小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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風刺画 ロンドンのデモに4000人


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                (デモの様子・BBCオンラインより)

 11日、ロンドンのトラファルガー広場で開催された、風刺画問題に抗議するためのデモには、4000人近くが集まったようだ。

 3日、デンマーク大使館前で行われた抗議デモには「7月7日の再来を望む」などの過激メッセージが書かれたプラカードがあったり、デンマークの国旗を焼くなどの行為があり、後で問題視された。また、参加者の一人の男性が、自爆テロ犯の格好をし、これも一部の国民から反感をかった。この青年は後で謝罪声明を出した。(薬物の売買に関わった件で、数年間刑務所に入った青年だった。この後、現在、刑務所に戻されている。)

 今回のデモは、一切そうしたことがないように、という英国ムスリム団体ら主催者側の狙いで運営された。

 イスラム教徒に対する恐怖心(イスラムフォビア)に対して、イスラム教徒たちが団結する、という目的の下、提供されたプラカードだけを使い、手製のプラカードは原則使えないことになっていた。開催にはキリスト教団体も協力し、ロンドン市長のサポートも入っていた。

 「一部の過激派イスラム教徒」から、そのほか大勢のイスラム教徒を切り離したイメージを作ることも狙いだったという。

 BBCのレポートによれば、29歳のイスラム教徒ハニファ・ブルカ氏は、「預言者に関して悪口を言うのは間違っている。全ての正直なキリスト教徒にメッセージを送りたい。私たち全員が兄弟である、と」。

 現在イラクで人質になっているノーマン・ケンバー氏の友人で、キリスト教グループのパックス・クリティーの代表であるブルース・ケント氏は、「世界の正義と平和のために」、様々な宗教団体が協力するべきだ、と集まったデモ参加者に呼びかけた。

 ロンドン警視庁によると、参加者の中で逮捕者はいなかったという。約500人の警官が警備にあたった。

 開催前、イスラム政治思想団体のディレクター、アザム・タミミ氏は、BBCの取材に、デモは平和的なものになるだろう、といっていた。「目的は起きたこと(風刺画掲載)に関して洗練された方法で意義を唱えることだ。怒りを示す権利はあると思うが、合法的に物事をすすめること。他の人の権利にも、敬意を表することだと思う」。

 恐らく、「コントロールされすぎていた」という批判があるだろうが、デモ、といっても、国によって随分やり方が違うなあと思わざるを得ない。特にロンドン市長のサポートがある、というのだから・・・。

 たまたま、昨日、ロンドン近郊の駅の売店で雑誌を買ったら、右派週刊誌「スペクテーター」を読んでいる売り子がいたので、風刺画問題をどう思うのか、聞いてみた。

 「僕はイスラム教徒だけど、他の人はどうか知らないけれど、ちょっとなあって、思うんですよ。僕だって、預言者の風刺画はいやだけれど、抗議で旗を焼いたりするイスラム教徒もイスラム教徒ですよ。いやだけど、ふーん、って言って、笑って済ませて、次に進めばいいのにねえ」。

 「怒りは怒り」。しかし、「日々の生活はどんどん進む」・・・。英国のムスリムの大部分がそう思っている可能性も大きい。

 サイレント・マジョリティーというか、「過半数のムスリムたち」の声が、どこにも出てきていない、という記事をガーディアンで読み、テレビで若い女性パーソナリティー(ムスリム)も同様のことを言っていたが。

 英国に住むイスラム教徒の国民の大部分は、「頭にくる」ことが起きた、だけど、「特に地団太踏むことでもないや」、と思っているのかもしれない。

 ただ、国が変わると、この感情は随分違うのだろうと思う。特に、その国の指導者が、どれぐらいあおるかで、かなり違うことだろう。

 英国では、旗を焼いたり、大使館を攻撃したり、あるいは自爆犯の格好をしたり・・といった行動は、「クールじゃない」と見られていると思う。そんなことをしたら、「だからイスラム教徒はダメなんだよ、まともに話ができないんだよ」・・と、逆効果になってしまう。実際、非ムスリムの英国民から、旗の話や大使館の話を例に出して、「全く、だからイスラム教徒は・・」という言葉を非常にしょっちゅう、聞いたものだ。

 
by polimediauk | 2006-02-12 07:35 | 欧州表現の自由