小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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タイムズ紙の終戦日の評価


「傷はまだ癒えず」

 英BBCラジオを先日聞いていて、終戦記念日は8月15日だったが、広島と長崎への原爆落下の後、アメリカ側が、日本が降伏するのかどうかの返事を待ち続け、その答えを受け取ったのが12日だったという。そこで12日も、1つの「記念日」であるとして、番組の中で当時の米政府関係者の短いコメント、回想が放送された。

 英国では、日本、ドイツに限らず、自国・連合国側の戦いなどを常時メディアで取り扱う。戦後60周年たったということで書かれた保守系新聞「タイムズ」は、13日付で「傷はまだ癒えないーアジア人にとって、日本は、和解のための必要なステップを踏んでいない」と題する社説を掲載した。

 以下は、その大体の訳である。
 
第2次世界大戦の終結から60周年の記念日が月曜日(15日)にあたる。欧州人の心の中ではそれほど明確に意識されていない日だ。ドイツの敗退の1945年5月と日本の降伏の8月15日の間に、この戦争全体の中でも最も血みどろの戦いが、避けられない敗退にも関わらず、残忍に闘った日本軍に対し、広い東亜圏の劇場で繰り広げられた。連合国軍側で犠牲の矛先に立ったのが米軍だった。

犠牲者は軍隊ばかりか市民にも大きかった。爆撃は日本の都市を灰にしていった。今週のタイムズの特集号に出ていた、ブライアン・マッカーサー氏の「剣を行きぬくSurviving the Sword」は、収容所で解放を待っていた12万3000人の戦争捕虜たちの状態を生き生きと描いた。最長4年もの間拘束された捕虜達は、収容状態があまりにも残忍なので最終的には四人のうち一人が命を落とすほどだった。日本軍に穴を掘るように言われた捕虜達だったが、この穴が最終的には墓になっていった。ワシントンでは、トルーマン大統領が、非常に困難な決断をするべきかどうか、考えあぐねていた。日本を侵略して、特に日本の一般市民に対して処罰を加えるような方向に行くべきか、原子爆弾を使って、日本に衝撃を与え降伏に持ち込むか、だった。

日本に勝利した日(VJ Day)は、吐き気を覚えるような世界の始まりとなった。(欧州)戦勝記念日(VE Day)のような安心感と喜びをもたらさなかった。前者は、60年たっても、アジアでは苦い思い出と憎悪を感じさせる日だ。欧州人にとって、戦勝記念日とは、かつての敵同士が和解することができる日だ。戦争捕虜の問題はいまだに続いているもの、西欧からすると、日本は、国際的な市民権の義務を承知する民主主義国家だ。しかし、アジアでは、日本はこうした見方をされておらず、信頼もされていない。

日本だけが悪いのではない。日本は、戦後、アジア地域に大きな援助をすることで、経済の復興を支援してきた。また、アジア諸国の中で穏健さを求め、協力を呼びかけてもきた。中国を見ると、過去と対決できないのは日本だけではないことが分かる。

 しかし、それでも、日本は、大げさかもしれないが繰り返される(過去の歴史に関する)悲しみや後悔の声を把握することが困難なようだ。正しい償いへの要求を満たすことができないでいる。議論をかもし出した教科書を認定したことで起きた怒りを、政府は、日本の教育方針が「誤解された」と主張している。学校には選択の自由がある、というのは正しい。日本の学校でこの問題となった教科書を使っているのは全体の1%だということも正しいだろう。しかし、元々、選択の中にあるべきではない。ドイツでは、ナチの歴史を美化することは許されない。日本でも、自国の利益のために、少なくとも、同様の厳しさが必要だ。

by polimediauk | 2005-08-13 20:28 | 日本関連