。

 来る前に、「インタラクティブ性が楽しい」と既に行った人から聞いていたが、例えば、台所の流しにあるフライパンを洗う動作を、ボタンひとつで訪問者が動かせたりできる。

 私自身が圧倒されたのは、CG使いを説明をする場所だった。魔法使いのほうきがついた自転車が空中に吊らされており、その後ろのスクリーンの中で、この自転車を使っていかに空中戦のイメージを作り出したかを技術者たちが説明する。目の前の単なる自転車が、映画の中では空飛ぶ自転車に変身する。まさに映画の魔術である。

 途中で訪問客が車やほうきに乗り、空を飛ぶ様子を撮影してもらうコーナーもあった。

 ツアーは2つの建物に分かれており、最初の建物を見終わって次の建物に入る前に、小さな広場があった。ここには橋や家が再現されていた。石や木の節々に色濃く生える緑の苔を見て、随分古い材料を使っているなあと思ったのだが、近くにいたスタジオのガイドによると、「苔はすべて作ったもので、本物ではない」という。思わず、再度、そばによって見てしまった。

 第2の建物に入ると、手や本などの小道具にいかに生命を吹きこんで、動くようにするかが分かる展示になっている。小道具の数々の後ろに大きなスクリーンが設けられ、スクリーンの中から、俳優たちが説明をしてくれる。説明が終わると、「じゃあ、次に行こう」と言ってくれるので、一緒にスタジオを回っている感じがした。

 そして最後の最後―。私にとっては最も感動的な展示があった。魔法学校のセットだ。

 セットの周りには手すりがあって、ここに設置されたスクリーンが、眼前にあるセットがどのように映画で使われたかを説明する。これを見ていると、スタジオに入ったときから何度も思った、あることがまた頭の中によみがえった。

 それは、ここには英国のクリエイティブパワーが結集している、こうやって英国は世界に自分のクリエイティビティを発信している、ということ。

 うらやましくもあり、鳥肌が立つようにも感じもた。日本だったら、何を世界にアピールするだろう?-もちろんたくさんあるのだけれども、英国のクリエイティブ産業の底力をスタジオツアーでしみじみと感じた。

 最後のほうには、ショップがあって、随分と人が集まっていた。中国から来たジャーナリストの女性が、「ハリー・ポッターの映画はとてもセクシー。大好き」と、お土産に買った魔法の杖を片手に話してくれた。「ずーっと、ここに来るのが夢だった」。

 出口の近くにはカフェがあって、私もチーズサンドイッチを買って、一休み。

 チケットだが、訪問前にオンライン上で予約が必要だ。その場では買えないのだ。大人一人で28ポンド(3360円)、子供は21ポンド。家族4人だと83ポンドというセット価格があった。交通費とランチ代を含めると、100ポンド(約1万2000円)は軽く超えるだろう。これを高いと思うかどうかー?ハリー・ポッター熱の具合でその判断が決まるのだろう。
by polimediauk | 2012-08-31 22:21 | 英国事情