小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

デンマーク風刺画その後


「独立メディアに対し、政府は編集上介入できない」

 以前の記事 (1月14日付のエントリーに、エコノミスト記事の翻訳があります。今となってみると、やや深い感じがしますので、ご参考までに。) http://ukmedia.exblog.jp/i27

ーーーー

 デンマークの新聞がイスラム教の預言者ムハンマドの政治風刺画を掲載し、波紋が広がっている話の続きだが、アルジャジーラ英語版サイト(31日付)のロイターの報道によると、いくつか関連の動きがあるようだ。イメージとして、象徴的というか、波及しやすい事件なのだろう。

 31日、この風刺画を昨年9月掲載したユランズ・ポステン紙は、声明を発表した。、「この風刺画はデンマークの法律に違反してはいないが、多くのイスラム教徒を疑いもなく侮辱した。これに対し、私たちは謝罪する」。

 イラクの「ムジャヒディーン軍」と自称するグループが、インターネットで声明を発表し、在イラクのデンマーク軍やノルウエー軍をターゲットにして攻撃する、と述べている。ノルウエーでも一部の出版物が同じ風刺画を掲載していた。デンマークは。約530人の軍隊をイラクに派遣している。デンマーク軍がパトロール中、その前を走っていたイラク警察の車の中で、爆弾が爆発したという。この爆発が風刺画に関係あるかどうかは、現時点では分かっていない。

 サウジアラビアが抗議のためにデンマーク大使を帰国させており、宗教団体のリーダーたちがデンマーク製品のボイコットを呼びかけている。湾岸のほかの国でも、スカンジナビア諸国からの製品が棚から取り去られたケースがあるという。スーダン政府は来訪予定だったデンマークの政府高官に来訪の延期を要請し、デンマーク製品の不買運動も呼びかけている。

 スーダンの外相ジャマル・イブラヒム氏は、「これは預言者ムハンマドに対する侮辱だ」とし、不買運動を呼びかけたことを認めた。

 デンマークのラスムスセン首相は、ユランズ・ポステン紙が謝罪声明を出したことを歓迎したが、デンマーク政府としての謝罪はしなかった。「デンマーク政府は自国の新聞のために謝罪をすることはできない。アラブ諸国にもそう説明した。独立メディアに対し、政府は編集上介入できない」。

 首相は、30日、EUに事情を説明し、EU側は、状況次第ではサウジアラビア政府が奨励している不買運動をWTOに持ち込む可能性も示しているという。

 デンマーク外務省は、サウジアラビアへの必要外の訪問を自粛するよう呼びかけ、イスラム教諸国の訪問時には注意するように、としている。

 同じスカンジナビア諸国のスエーデンもヨルダン西岸やガザ地区への訪問を自粛するように呼びかけている。

 10数人のパレスチナ人たちは、ガザにあるEU本部の建物の前に、ライフルや手榴弾を持って集まり、謝罪を要求し、デンマーク人やノルウエー人が危険な状態にある、と叫んだという。この中の数名がライフルを空に向かって撃ち、デンマークやノルウエーの旗を燃やした。

 昨年の中国での反日「運動」の例を考えてみても、こうした例は、比較的一部の人が関わっているだけ、という部分もあるかもしれない。それにしても、象徴的な意味で、デンマークに対するプレッシャーは強まる一方のようだ。ある意味では、風刺画の掲載で、西欧側に対するイスラム教徒諸国の抗議のための新たな火種を作ってしまった、新たな理由を作ってしまった形となった。

http://english.aljazeera.net/NR/exeres/3688AD34-7D10-4CBC-8460-40C60A0A869B.htm

 
by polimediauk | 2006-02-01 00:09 | 欧州表現の自由