小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

映画「日本のいちばん長い日」 -現在と重なる部分、重ならない部分

 ブログサイト「BLOGOS」と松竹映画が共同で主催した映画「日本のいちばん長い日」の試写会に、先月末、足を運んだ。真夏の盛りの1日で、汗だくで東京・銀座の松竹の試写室に入った。

 戦後70年ということで、2015年現在の自分にとってこの映画がどう映るのかを確かめてみたかった。上映後のジャーナリスト田原総一郎氏と漫画家小林よしのり氏のトークにも大いに興味が湧いた。

 皆さんご存知のように、映画(原田眞人監督)は作家半藤一利氏のノンフィクション「決定版 日本のいちばん長い日」(文春文庫)が原作だ。1967年には岡本喜八監督が三船敏郎氏の主演で映像化している。

 戦争、そして日本でいちばん長い日と言えば、1945年8月15日の終戦記念日のことだ。降伏するのか、本土決戦を選ぶかを巡って、政治家たちが苦悩する日々をドラマ化している。

 公式サイトの紹介や物語の筋を読むと大体の流れが分かるが、15日の昭和天皇による玉音放送までのてんまつは、日本人であれば、知らない人はいないといってよいだろう。

 何故この映画が、今、作られたのか?

  戦後70年と言うことが背景にあるようだが、原田監督のBLOGOSでのインタビューを読むと、以前から構想があり、「昭和天皇を魅力的な人間として描きたい」という思いがあったという。昭和天皇が主役の映画「太陽」(2006年)でイッセー尾形が演じた天皇が「違うな」と思ったそうだ。

 戦争をテーマにしている、終戦にまつわる報道が増える夏に公開・・・と聞いただけで、戦争を好意的なトーンで描くのかな、だとしたら、それは一体どうなのか、とひねて考えてしまう自分だが、この映画については、すっと抵抗なく物語の中に入っていけた。

 一つ、映画を観ていて、「ああ、これは見たことがある」という思いを持ったことがある。政治家や軍人がこの先をどうするかをなかなか決められない中、天皇による「ご聖断」を待つ動きに、東京五輪に向けての新国立劇場建設についてのドタバタが重なった。誰も責任者がいないようで右往左往する、2015年のスポーツ関係者の動きだ。

 70年前の止むに止まれぬ状況と、現在の政治家やスポーツ組織の上層部の迷走振りを並列させるなんて、滅相もない話なのだろうけれどー。2015年の今だから、こんなことを言えるのだろうけれど。

 途中で、若い兵士たちが徹底抗戦を望んで、クーデターを試みる。その血気盛んな様子を見ていて、非常に悲しくなった。最期は結局、無理だったことが今となっては分かるせいだろう。今日まで米国と言う敵を倒すことに全身全霊を傾けていて、明日から終戦と言われても、納得がいかないだろうし、体もそうはいかない。

 話の展開を追うことに集中していたら、座席から飛び上がるほどに驚いたのが、爆撃されたときの音だ。東京大空襲の後の焼け野原の様子もありありと映された。原爆落下も。東京の試写室に座っているだけの自分だが、すさまじさを感じたし、怖いと思った。こういう場面を体感するだけでも、この映画を観る価値があると思った。

 最期は昭和天皇のご聖断で映画は静かに終わる(本木雅弘氏の演技が秀逸)。

 映画が終わる頃、私の頭は「何故」で一杯だった。それは、先ほどの「ドカン!」という爆撃・爆弾落下の音や映像による衝撃がまだあったからだ。悲惨な焼け野原の光景も見た。当時、米国は敵だった。それなのに、70年後の現在、日本人は米国が大好きのようである。何故なのか。いつから、どうやってそうなったのだろう?

「敵=米国」から、「米国、大好き」へ

 皆さんも不思議に思ったことはないだろうか?日本人の米国好きについて。

 70年前の日本では米国は敵だった。それが何故、現在に至るまで、米国への大きな好感が日本に存在するのだろうーこれが大きな疑問だった。国によっては、現在に至るまでも旧敵国を憎み続ける場合もあるのだから。

 広島、長崎に原子爆弾を落とされた衝撃は相当のものだったはずだ。どうやってこれを呑み込んで、先に進めたのだろう?

 私が(勝手に)理解しているところでは、戦後、米政府(進駐軍政府)による、徹底的な軍備排除政策及び親米策がとられたからだと思っている。しかし、それ以外にもたくさん理由があるだろう。

 敗戦国としての日本ばかりか、ほかの多くの国にとっても、経済的にはるかに豊かな国、米国は憧れの国として映ったはずだ。

 日本の場合は、他に何か理由があるのだろうか?

 そこで、上映が終わった後、田原氏に「何故そうなったのか」を聞いてみた。その時の様子はBLOGOSの記事に掲載されている。

 同氏によれば、3つ理由があった。一つは「憲法」、「日本国民は民主主義という考え方にしびれた」、「日本は戦後、経済復興に力を入れるようにされたから」だった。国防については考えなくても良いような政治がずっと続いてきたのである。

 以下、原文を書き取った部分である。(文中の「小林」は「小林よしのり」氏のこと。)

田原:日本人がアメリカを好きになっちゃたのは、結局、小林(よしのり)さんがダメだと言っている憲法だね。

憲法にはアメリカにとって3つの目的があった。1つは日本を弱体化すると。再び戦争を出来ない国にすると。

もう1つは、日本を徹底的な理想的な民主主義の国にしたと。それで、言論・表現の自由、男女同権、基本的人権の尊重。これにね、日本人は相当しびれたところがある。「いいじゃないか」と。

そしてもう1つ。戦後日本は、経済の発展のためには、エネルギーのほとんどを使ったの。安全保障は、ほとんどアメリカに委ねちゃったんですよね。委ねて、なんとなく安心したと。そこがあるんじゃないですか。

安全保障をアメリカに依頼するってことは、実は外交の主権をアメリカに委ねちゃってるんですよね。今になって、そこに気がついて、さあ、どうするかっていう問題になっている。

by polimediauk | 2015-08-26 22:13 | 日本関連