小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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これまで143紙以上が掲載 + テレグラフの訂正記事


 「共に生きるようにするべきだ」

AFPなどの報道によると、2月末の時点で、世界56カ国の143の新聞がムハンマドの風刺画12枚のいずれかを掲載したという。紙媒体での掲載とオンライン掲載を含む。デンマークのジャーナリズム機関Danish School of Journalismが発行するオンラインの雑誌、eJour, の調査結果だ。

 143の中で殆どは欧米の新聞だ。70が欧州紙で、14が米紙だった。カナダとニュージーランドでそれぞれ1紙、オーストラリアでは2紙、日本では1紙だった(日本はどこも掲載していないように思っていたが??)。イスラム教国では、アルジェリア、ボスニアーヘルツェゴビナ、エジプト、インドネシア、ヨルダン、マレーシア、モロッコ、サウジアラビアでも掲載された。米国では全国紙で掲載したところがなく、14紙はいずれも地方紙だった。

 本日の時点では、さらに増えている可能性もあるだろう。

http://www.news24.com/News24/World/News/0,6119,2-10-1462_1890298,00.html

 一方、英デイリーテレグラフ紙が、風刺画関連で訂正をしていた。

 前に、デンマーク風刺画問題で、「何故デンマークでこんなことが?」という疑問を書いたときに、デンマーク女王が、自伝の中で既に移民、ムスリムたちにやや否定的なことを書いている、と教えてくださった方がいらした。デイリーテレグラフの昨年4月の記事だった。

 この記事には、実は翻訳のミスがあったという。ミスに気づいたのは、テレグラフ・オンラインがきっかけだ。テレグラフのサイトでは過去記事が1996年までさかのぼって無料で見れるが、昨年4月のデンマーク女王の記事へのアクセスが急激に伸びていたそうである。風刺画事件と関係あるため、と分かったのだが、その中で、ある箇所に間違いがあることに気づいた。テレグラフの最初の記事では、女王が、デンマーク国民に向かって、イスラム教に対する反対・抵抗(オポジション)を示すよう、呼びかけていた、というような文脈になっていた。

 ところが、テレグラフのスカンジナビア特派員(記事を書いたのはベルリン特派員なので、別人)が気づいたところによると、テレグラフの誤訳記事のために、反デンマーク感情を増幅させている状況が起きているらしいので、特派員はその旨をテレグラフの外報デスクに報告した。

 また、在ロンドンのデンマーク大使が同様の趣旨の指摘をテレグラフにメールで送っていた。

 そこで外報デスクが問題の箇所を確かめてみると、「オポジション」という訳は、AFPやAPの報道でも使われていた言葉だったが、大使によると、もともとのデンマーク語の翻訳としては「カウンターバランス」(勢力の均衡)の方が正しかったのだという。

 この指摘に対し、記事を書いた特派員は、翻訳が間違っていたことを確認。(間違えたのはAFPやAPの方ではあるのだが。)

 そして、テレグラフは4月の記事をオンライン上で訂正する。


 直った記事がhttp://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2005/04/15/wqueen15.xml
 
 見出しが、デンマーク女王 「私たちにはイスラムに対するカウンターバランスが必要」。

 最初の段落では、「イスラム原理主義に対するカウンターバランスをとることが必要・・・」となっており、結末部分を読むと、この意味が説明されたような格好になっている。

 記事の中で女王は、伝記作家アネリセ・ビストラップ氏に、不満を抱くムスリムの若者たちが宗教に避難場所を見つける可能性があることを理解している、と述べていた。もっと社会融合が進むように、ムスリムたちにデンマーク語を学ぶように奨励するべき、という考えを披露している。

 「隣に住んでいるということだけで満足してはいけない。共に生きるようにするべきだ」。

―――

 自伝全体を読んでいないので、正確な判断がしにくいが、相手を拒絶するのではなく、融合を提唱する考えの持ち主のように、書き直された記事からは見える。

 いずれにせよ、翻訳が間違っていた、という部分は事実のようだ。

 テレグラフ(大手高級紙)が、よくここまでやったなあ、と感慨深かった。

 英文記事が訂正された日付は2月16日。

 ネットのおかげで、メディアの説明責任が高まった、とするテレグラフのコメントに含蓄があるように思えた。
by polimediauk | 2006-03-04 01:20 | 欧州表現の自由