小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

英地方選とブレア


大きな流れが始まったのか?

 イングランドの地方選が終わり、政権党の労働党があまりにも負けたので(300議席ほどを失い、得票率でも、保守党40%、自由民主党27%という野党の数字に比べて、26%)、何故だろう?と思い続けて、今朝の新聞各紙をめくっていたら、いくつかおもしろい指摘に出くわした。

 まず、外相(だった、というべきか)のストロー氏が、下院院内総務という職についた。これは、「降格」のようだ。2003年のイラク戦争の前後からずっと外相で、そつなく仕事をこなしてきたようにはた目からは見えたのだが。タイムズ紙などによると、もともとストロー氏は下院院内総務の職をやってみたい、と希望していたそうだが、「こんなに早くこの職につくとは思っていなかっただろう」と見られている。

 ストロー氏が何故降格となったのか?理由は一様ではない。まず、次期首相の最有力候補であるブラウン蔵相にやや近づきすぎていた、という点(ブラウン氏とブレア氏は長年のライバル同士)や、米国務長官のライス氏が訪英したとき仲のいい場面が報道され、「自分より注目を浴びた」ストロー氏に対して、ブレア氏が反感を感じた、という点。

 こういった点はちょっとゴシップ的だが、それに加え、外交筋の情報として、イラン問題があった、とする報道があった。ストロー氏は、このところBBCのラジオ番組などで、(濃縮など核関連活動の全面停止を要求している)イランへの武力行使はない、と言い切っていたようだ。あくまでも外交ルート=話し合いを通じて、問題を解決していく、と。これが、ブレア氏側の「どんな手段も例外としない」とする姿勢とはあわなかった、というのだ。ストロー外相が、イラクへの武力行使を当初反対していたというのは既に周知だが、イランに対しても同様の姿勢を貫いている・いたようだ。

 いずれの理由にしろ、驚いた人事だった。ブラウン氏が首相になった際には、返り咲くだろうか?

 一方で、もう一つの焦点は、ブレア氏がいつ退陣するのか?だ。

 ファイナンシャル・タイムズのジャームズ・ブリッツ記者の記事がおもしろかった。

 ほぼ4年ごとに行われている英総選挙だが、前回が2005年だったので、次は2009年ごろになる。ブレア氏は、1年半ほど前に、第3期目(現在)は最後まで全うするが、第4期目はない、と宣言している。いつ退陣して、次をブラウン氏に譲るのか?とメディアに執拗に聞かれ、もし時期をはっきりさせれば、報道フィーバーがおさまる、と願っての発言だったと言われている。

 4期目の前に退陣する、ということは、実質的には2008年ごろに退陣か?とする説が有力となっていたが、5日の内閣大改造は、自分はいつまでも首相でい続けるという意思を示し、「残酷にもなれる」ことが分かった、とするブリッツ氏の記事には、「プレッシャー下の残酷さBrutality under pressure」という見出しがついている。

 ブリッツ氏にある閣僚が語ったところによると、首相になって10年目となる2007年5月、ブレア氏が退陣する可能性がある、という。多くの労働党員及び一般国民の間でもブレア氏に対する信頼感が薄らいでいるからだ。大量破壊兵器の存在を訴え(これが開戦理由ではなかったが)、米政府と共にイラクへの武力攻撃を開始したブレア氏だが、イラクの現在は泥沼化している。

 イラク戦争以来失われた信頼感を、ブレア氏は「とりもどしていない」と、労働党批判者がブリッツ氏に語っている。「ブレア氏が自分たちの声を代弁している、と思わせる力」は、なくなった、と。

 ここまではブレア氏の話なのだが、最後の部分が、私自身、やっぱりなあ、と思ってしまった。

 ブレア氏からブラウン氏の権力譲渡がいつ起きるかという問題よりも「はるかに重要なのは、イングランドの地方選挙で、10年間野党になっていた保守党が国民から高まる支持を受けている事実が明確になった点だ。大きな問題は、もはや、ブレア首相がいつ退陣するか、ではない。ブレア氏が率いる政党に対する、英国民のロマンスが終わりに近づいているのか、どうかだ」。

 労働党から保守党への政権交代を促す大きな流れが出てきた、と言っていいのだろうか?


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 (追記)

 夕方ラジオを聞いていたら、タイムズの外交記者マドックさん(という名前だったと思う。後でもし違っていたら訂正します・外交問題専門記者)などがコメンテーターとして出ており、ぼんやり聞いていたら、え?!と思ったことがあった。

 それはイランのことだが、外交・話し合い路線で事態を解決しようとしていたストロー氏が外相のポストからはずれたので、これが、イラン側から見れば、英政府側の「強攻策をこれからとるぞ」、という風に取られている可能性が大きい、というもの。そして、ストロー氏の話し合い路線が少しでも意味を持っていたのは、現在のイラン政権の前の政権の時までだという。

 今度の外相ベケット氏は女性。イスラム国イランからすると、「女性の外相」であることで、何らかの意味があるのかどうか?と聞かれたマドックさんは、「ない」と即座に否定。(やっぱりな、そうだよな、と納得。)しかし、ベケット氏自身がどのような外交手腕を発揮し、どのような方針でやっていくのか、「全く分からない」ということで、そういう意味での不安感、警戒感はあるかも、という。

 イラン問題でストロー氏を外相のポストからはずした・・・という説にこれでもっと信憑性が出てきたような気がするが・・・。



 
by polimediauk | 2006-05-07 00:26 | 政治とメディア