新聞業界

イギリス高級紙タブロイド化現象を追うー2

何故英タイムズ紙のタブロイド判は「いけてない」と判断されたのか?

 イギリスの高級紙タイムズが、同じく高級紙のインディペンデントの後を追い、通常の大型判と同時に小型タブロイド判の平行発行に踏み出したのは昨年の11月。インディペンデントの9月末の平行発行から2ヵ月後だった。

 最初に勇気ある一歩を踏み出したインディペンデントはそれだけで「偉い」。しかし、いかにも「後追い」となったタイムズは、それだけで若干価値が低くなってしまう。新聞はニュース、何か新しいネタが命。2番手となったら、もう最後でも同じ。

 それと、タイムズの場合は編集長の力の入れ方が若干違う・・・ように、外から見えた。

 これには若干の説明が必要となろう。タイムズ編集長ロバート・トムソン氏は元ファイナンシャル・タイムズ紙の優秀な記者で、オーストラリア人。タイムズを所有しているのはメディア王ルパート・マードック氏。マードック氏はもともとオーストラリア人。

 トムソン氏は40代半ば。まじめでおとなしそうな感じで、年齢よりは若干若く見える。昨年冬、ロンドンにある外国プレス協会のランチに出席した編集長は、「マードック氏から編集方針に関して指図されたことはない。全て自分が決めている」と宣言したものの、集まった報道陣でこれをそのまま受け取った人はほとんどいない。マードックのあやつり人形、という人もいる。マードック氏は今のところ現政権を支持しており、その姿勢が紙面にも色濃く現れているというのがメディア業界の大勢の見方だ。

 タブロイド判をやりたくても、もしタイムズが最初だったら、「マードック叩き」が始まる、例えば、「マードックが、質の高い高級紙を低俗なタブロイド紙のレベルに下げた」と言われるのを恐れて、2番手を選択したと、マードック氏はインタビューなどで語っている。「インディペンデントが最初にやってくれて、よかった」と。

 タイムズのタブロイド判発行開始は、いかにも、「上が決めたので、やりました」という構図がみえみえだった。

 経営上の判断からタブロイド判化を決定し、編集部がそれにしたがう、という流れそれ自体は悪いことではないだろう。

 しかし、トムソン編集長は、どうもタイムズがタブロイド判を発行することに対して、一種の恥ずかしさ、照れくささを持っていたようなのだ。イギリスではタブロイドというとサンを初めとするスキャンダル紙と思われるので、高級紙タイムズがタブロイド判を発行することを、一種の恥・・・だと。スーパーで売られている歯磨き粉の容器の大小をみて、「これだ!」とひらめき、情熱一杯でタブロイド化を推進したインディペンデントのサイモン・ケルナー編集長とは大違いだ。

 結果、どうしたか?

 タブロイド判の平行発行から2週間ほど経てからの先のランチの場で、トムソン編集長は、タブロイドを「コンパクト判」と呼んでいた。「僕はコンパクト判と呼びたい」。

 当時は大判とタブロイド判を同時発行していたので、「タブロイド判だけに将来はなるのか?」と聞かれると、「いや、そんなことはない」と宣言した。

 しかし・・・・。1年後の今年11月、先にタブロイド判のみになっていたインディペンデントの後をまた追って、完全タブロイド判化した。

  創刊から200余年の歴史を持つタイムズには、伝統を重んじる読者も多い。大判に愛着を持っていた読者は苦情の手紙をタイムズに送りつけ、一部の読者は大判のままのデイリーテレグラフ紙の編集長に「こっちに移ります」とする手紙を書いたりするという現象が起きた。

―レイアウトの迷い

 さて、小型になった紙面のレイアウトをどうするか?

 タイムズは長い間、どうやればベストなのか?を決めかねていた。

 最もインディペンデントと差がついたのは1面だった。インディペンデントは目立つ見出しと写真で、一種のポスターのような1面を作り、人気が出た。これをそのまままねするわけにはいかないだろう。

 すると、小さくなった紙面に、これまでのパターンで1面を組むものだから、ちょっとごちゃごちゃした紙面になった。インディペンデントよりも大胆に、人目を引く1面にすることは、不可能だった。

 平均2本の記事を組み合わせた1面。特に特徴もインパクトもない1面・・・。人々が、タイムズの1面を見て、よい意味での驚きと興味に引かれ、思わず手に取る・・・ことはなかった。

 「タイムズは大判の紙面をタブロイドに入れているだけ」とする評価が下った。そして、発行部数の増加率に大きな差がついていった。

 しかし、タイムズを応援し、インディペンデントをこき下ろす人が現れた。

 それは、ライバル紙ガーディアンのアラン・ラスブリジャー編集長だった。


 
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