小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

テロについて考える-2 アルカイダ分析レポート

 9・11テロから5年にもうすぐなろうとしている。

 こちらのテレビでは記念になるようなドキュメンタリー、ドラマが放映されている。きっと米国でもいろいろあるだろう。

 BBCウエブを見ていたら、オサマ・ビンラディンが、9・11テロの実行者と会っていたテープをアルジャジーラが放映した、という。今回も、かなり注目されることだろう。

 「テロの戦争・テロとの闘い」という一種のドラマを見ている思いさえする。実際よりもお互いにお互いを大きく見てはいないだろうか?

  ・・と思っていたら、英王立国際問題研究所がアルカイダの現況の分析レポートを発表し、「テロの戦争」がアルカイダのイメージアップに貢献した、という箇所があって、うなづく部分があった。

www.chathamhouse.org.uk/pdf/research/mep/AlQaeda0806.pdf


 レポートを書いたのは現在ボストンに住み、このシンクタンクの中東部門のアソシエト・フェローのマーハ・アッザム氏。

 サマリーから若干抜粋してみたい。

―国際的な組織としてのアルカイダのイメージは、米国やその同盟諸国によって良くなった。これは米国などが意図した動きでなかったのだが、結果的にそうなった。
ーしかし、米国を主導的立場を取って、地球的規模で警備チェック体制が厳格になったので、これが、アルカイダの通信能力、財政、リクルートメントのネットワークを、かなり弱体化させた。
―アルカイダの最も重要なプロパガンダの成功例の1つは、テロと地域紛争(例えばイスラエルーパレスチナ問題、イラクなど)との間にリンクがある、という考えを広げたことだ。
―中東地域での政治状況の現状維持は続いており、マドリードやロンドンでテロは起きたけれども、イスラム教徒の間では、アルカイダのサポートは減少した。
 
 アザム氏談「9・11テロから5年経ち、アルカイダの現況には相反するような要素が見える。力のあるテロ組織というイメージは広がったが、リーダー達は洞穴に隠れて生活しており、アラブ世界のイスラム教徒たちはテロ攻撃と暴力の行使をイスラム教の名前を使って行うことに反対する人が増えている」。


 全部訳すと時間がかかってしまうのだが、印象に残ったのが(繰り返しになるが)

―ヨルダンなどでのテロの後、中東のイスラム教徒の世界では、アルカイダに対して、支持が少なくなっている傾向があること
―イスラム教の名を使ってテロ・暴力を起こすことに対し、多くのイスラム教徒や、教義を考える学者レベルの人々も、論理性が一貫していないと思われていること
―その一方で、欧州に住む若いイスラム教徒の一部の間で、支持があること
―何故欧州に住むイスラム教徒の男性たちがアルカイダに惹かれるのかは、米国の中東政策、親米国の中東諸国の政治体制に対する不満など、こうした「テロをする根拠」の部分にシンパシーを感じるため。世界中で西側によってイスラム教徒が殺害されている、と感じる。
―米国を主導とするテロの戦争などが、実際よりもアルカイダを大きなもの、すごいもの、というイメージを作っていること
 ―西側社会は、自国内で生まれるテロリストをどうするか、という課題に直面している
―9・11テロ時点では予想できなかったが、結果的に、欧州に住むイスラム教徒の移民の立場が厳しいものになっている。
 特に、英国のシンクタンクのせいか、欧州に住む人にとって、切実なメッセージが入っている。
by polimediauk | 2006-09-08 04:34 | 英国事情