英国事情

欧州難民・移民危機 「英国の事情」コメント

 21日に、ネットの放送局「ホウドウキョク」の「あしたのコンパス」という番組に電話出演しました(午後9時半ごろ)。トピックは欧州の難民・移民問題でした。

 話したトピックは「英国の難民対策」でした。放送用にまとめたメモが以下です。このまま話したわけではありませんが、英国事情のご参考として見てくださると幸いです。

シリア難民が増加した要因は?

 シリア難民は2011年のシリア内戦からずっと発生してきていたのですが、最近、例えば去年の4月ぐらいから、欧州に行き着くためのゴムボートが沈没して、何人もの方が亡くなったりなど、目につくようになったかと思います。ずっと続いている問題ではありますが。

 難民発生の原因は内戦ですよね。イスラム過激派組織、イスラム国(IS)がシリア、イラクで拡大している、と。シリアのアサド政権の軍隊、反アサド勢力、そしてISの戦いが内戦になっています。かつて、米英側は反アサド勢力に支援(軍事、資金)をしていましたが、ISを討伐するための、米を中心とした有志連合が、シリアに空爆を無数に行っている状態です。それでも、ISは力を減らしておらず、空爆はほとんど功を奏していないと言われています。

 もう、近隣のそれぞれの国にはだいぶ逃げていますし(トルコには190万人とか)、レバノンにもたくさん。

 その次の波として、欧州にまで逃げてくる人がどんどんいる、ということですよね。

ドイツを目指す難民が多い理由は?

 政治的にドイツが受け入れを積極的にやったためと、西欧は経済も好調ですし、難民支援もしっかりしていると、難民側が知っている、ということでしょう。

 メルケル首相のリーダーシップで、前からEU各国に受け入れを求めてきましたが、それがうまい具合に行かず、例のアイランちゃんの写真事件もあって、緊急受け入れ策を講じました。それでも今や、アップアップ状態ですね。

EU各国の難民への対策や、英国の状況は?

 EU各国ですが、欧州委員会が中心になって、前に、それぞれの国ごとに割り当てるようにしましたが、これに全員が賛成していません。英国も参加せず。14日の会議でも、義務化は無理だったようですよね。

 英国の難民受け入れですが、まず、「移民・難民」は近年の英国政治で非常に大きなテーマになっています。「欧州」もそうです。英国はもともと欧州が嫌いと言いますか、ブリュッセル(欧州委員会、EUなど)への不信感を持っています。統合を深化したくないのです、一人でやっていける、ということで。ユーロに参加していませんし、国境でパスポートのチェックをしない「シェンゲン協定」にも入ってません。

 2004年に欧州連合に東欧諸国がどっと入りました。このため、ポーランドなどの旧東欧からたくさんの移民が入ってきました。すると、英国人の仕事を取られたと思う人がでてきました。実際、学校とか公的サービスは窮屈になっています。そういう流れで、EU脱退を望む英国独立党が人気になりました。2017年までに予定されている、EU加盟についての国民投票実施もこの流れです。

 現保守党政権ですが、公約として、「移民のネット数を減らす」としています(ネット数とは、英国から出て行った人と、やってきた人の数を合計し、その差を表します。純移民数)。年に10万人に抑える、と。ところが、最新の情報では、30万人ぐらいになっていましたーー30万人分、人口が増えているわけです。大失敗。何せEUに入っていれば、自由に英国に来れますし、英語は国際語だし、仕事はあるし(好景気)で、どんどん入ってくるわけです。

 ・・・という背景があって、キャメロン首相はずーっと、EU/メルケル主導の「難民割り当て策」にはずっと否定的・反対でした。なるべくかかわらないようにしてきました。

一枚の写真が変えた

 でも、9月2日、シリア難民男児アイランちゃんの死体が海岸に打ち寄せられ、世界中の同情を買いましたね。これで、難民を助けると言わざるを得なくなりました。また、ドイツはメルケルさんが受け入れに積極的なので、「それに比べて、フランスや英国はなんだ!」という批判の声が内外で高まったことも、プレッシャーになりました。そして、7日、難民キャンプからシリア難民を2万人受け入れる(今後5年間で)と発表しました。数日後には、レバノンやヨルダンにある、シリア難民の収容所を訪れました。

 アイランちゃんの写真が出たことで、英国民の中でも「なんとかしなければ」という思いが募っています。チャリティー団体が子供たちに物資を送るために運動したり、12日には、難民支援のためのデモが発生しました。野党労働党のコービン新党首が、党首に選任された直後に駆け付けたのが、ロンドンのこうしたデモの1つでした。

 プレッシャーをかけられたために「2万人」という数字を出しましたが、世論調査では難民の受け入れに消極的な人が結構多いです(半分以上)。

 内務省によると、今年6月までの1年で、英国の難民申請数は2万55571人。シリア難民は2024人。BBCによると、申請者の約6割が認定を却下されたそうですね。

 ドイツのような大陸の欧州(それぞれが地続き)と英国(海を隔てている、心理的には欧州より米国に親近感)とでは、この問題、大きな温度差がありますよね。

 英国は欧州内ではこの問題では独自のスタンスですよね。ほかの国が「受け入れ」を言っているのは、今現在、地続きでやってくる難民たちのことですね。ところが英国は、先にも言いましたが、シリア近辺の難民キャンプにいるシリア人を受け入れる、と言っているのです。今、国を出て欧州に向かう人は危険な道を通っているから、そういう危険な方法を奨励したくない、というスタンスです。ある意味、当たっていますが、口実のように聞こえなくもありません。

米英(仏)の責任は?

 米国が急きょ、1万人のシリア難民を受け入れることにしたそうですね。また、2016年度からは難民受け入れ枠を拡大するという報道がでましたよね。欧州を訪問中のケリー国務長官が、20日、明らかにしました。現在は年間およそ7万人で、16年度には8万5000人、2017年度に10万人に拡大するようです。

 米英はイラク戦争を主導したり、シリアの反アサド政権の武装組織を助けるために、支援をしてきたということらしいので、「シリア難民を作った責任」があるよう気がしてなりません。リビアからの難民も多いですが、リビアを爆撃などして、カダフィ大佐を引きずりおろしたのは、英仏でしたからね・・・。

 また、ドイツに今回入ってきた難民の出身国を調べたら、シリアが一番多かったそうですが、ほかの国もかなり多かったようですね。その1つがアフガニスタンと聞きました。米英などがアフガニスタンに侵攻したのは2001年10月です。9.11テロの直後ですね。結局、今もアフガニスタンは国として非常に課題が多い状態になっています。
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Commented by りくりくめり♪ at 2015-09-22 09:51 x
興味深く読ませていただきました。
番組見たかったですが見逃し残念です。
今後、YouTubeなどで見ることは可能ですか?

英国与党の純移民数を減らすという公約は、知らなかったので合点がいきました。
事情通でもないし、素人がただニュースを見ての印象で恐縮ですが、
英国の移民問題といえば、私は昨年報じらたロザラムのパキスタン系移民と議員によるレイシズム禁止を嵩にきた事件をパッと思い出しました。
世論は警戒しているのかと思ったのですが、
キャメロン首相の姿勢に反対するデモが起こったり、他の西ヨーロッパ諸国とは違う方法でも受け入れ数の増加を決めたイギリス人って立派だなぁ、という印象で観ていました。
実際、あの事件がイギリス国民の移民や難民への印象に影響することはなかったのでしょうか?

また、何かのニュースでは、「受け入れ増加はカンタベリー大司教が圧力をかけたため」というようなことが言われており、
しっかり根差した宗教にあまり馴染みの無い国育ちとしては、「宗教指導者の言葉ってそんなに影響あるものなのか」と見ていましたが、
実際はどうだったのでしょうか?

難民受け入れに関しては、中東の比較的政情安定していた国の中産階級の人たちと聞き、
他人事ではないし日本も含め先進国の務めなのかなぁ…と個人的には思うのですが、
費用や、素性が分からないリスクを考えると、それでもとは言いづらい状況ですね。
逆にイギリスやドイツでも反対層は多いのに堂々と意見することは許されない状況のように
はたで見ていて感じます。
Commented by kimaruri at 2015-09-23 23:32 x
1916年にサイクス・ピコ協定で、宗派を無視した国境線を引いた英仏露の責任は小さくないような気がします。ただ、当時、シーア派とスンニ派が現在のイラクにおけるような深刻な対立状態にあったかどうかは、日本で得られる程度の情報では判然とせず、三か国のご都合主義にもあまり大きな責任は無いかもしれません。
ただ、Wikipediaによると、アサド大統領が権力の基盤とするアラウィ派は、クリスマスを祝うようにキリスト教的側面を持った教義で、イスラム教諸派の中では異端色が強いようです。既に、11世紀にはシーア派の神学者に「彼らを殺すことはムスリムの義務である」と言われています。

異民族であるトルコの支配下では対立は深刻なものではなかったようですが、フランス支配時にフランスにすり寄ったアラウィー派は多くの軍人を排出し、独立後も実力主義の軍隊を志望するアラウィー派が多く、結局先代アサド大統領の独裁を支えることになったようです。
どこに書いてあったか忘れましたが、アサド大統領が権力を失えば、多数派のシーア派の恨みを買っているアラウィー派が今度は深刻な迫害の対象にされることは明らかで、そのため、シリアの人口の約一割のアラウィー派の人々は、アサドの独裁を徹底的に支持する以外に選択肢は無いのだそうです。アサドもイラクのフセインの二の舞は嫌に決まってるので、権力維持のために毒ガスを使うのを躊躇しないのもこのためでしょう。
ISはもちろん、シーア派が権力を奪えばこんどは200万のアラウィー派が命からがら一斉にシリアから逃げ出す難民になります。

モロッコからオマーンの間でふらつきながらも民主主義国らしいのはチェニジアくらいです。非アラブ世界でアラブ世界を一番理解しているのはヨーロッパ諸国だと思いますが、アラブの春などと言って賞賛していたのは浅薄な理解であったと言わざるを得ません。パキスタン以東のイスラム諸国は曲がりなりにも政権交代がある民主主義国ですが、アラブ世界は民主主義でなくても啓蒙専制的独裁なら良しとすべきではないかなと思いますね。

スコットランド戦を中継してます。
連勝してほしいですね (^^)
by polimediauk | 2015-09-22 07:39 | 英国事情 | Trackback | Comments(2)

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