放送業界

アルジャジーラ特集 3 英語社長インタビュー

c0016826_23312397.jpg

 アルジャジーラ英語放送への前評判は高かったが、なかなか放送は開始されなかった。そんな中、社長インタビューがOKになった。2005年夏、ドーハで会い、その年の秋にもオランダで会う機会があったが、インタビューは初めて。

 インタビューの場所では、横には広告会社の女性がいて、一語一句を書き取り、こちらをじっと見ていた。本当に緊張したインタビューで、笑顔がこわばりっぱなしだった。(写真はアルジャジーラインターナショナル提供)

ベリタ2006年04月20日掲載
インタビュー
「途上国拠点に360度の視点を持つ国際放送局に」

ビデオジャーナリストの募集も検討 アルジャジーラ英語版社長に聞く

 カタールの衛星テレビ・アルジャジーラが2006年6月(と当時思われていた)、英語放送を開始する。開局から2006年で10年目を迎えるアルジャジーラは、アラビア語圏で人気が高い。英語放送は新たに発足した「アルジャジーラ・インターナショナル」が提供する。カタール・ドーハを拠点とする同社のナイジェル・パーソンズ社長(55)によると、英語放送は「360度の視点を持つ国際放送局」を目指すという。ロンドンに出張中のパーソンズ社長に、放送開始までの秒読みの状況と編集方針に関して聞いた。 
 
▼24時間放送・65%は生のニュース 
 
 ―放送はいつから始まるのか 
 
 「技術的な問題が解決次第、始める。本拠地はアラビア語放送同様カタールの首都ドーハに置くが、他にロンドン、クアラルンプール、ワシントンから番組を放映するため、世界4ヶ所をスムーズにつなぐ技術的な問題の解決に時間をかけている。4ヶ所からのハイビジョン放送がうまくつながればテストは成功だ。5月初旬からテスト開始で、早ければ6月ごろから放映する」(注:実際には11月に開始された。)
 
 ―ターゲットにしている視聴者の層は 
 
 「国際的な事象に興味を持つ視聴者、イスラム教徒だがアラビア語を理解しない人たちなどだ。これまでの調査では、若者の関心が高い。高度な教育を受けた人、情報を扱い、物事を決定する地位にいる人たちの間でも関心は高い」 
 
 「世界中で7000万世帯から1億世帯の視聴者があることを想定しており、24時間放送の中で65%は生ニュースになる。すでにドキュメンタリーなど撮影は進んでいる。しかし、開始日そのものにはあまりこだわっていない。放映される番組の質で人々は英語放送を評価するだろう」 
 
 ―番組はどのように配信するのか 
 
 「国や地域によって異なる。英国では衛星放送スカイの一部として放映される。日本ではまだ正確には決まっていないが、見られるようになることは確かだ。ウエブサイトは放送開始とともに刷新するので、ストリーミングでサイトから見ることも可能だ」 
 
 ―社長就任前はアルジャジーラをどう見ていたのか 
 
 「中東に表現の自由、報道の自由を初めてもたらした放送局として認識していた。アルジャジーラができる前はどの国でも、ニュースと言えば基本的にはその国の統治者が何をしたかだった。放送業界には自由はなかったと思う。アルジャジーラはこの状況を変えた」 
 
 「民主主義の欠如、賄賂など、これまで中東のどの放送局も扱ってこなかったトピックを初めて報道し、この地域の多くの政府と何らかの衝突を起こしている。現在では似たような衛星放送局が中東でもできているが、アルジャジーラは最初であり、新鮮だった。今でもその存在は新鮮だ」 
 
 ―アルジャジーラがテロ集団と何らかの関わりがあるのではとの懸念はなかったか 
 
 「なかった。そうした懸念が真実なのかどうか、私には分からないし、おそらく永遠に分からないだろう。しかし、何の懸念も私自身は持っていない。編集上、ああしろ、こうしろ、という圧力を一度も感じていない。これほど自由な環境で今までに働いたことがないぐらいだ」 
 
 ―アラブの放送局で働くことにためらいはなかったか 
 
 「なかった。このプロジェクトは本当におもしろい。考えても見て欲しい。全く新しい国際放送のチャンネルを作るために世界に4つの放送センターを作り、編集上の政府の干渉はないと保証されている。最上の番組を作るのが仕事だ。これ以上の条件はないし、挑戦だ。これ以上最高に刺激のある仕事はない。毎朝、目が覚めると、これこそが最高の仕事だと思っている」 
 
 ▼フリーのビデオジャーナリストも募集 
 
 ―アルジャジーラ英語放送の編集方針は 
 
 「アルジャジーラのスピリットを継承したい。つまり、世界中に向けて何をも恐れることなくニュースを報道する精神だ。非アラビア語圏に住む人々にアルジャジーラスタイルの報道を届けたい。(番組では)人に焦点をあてた問題も大きく扱う。世界中で、政治家と一般の人々の間の溝が大きくなっている。投票率は非常に低く、シニシズムが広がっている。何がニュースかを政治家が決めていくような、これまでのニュース報道のスタイルを変えたい。一般市民にもっと関わる問題をとりあげたい」 
 
 「アルジャジーラができる前には、多くの国では、その日のニュースはこれとこれだとその国の統治者が決めていたり、国際ニュースは国際報道チャンネルから流れていた。国際報道チャンネルは欧米を本拠地としており、何がニュースか、何がニュースでないかを世界中の視聴者に押し付けていた」 
 
 「しかしアルジャジーラ英語放送はこれの逆をやりたい。軸を発展途上国に置きながら、私たちが重要だと思うトピック、他の国際放送が見逃してきたようなトピックを扱っていきたい」 
 
 「スタッフは総数で500人ほどで、そのうち記者は250人ほど。今後はあまり増やさずに外部委託を進めたい。アフリカの問題はアフリカに住む人々が、アジアの問題はアジアに住む人々が語る形をとりたい。 フリーのビデオジャーナリストでこれは、と思う題材がある人はサイトを通して応募して欲しい」 
 
 ―BBCやCNNの国際報道をどう評価するのか 
 
 「BBCもCNNも良い報道機関だとは思うが、力のある大国で生まれた報道機関であり、それぞれの国の見方を反映している。両社ともに伝統的な西欧的な視点を通した番組を作っている。これは普通のことであり、こうした姿勢自体を批判しているわけではない。 アルジャジーラの英語放送はこういう形をとらない、と言っているだけだ」 
 
 「英語放送はカタールという小さな国を本拠地とし、360度の視点を持って世界の出来事を眺める。放送拠点がクアラルンプールからドーハ、ロンドン、ワシントンと移り変わる間に、視聴者はメガネをかけ替えるような体験をする。同じストーリーでも、クアラルンプールで見た場合と、ワシントンで見た場合は違ったように見える。実生活でもいる場所が違うと物事が違ったように見えてくるのと同じだ」 
 
 「アルジャジーラ英語放送は、視聴者がより良い相互文化理解、より良い対話をするための道具でありたい。世界中の人々をばらばらにするのではなくて、逆に、世界中の人々の間の相互理解を深めたい」 
 
 ▼アルジャジーラのブランドは薄まらない 
 
 ―360度の視点はどう確保するのか 
 
 「まず、スタッフを世界の様々な場所から雇用する。現在、全スタッフの国籍は30以上になる」 
 
 ―多くのスタッフ(特にマネジメントレベル)が、米国あるいは英国のテレビ界の出身者であることを懸念する人々もいるが 
 
 「アルジャジーラというブランドの中身が薄まるのでは、と心配する人がいる。そうはならない。米英のスタッフが多いとしたら、それは英語でテレビ報道ができるアラブ人のジャーナリストの人材が少ないからだ。それでも多くの著名なアラブ人ジャーナリストを雇用している。もし英語放送が海外にいる英国人スタッフだけでまかなわれ、英国中心のトピックを放映するだけの放送局だとしたら、世界中から人材を集めることはできない」 
 
 ―アラビア語放送との協力態勢は 
 
 「まずドーハではビルが隣通しだ。一緒に番組を作ることもあるし、アラビア語の番組に英語のサブタイトルをつけて放送することもあるだろう。しかし、違うバージョンを作る必要性もある。例えば、中東では2時間のトークショーが人気でも、西欧では長すぎるかもしれない。アラビア語放送の10時間のドキュメンタリーは、もし英語でやるとしたら4時間に削るかもしれない。同じネットワークの中で兄弟関係にある放送局同士には違いない」 
 
 ―英語放送が強大化した場合、アラビア語放送が「弟」のような存在になる可能性もあるのか 
 
 「アラビア語放送は父親あるいは母親のような存在だから、そうはならない。これまでのアルジャジーラの業績を基にして英語放送が存在する。パキスタンでは近く、アルジャジーラがウルドゥー語で放送を始めるので、英語放送がアルジャジーラの最新で最後のプロジェクトというわけではない」 
 
 ▼広告は日本を含め世界から募る 
 
 ―他の海外放送局との協力体制は? 
 
 「中南米のテルスールや、日本ではアラビア語放送はNHKと緊密な関係にある」 
 
 ―アルジャジーラのアラビア語放送は、広告収入を増やすことに苦心していると聞く。特に、サウジアラビア政府との関係が良好ではなく、中東諸国の広告市場はサウジアラビアの広告代理店が牛耳っているため苦しいらしい。英語放送はどうか 
 
 「アラビア語放送の状況は確かにそうだ。しかし、サウジアラビアをさておくとしても、まず中東のテレビ用広告業界の市場そのものが比較的小さい。もう一つ、アルジャジーラは、英語放送だけでなく、ネットワーク全体で広告収入を増やすことを考えている。スポーツチャンネル、子供向けチャンネルがあるし、ドキュメンタリー専門のチャンネルも予定している。ネットワーク全体で収支を安定させようとしている。また、英語放送では世界中から広告主を募っているので、中東諸国の広告市場だけにとらわれていない」 
 
 ―最後に日本に向けてのメッセージを 
 
 「湾岸諸国では、トヨタのランドクルーザーばかりがあちこちを駆け回っている。英語放送に声をかけてくれることを心待ちにしている!放送開始ということで、特別に割安な広告費の枠も提供できますよ」 
 
 パーソンズ社長の経歴 
 
 1951年英国生まれ。新聞記者として、ケンブリッジ・イブニング・ニュース、ニュージーランド・ヘラルドなどで勤務。その後BBCラジオを経て、英通信社WTN(ワールドワイド・テレビジョン・ニュース、現APTN)に入り、カメラマン、報道デスクなどを担当した。88年、スイス・チューリッヒに異動し、欧州ビジネスの専門局EBCを始め、複数の新チャンネルを立ち上げた。2004年、APTNの世界中での契約収入を統括するディレクター職を辞して、アルジャジーラ・インターナショナル社長に就任した。 

 (次回のアルジャジーラ特集は今年のロンドン支局長の会見ですが、掲載までやや時間があきます。まだテープを聞いていなかったので!!!)

by polimediauk | 2007-08-05 23:30 | 放送業界

ジャーナリズムの話いろいろ+欧州事情も


by polimediauk