ネット業界

スクープはツイッターから生まれる -英記者たちの太っ腹SNS活用法 (下)

―暴動をツイッターで中継 実名記者ルイス氏の場合

 英新聞界のツイッター利用で著名な記者の1人がポール・ルイス(@PaulLewis)だ。昨年夏、ロンドンを中心に暴動が発生したが、このとき、ルイスはスマート・フォンを片手に現場で見たことを次々とツイッターで細切れ報道した。暴動発生から最初の数日間は紙のノートにメモは一切取らなかったという。

 細切れのツイッターが1つのまとまりのある原稿に仕上がってゆく。ルイスにとって、ツイッターとは、事件の現場から報道をする際の最初の一歩である。「長い解説用の記事などは、後でじっくり書けばいい」(今年3月、ロンドンのメディア会議での談)。

 暴動発生から1年となる今夏、ガーディアンは昨年を振り返る特集記事を掲載した。BBCの記者がツイッターで「そろそろ、新しいネタを探すときじゃないのか?」と書くと、ルイスは「これほどの大きな事件は、11ヶ月経っても議論に値する。他の人が同意しなくても構わない」とつぶやき返した。ツイッターは所属媒体を乗り越えた、記者間の情報交換や議論の場になっている。

 ツイッターには他人のつぶやきを「リツイート(RT)」という形で自分のフォロワーに流す再発信機能があるが、RTやほかの有益な情報を選別して流すことで、発信者は情報のキュレーターになる。

 これを率先して人気を集めたのが、スカイ・ニュースの番組制作スタッフの一人、ニール・マン(@fieldproducer)だった。多様なニュース素材を自分なりに選別して、ニュースの時系列を作るマンのツイートは、同業者の間にもファンを多く持った。

 例えば、中東の「アラブの春」の報道では、スカイ・ニュースが発信した情報にこだわらず、より情報が早い通信社や中東のテレビ局の特派員、現場にいる市民のツイートなどを拾って、ツイートした。情報源の広さや即時性において群を抜いていたため、英記者・編集者の間で人気沸騰のアカウントとなったが、他局のスクープ流布に参画したことにもなったマンは、スカイ・ニュースにいづらくなったのか、後に転職(本人は転職理由を明らかにしていない)。現在は、米ウオール・ストリート・ジャーナル紙のソーシャル・メディア・エディターとして、最新のニュースを発信している。

―裁判傍聴席からもツイッター発信OKに

 2010年末、裁判所の認可があれば傍聴中の記者が法廷からツイッターでつぶやいてよいという暫定指針が出た。ツイッターはジャーナリズムの1手段としてお墨付きがついた。11年12月には、裁判を傍聴取材する記者が事前の許可なしにツイッターや電子メールで法廷から外部につぶやくことが原則、認められた。

 先に、日本のメディア関係者の懸念事項として、「炎上」が話題に上ったと書いたが、英国の例を見る限り、それほど問題視されていないようだ。政治家や著名人の失言が大問題となることはあるのだがー。といっても、読者からの無礼なあるいは中傷めいたコメントが記者ブログに付くことは日常的に発生している。編集部の承認後に画面に出るようにする、読者に違法なコメントについて通報してもらうなど、様々な手段が講じられている。

 ツイッターが誤った情報の流布につながって大恥をかいたのが、民放チャンネル4の「チャンネル4ニュース」の司会者ジョン・スノーだ。昨年7月、約10万人のフォロワーを持つスノーは、ある大衆紙での電話盗聴事件にからみ、別の大衆紙の元編集長で現在はCNNで番組を持つピアス・モーガンが番組を辞したとツイートした。後にこれが真実ではないと分かり、スノーは謝罪した。情報発信が簡易なツールには、こうした落とし穴が常にある。

 チャンネル4ニュースは、番組の司会者と記者全員がツイッター・アカウントを持ち、ブログを書く。ウェブサイト担当者によると、記者のツイートを発信前に確認はしない。指針は「放送中に言えないことは、ネット上でも言わない」ことだ。

 記者が所属組織の一員としてツイッターし、多くのフォロワーを作った後で転職した場合、フォロワーは誰のものになるのだろうか?これが問題として浮上したのが、元BBCの政治記者ローラ・クエンスバーグの場合である。

 2010年9月までBBCに所属していた同記者は@BBCLauraKというツイッター・アカウントで、5万8000人を超えるフォロワーを持っていた。その後、民放大手ITVに転職した。経済記者となっての新たなアカウント名は@ITVLauraKである。フォロワーは現在、8万人を超えるが、BBC時代のフォロワーの大部分がITV移籍後に、新アカウントに移動したと推測されている。

 このとき、BBC時代のフォロワーをITVに「持って行った」クエンスバーグに対し、「フェアではない」という批判が出た。ツイッターは何に、あるいは誰に所属するのだろう?個人の顔が見えるメディア(ツイッターなど)を組織が使うという現象によって、判断がつきにくい状況が生まれている。

―ガーディアンとBBCのソーシャルメディア方針

 ガーディアン紙は、同紙の編集規則及び新聞業界の自主団体・英報道苦情委員会の倫理規則、ネット上の言論空間における編集方針によってソーシャルメディアの使い方を規定している。

 自社サイト内のブログやネット上に読者から寄せられた意見について、記者あるいは編集者が「建設的な意見交換に従事する」、「事実の根拠をリンクで示す」、「事実と意見の違いを明確にする」などが基本姿勢となる。

 同紙のアラン・ラスブリジャー編集長は率先してツイッターを利用している。09年には国際石油取引会社による汚染物廃棄をツイッターで暴露した。

 BBCは、記者がサイトのコンテンツに参加する場合と、BBCの記者であることを表明しながらも個人としてソーシャルメディアを利用する場合に分けて、それぞれのガイドラインを作成している。(BBCという名前を一切使わない、純粋に個人的なネット活動についてはガイドラインの対象外とする。)

 いずれの場合も、基本姿勢は「メッセージを利用者に『放送する』(注:「一方的に流す」という意味であろう)のではなく、会話を通し、参加する」、「BBCの評判を落とさない」、「議論の管理は最小限にするー利用者を信頼する」、「オープンで透明性を持って対処する」だ。

 日本で、ツイッター指針の策定に役立ちそうなのが、BBCの「公式ツイッター利用者へのアドバイス」である。

 業務の一環としてツイッターを始める場合、以下の6つの点を考慮に入れる必要があるという。

 ①まず、上司と相談して許可を得た後、ソーシャル・メディア・エディターや視聴者から寄せられる素材を処理する係りの担当者など関係部署に連絡を取る

 ②BBCの公式ツイッター・アカウントはBBCニュースの一環となるので、この点を踏まえた上で、BBCの記者として関連する分野の事柄についてつぶやく

 ③打ち解けたトーンを維持し、情報の受け手と双方向性を保つ

 ④ツイート内容は自分が担当する領域についてのニュース、分析だが、関連情報や仕事の舞台裏、いま何を取材しているかについてつぶやいたり、出演する番組のお知らせや、フォロワーから情報を求めることも可

 ⑤フォロワーの反応に常に返答する必要はないが、フィードバックを得たり、自分が追っているネタのヒントが見つかるかもしれない

 ⑥リツイートには注意する、これは内容に賛同していると思われるからだ。

―「実情にあわない」 試行錯誤続くルール作り

 BBCニュースのライバルとなるスカイ・ニュースの内部向けガイドラインによると、同ニュースの記者としてのアカウント使用時、「自分が関与していないニュースについてはツイートしない」、「他局のニュースを再発信しない」、「スクープ情報は最初に編集デスクに連絡し、その後にツイートする」などの規定がある。

 先述したが、スカイ・ニュースには、ツイッターで多くのスクープ情報を出してきたニール・マンというスタッフがいた。自局以外の情報源からも情報を取得し、これを再発信して人気を集めたが、他局のニュースを再発信することを抑止する規定があったことを、ガーディアン紙が、今年2月7日、報道した。「記者の口を封じる動きだ」、「自由な情報の拡散を阻害する」などの批判がネット上に流れた。

 報道の翌日となる8日、BBCはスクープ報道に関わる新規定を発表した。ツイッター・アカウントを持つ記者がスクープ情報を入手した場合、BBCのニュース編集室に書面の形でまずその情報を提出するようにと書かれてあった。ツイッターによって不特定多数の人にスクープが届く前に、まずはBBC内で共有しよう、という考え方だ。

 しかし、これは24時間の報道体制で動く実情に適応しないとBBC内外で批判が起き、当初の発表から24時間も経たない9日昼に、追加情報が出された。「先の文書は、ツイッターでスクープを出すなということではない」、「この方針も変わる運命にある」などと、トーンダウンしたメッセージを出した。

ー時計の針は元に戻せない! RCジョーンズ記者の豪胆

 BBCのテクノロジー記者ローリー・ケスラン=ジョーンズ(@BBCRoryCJ)は、8日付ブログの中で、スクープとツイートについて触れ、「時計の針は元に戻せない」と書いた。昔は、「ニュース・デスクが絶対的な権力を持ち、スター的存在の選ばれた記者だけが署名記事を書き、新聞が印刷を開始する前に、あるいは定時のニュース番組の放送前に、記者が外部とニュース情報を共有したら、首も覚悟の重罪だった」。しかし、「そんな時代はもうほとんど、過ぎ去ってしまった」。

 BBC内部にスクープ情報を出すことを優先するべきと上司から通知されても、「もう遅い」と書くケスラン=ジョーンズのブログはBBCのニュースサイトの中にある。ブログのエントリーから5ヶ月経つ現在も削除されていない。コメント欄を見ると、エントリーに同意するコメントがあるかと思うと、「誰があなたの給料を払っているんだ?ツイッター利用者か、それともBBCか?」という厳しいコメントもある。これもそのままである。このブログ・エントリーやコメントの残し方に、私は英メディアによるソーシャル・メディア活用の1つの特徴を見る思いがする。

 ケスラン=ジョーンズのような、組織のやり方への堂々とした批判は、言論の自由がここまで徹底されていることを示す。「時計の針は戻せない」というのは真実であり、この記者がこの点を指摘せずにお茶を濁す表現に終始したらば、ネット上のやり取りに長けた感覚を持った読み手は、この記者の矜持や報道の質を疑うかもしれない。ひいては、言論機関としてのBBCにも疑いの眼を向けるかもしれない。

 しかし、「言論の自由」というややお堅い言葉を持ち出すまでもなく、様々な言論が飛び交うネット上で持論を展開にするには、思わぬ事態の展開に超然として対処することが必要ではないかと思う。面の皮を厚くして、太っ腹でいることだ。この記者のブログのエントリーを見ていると、この太っ腹さを感じる。

 組織に所属する記者がソーシャル・メディアを試みる場合、太っ腹さの度合い、つまりは何をどこまで言うべきかが経験則で分かってくるのではないだろうか。多少の批判が寄せられても、こちらの方針や言論を撤回するほどのものなのか、スルーしても良いレベルのことなのかが見分けられるようになるのではないか。

 英国の記者によるソーシャルメディア利用の手法は、今後も試行錯誤で変わるだろうが、視聴者・読者が生息するソーシャル・メディアの世界に入ってきて、果敢に情報を発信する様子を見ていると、利用者の方を向いて、一緒にこの時代を走っている思いがし、心強い。(「Journalism」8月号掲載分より)

***

参考資料:

「ソーシャルメディア活用進む -英大手メディア、ガイドライン作り発信」(新聞協会報、2012年3月27日号、小林恭子著)
ガーディアン紙の規定:
http://www.guardian.co.uk/sustainability/media-responsibility-social-media-csr
BBCのガイドライン
http://downloads.bbc.co.uk/guidelines/editorialguidelines/pdfs/social-networking-bbc-use.pdf
http://downloads.bbc.co.uk/guidelines/editorialguidelines/pdfs/social-networking-personal-use.pdf
BBCのツイッター規定 http://news.bbc.co.uk/1/shared/bsp/hi/pdfs/14_07_11_news_official_tweeter_guidance.pdf
公式アカウントを持つBBC記者の一覧
http://www.bbc.co.uk/news/help-12438390
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by polimediauk | 2012-09-11 15:12 | ネット業界 | Trackback | Comments(0)

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