小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

アルジャジーラ特集ー2 アルジャジーラは今 (下)


 日本は参院選のニュースで一杯のようだ。今日付け英各紙は日本の新聞が報道したことをまとめた感じだが、結構まともにスペースを割いている。

 昨晩(英国の)の時点で日本の新聞の英語版を見たところ、私の古巣だったデイリーヨミウリにはまだ解説のような記事がなく、APの記事をたくせん載せていることに驚いた。紙面ではAPもロイターもよく使っていたが、ウエブでもOKとなると、ブランドとしての「デイリー・ヨミウリ」はどうなるのだろう?アサヒ・コムの英語版には解説記事が載っていた(こちらの昨晩時点)。アサヒコム英語はインターナショナルヘラルド・トリビューンの一部になっている。日本の新聞の英語版には外国陣がすごく入っている感じがした。悪くはないが(世界の英語メディアではそうしているところが、たくさんあるので)、自前で出せないものかなあと思う。結局、英語で解説を直ぐに読みたいなら、BBCになってしまう。といってもBBCもふかーいものはなかったけれど。

 アルジャジーラの記事に戻る。ドーハでアラビア語版の編集局NO2の人に取材した。

ベリタ2005年11月06日掲載

<アルジャジーラはいま(下)> 「西欧メディアの二重基準に挑戦」 ジャバーラー副編集長 
アルジャジーラ特集ー2 アルジャジーラは今 (下)_c0016826_5405846.jpg カタールの24時間放送の衛星テレビ、アルジャジーラは、報道が偏っているとか、故意に残酷な映像を流している、という批判をイラク政府や米政府などから受けてきた。それに反駁するため頻繁にメディアに登場してきたのが、報道内容と質の統括をしている副編集長アイマン・ジャバーラー氏である。激務のあいだをぬって日刊ベリタのインタビューに応じてくれた同氏は、西欧メディアのダブルスタンダード(二重基準)を指摘し、「視聴者の求める真実を追究するためにすべての重要な意見を提供するのが、アルジャジーラの編集倫理だ」と強調した。
 
 エジプト生まれのジャバーラー氏は、アルジャジーラの1996年の放映開始からのスタッフの一人だった。一時はアルジャジーラを離れ、アラブ首長国連邦の衛星テレビ局アルアラビヤの立ち上げに関わった。その後、アルジャジーラに戻り、副編集長に。アラブ諸国のテレビ界に長年関わってきたジャバーラー氏は、業界の流れとアルジャジーラの編集方針や今後を聞くうえで最適任者とされる。 
 
▽カタールのピラミッド 
 
―アルジャジーラの出現で、アラブ諸国のテレビ界は変わったと思うか? 
 
ジャバーラー氏:間違いなく変わったと思う。はっきりと変わったと思う。生ぬるいお湯の中に嵐を起こしたのがアルジャジーラだったと思う。だからこそ、多くの視聴者が見てくれたのだと思う。表現の自由への地平線を開いてくれた。民主主義を求めている人へ道を開いた。自由なメディアを求めている人々にとって、ひとつの具体例となったと思う。政府が運営していない、初めてのアラブのチェンネル、独立した視点を持つチャンネルだからだ。 
 
―「独立」メディアというが、アルジャジーラはカタールの国家元首ハマド首長が声をかけて設立され、運営資金の殆どは政府が負担している。カタール政府から編集上の干渉、あるいは報道規制はないのか? 
 
ジャバーラー氏:幸運なことに、これまでどんな干渉もなかった。カタール政府とアルジャジーラの間で、カタールにとって、アルジャジーラは非常に重要な、大きな存在だということが理解されているからだと思う。エジプトのピラミッドのようなものだ。エジプト人たちはピラミッドを支配できない。自分たちの思い通りにピラミッドを使おうと思っても、できない。ピラミッドのおかげで、エジプトの名が世界中に知られている。 
 
 カタール政府も同じことだ。アルジャジーラが、現在のように自由で、偏向なく、客観的に、政府にとってではなく視聴者にとって重要なトピックを報道している限り、アルジャジーラはカタールの目印になるし、エジプトにとってのピラミッドのようなものになる。カタールにいるということが1つの恩恵であると考えている。 
 
―母国のエジプトではどんな仕事を? 
 
ジャバーラー氏:ジャーナリストだった。エジプトのテレビ局で働いていて、首都カイロではBBCで働いていた。カイロ支局が閉鎖される2,3ヶ月前まで働いていたが、BBCといってもアラビア語放送だった。サウジアラビアが資金を出していたが、実際の運営はBBCだった。しかし、サウジアラビア側とBBC側で編集権をめぐっての意見の相違があって、閉鎖になった。 
 
 カイロ支局が閉鎖されて、恩恵を受けたのはアルジャジーラだった。アルジャジーラを設立したスタッフの大部分はこのBBCアラビア語放送から来た人たちだった。結局のところ、一つの組織から違う組織に移った、というわけだ。 
 
▽すべての重要な意見を紹介 
 
―アルジャジーラは、「ある意見、他のもう1つの意見」(the opinion and the other opinion)を出すことをモットーにしているそうだが、全ての意見を出す、ということか? 
 
ジャバーラー氏:全ての重要な意見を紹介するようにしている、という意味だ。「全ての」意見ということは、無理だろう。バランスのとれた番組のために様々な意見を出していく。 
 
―イラク戦争では、アルジャジーラがイラク市民や米兵など、負傷した人あるいは亡くなった人の無残な光景を画面に出したとして、米政府側は非難していたが、こうした批判をどう思っていたか? 
 
ジャバーラー氏:西欧のメディアの中で、どのメディアがそうだったかをここでは特定しないが、例えば、コソボ戦争の時を思い出して欲しい。西欧のメディアは、血の出るシーン、亡くなった人の姿などを頻繁に放映していた。今でも、イラク戦争以外のどんな戦争の際のシーンにも、たくさんの血が出ている状況、残酷な場面はたくさんあると思う。 
 
 つまり、(アルジャジーラのイラク戦争における報道を批判する人は)ダブル・スタンダードなのだと思う。 
 
 アルジャジーラは、イラクの状況を、他の状況と全く同じように報じる。画面上にたくさん血のシーンを出したいなんて、思っていない。しかし、画面上に出さなければならないシーンというのはあるものだ。真実の一部を隠すことはできない。真実、真実、真実のみ、を出すべきだ。血が出るシーンを出さないようにすれば、状況によっては、真実を隠蔽することにもなる。 
 
 例えば、イスラエル・テルアビブで、爆発が起きたとしよう。西欧のメディアを見れば、たくさん血が出るシーンが放映されている。こんな場面を見たら、多くの人が怖がるだろう。爆弾で吹き飛ばされた身体の一部が転がっている場面も出ている。アルジャジーラもこうしたシーンを出すし、西欧のメディアもそうする。こんなときには、なんの批判もない。 
 
 しかし、イラクということになると、アルジャジーラが批判される。私達は、アルジャジーラ内で定めた編集の倫理方針に従って作っているのに。忠実に従って作っているのに。鮮明になりすぎる場面は入れないし、必要がなければ、血が出るシーンも入れない。そこで何が起きているかを示すものでなければ、入れない。新たに何かを付け加えるような意味がある場面でないなら、カットする。 
 
▽英語放送も編集方針は共通 
 
―世界中のメディアを見ると、西欧のメディアの声が大きすぎる、支配的であると思うことはあるか? 
 
ジャバーラー氏:それは疑う余地がないと思う。しかし、アルジャジーラの存在で、随分変わってきたと思う。それでも、いまだに西欧は政治的に世界最強であるし、従ってその発する声も大きい。 
 
―米国で大規模テロが起きたのは2001年9月11日だった。テロの首謀者と目されていたウサマ・ビンラーディンのビデオ映像をアルジャジーラは独占放映して世界の注目を浴びた。一方では、米政府側からは、アルジャジーラがテロリストグループと何らかの関係があるのではないか、と疑念の声も上がった。今でも正しい選択をしたと思うか? 
 
ジャバーラー氏:ウサマ・ビンラーディンのインタビュー映像を世界で一番最初に流したのはどこだったか覚えているだろうか? 
 
―BBC? 
 
ジャバーラー氏:違う。ここで名指ししたくないが、非常に有名なアメリカのネットワークだ。(注:ABCのこと)当時、確か1998年だったと思う。このテープの中で、ビンラーディンは、アメリカ人や西欧をターゲットにしている、といったようなことを言っていた。米テレビ局で放映され、これを通信社各社が使った。当時は何の問題もない、と見なされた。 
 
 しかし、ビンラーディンの声を、自分たちが聞きたくない、または一般大衆に聞かせたくないという政治的決定がなされたとき、問題がおきた。アルジャジーラがこの決定に従っていなかったからだ。アルジャジーラは従っていない、この決定に耳を貸さないのだ、と批判の声があがったのだ。 
 
 私達がビンラーディンのテープを流したのは、何らかのメディア倫理に反していたわけではなかった、ということだ。非常に著名な米ネットワークが、1998年の時点で既に同様のインタビューテープを流していたのだから。政治的にこうしたテープの放送が禁止されると、今度はアルジャジーラも放映を止めるべきだ、とする考え方がある。ブッシュ米大統領が「世界は2つに分かれている、私達と同じグループにいるのか、テロリスト側にいるのか」と大衆に呼びかけた。世界中を真っ二つに分けてしまった。独立メディアであるアルジャジーラはどうしたらいいのか? 副編集長としての私は、どちらかのグループに属するべきだろうか? 答えはノーだ。アルジャジーラの編集倫理こそが私達の法律だ。私は中立であるべきだし、そうであるならば、2つの陣営の発言のどちらも画面上に出すべきだ、と考えた。 
 
 アルジャジーラは政治的動機を持った組織ではない。メディアの組織だ。政治的ゲームを演じる準備はできていない。自分たち自身の倫理基準を持っているし、視聴者の意見を大事にしたい。全ての重要な意見を画面に出す、というのがスタンスだ。 
 
 世界中でビンラーディンを捕まえようとしているとき、ビンラーディン自身が言いたいことがあるかもしれない、視聴者がそれを知りたがるかもしれない。これがアルジャジーラがビデオ映像を出した理由だ。プロパガンダのためではない。 
 
 テープ入手前に、組織の中の同僚などと議論をしていた。もしビンラーディンの映像が手に入ったら、使うべきかどうか、と。アルジャジーラが自由なメディアだとするならば、画面上に出すだろう、ということに疑いはなかった。 
 
 
―来年度からアルジャジーラは英語放送を始める予定であると聞いた。英語放送に関して、どう見ているか? 
 
ジャバーラー氏:アルジャジーラはアラビア語放送であったためにこれだけ多くの視聴者を得て成功できた、という部分があると思う。しかし、アラビア語であるがために世界中でアルジャジーラの番組を見れない人もたくさんいる。そこで、視聴できる言語を加えよう、ということになった。西欧のメディアが使う同じ言語の、英語を使うことになった。 
 
―アラビア語放送と英語放送の建物は違うが、編集方針は同じか? 
 
ジャバーラー氏:共通の編集方針だ。同じガイドラインを使うので、一緒に働くことができる。日本にスタジオがもしあったとしても、同じだ。一緒に働ける。 
 
 編集上の様々なことに関して、時々英語放送のスタッフと会議をしている。物理的に場所が違うだけだ。 
 
―英語放送とアラビア語放送とはライバルという人もいるが? 
 
ジャバーラー氏: 視聴者の層が違う。競争にはならない。利害も一緒だ。明日も会議をするし、お互いに助けあう。 
 
―日本の視聴者が心待ちにしている。 
 
ジャバーラー氏:予定されているクアラルンプール支局では、日本のこともおそらくカバーしていくと思う。 
 
▽ライバルはインターネット 
 
―アルジャジーラの将来の方向は? 
 
ジャバーラー氏: 視聴者の幅を広げたいと思っている。これまでは、いわゆる知的な視聴者がメインだったので、もっと広げたい。アラブ世界は変わっており、若者はインターネットに高い関心を持っている。今のところ、他のアラブメディアで大きなライバルというのはないと思っていて、従ってライバルは、どんどん影響力を増しているインターネットだ。 
 
 ここで働いている、若いスタッフに話を聞くと、彼や友達からすれば、アルジャジーラや米CNNは政府機関のよに見えるらしい。スーツを着て仕事をしている人全てが政府関係の人のように見える、と。大きな組織に働く人たちであると認識しているようだ。一方、インターネットは、自由な感じがあるという。こうした若い世代にも見てもらいたいので、いろいろ策を練っている。次世代のメディアとして、もっとインタラクティブな面も入れていきたい。既にあるスポーツチャンネルも、視聴者はスポーツ番組をもっと気軽な娯楽番組として見たがっているようだ。 
 
 ニュースを、視聴者の方に持っていきたい。ニュースに影響を受けるのは視聴者自身であるからだ。アラブ世界では人々の政治参加はあまり大きくはない。慣れていないのかもしれない。アルジャジーラは政治を視聴者に持っていきたい。政治がいかに重要なものかを分かってもらうために、画面に出していきたい。しかも、もっとアクセスしやすい形で出せないか、と考えている。 
 
―拡充するための資金は十分か? 
 
ジャバーラー氏:今言ったようなことを実現するのに、それほど大きな投資は必要ないと思う。例えばネットの拡充とかは巨額の資金は必要ない。 
 
▽最も難しい質問 
 
―最後に、一日をどんな風にして過ごすのか? 
 
ジャバーラー氏:なんて難しい質問だろう。最高に難しい!困ったな…。 
 
 私の一日は朝起きてから寝るまでが仕事だ。たいてい、電話にかじりついている。そうでないときは、起きている間はアルジャジーラを見ている。時間があれば、ネットをチェックする。朝起きて洋服を着る間にネットを見て、サイトの内容をチェックする。何が起きているのかを理解しようとする。昨日のニュースと今日のニュースの違いはどこなのか、など。ニュースのフォローアップのため情報を収集する。 
 
 会社に来てからは、いくつもの会議に出る。会社に来るのは朝8時ごろ。編集長と仕事を分けてやるようにしている。会議を始め、コンピューターを見て、番組を作っているプロデューサーにコンタクトをとったりする。今日のラインアップ、来週のラインアップなどの会議だ。 
 
 午後5時ごろ、ニュースの後の反省会のような会議に出て、そのあと、1時間ほど家に戻る場合もある。その後で、戻ってくる。番組を見たり、メールをチェックしたりして、夜通し、仕事部屋にはりついている。ニュースの内容に関してコメントを言ったり。私の仕事が終わるのはニュースが終わるとき。カメラが止まるとき。帰りは遅いので、家に着くと、ぐったりしている。勤務は週に6日ということに、就業規則上はなっている、といっておこう。 

by polimediauk | 2007-07-30 20:15 | 放送業界