英国事情

性犯罪と英メディア-1

 英国で最も忌み嫌われる存在の1つが、児童性愛主義者(ピーダファイル)だ。

 実際にはそうではなくても、そうらしいという噂がたっただけで、住民の攻撃対象になることさえある。
 
 著名俳優の逮捕・裁判を通じて、児童に対する性犯罪が再び注目を集めた。

 そこで、ベリタに出した性犯罪と教師に対する記事(昨年1月掲載)と、この俳優の裁判を巡る記事(英国ニュースダイジェスト紙今年8月末掲載)を、採録してみる。(関連トピックは以下にもある。参考までに。 http://ukmedia.exblog.jp/2046954/ )

 英国の新聞で報道される調査結果によると、「敵」は家庭の外にいるのではなく、親戚やあるいは家族(父、義父、兄など)というケースが大部分だという。教会の牧師が男児に対する性犯罪を長期間行っていたという例もよく報道される。

 少し前に、タイムズ紙だったと思うが、父親が娘に性的虐待をした後、いったんは家を出されたものの、しばらくして妻の了解の上、家に戻ったという話が載っていた。すごいなと思っていたら、今度はこれがテレビ番組になり、今月放映された。チャンネル4の「フォーギブン Forgiven」という番組で、母親(俳優が演じる)がナレーターとなって、事の次第をつづる。息苦しいような番組だったが、「娘が父を必要としていた」、「夫を愛していた」ため、夫が性犯罪者の矯正コースを1年間受けることを条件に、夫を家に戻した。

 自分の娘が夫に性的虐待を受けていたら、一体自分はどうするか?あるいは自分が男だったら、娘に性的行為を働くだろうか?その後で、家に戻れるものかどうか?娘だったら、どうしていただろう?と自問自答の1時間半だった。各紙のテレビ評でも非常に高い評価を与えていた。

 日本のテレビ局でこれを誰か買わないものだろうか?

 ちなみに、私が妻だったら、家に戻すことには抵抗がある。自分の愛というよりも、娘の気持ちや将来を考える。しかし、父親不在という状況をどうやって埋めるのか?答えはないが、ドラマでは娘の気持ちの解明が欲しいようにも思った。

 以下のベリタ記事は、英国の状況に関してだが、英文ではすべての人物が実名(一人はイニシャルのみ)で出ていたが、日本での報道ということで、アルファベットにした経緯がある。

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ベリタ2006年01月18日掲載

教師の性犯罪歴めぐり揺れる英国
魔女狩り思わせる報道続く

 性犯罪で有罪となった、あるいは性犯罪につながる可能性がある行動で当局から警告を受けた教師らが、英教育相の認可の下職場復帰をしていたケースが明らかになり、英国全体に大きな波紋が広がっている。
 
 英メディアの間では「問題教師」の名前や個人情報を探し当てるスクープ合戦が続き、教育相の辞任要求も出た(注:後、辞任した)。顔写真が大きく報道された教師の一人は、「私は児童性愛者ではない」と地元紙に語ったが、こうした声がかき消されてしまうほど「魔女狩り」の雰囲気は強まる一方だ。
 
 始まりは、2005年12月末。日曜紙の「オブザーバー」に、性犯罪の前歴のある人物が西イングランドのノーフォーク州にある学校で働いているという、電話での「タレ込み」だった。オブザーバー紙が地元の警察に確認をとると、州内ノーウイッチにある学校が新規雇用をした教師に対して、警察側が「懸念を表明していたこと」が明らかになった。 
 
 2006年1月8日、オブザーバー紙が教師の名前を明かさずに第一報を報道した。9日には大衆紙デイリー・メール紙が、この男性体育教師A氏(34)を実名で報道した。 
 
 英国では、教師の雇用には教育技術省や警察が管轄する犯罪記録局が「問題なし」とする証明が必要となる。教育技術省は性犯罪も含めた何らかの理由で子供を教える仕事に就くことを禁止する人々の名前や身元情報が載っている「リスト99」という一覧表を管理している。教職に制限を受けている場合、どのような雇用条件であれば職場復帰できるのかも書かれており、現在15000人の名前が登録されている。
 
 犯罪記録局は性犯罪に関わった人物(教師も含む)の記録「性犯罪者登録」を管理しており、約29000人の個人情報を保持している。英国では性犯罪に関連する件で有罪になるか、警察から警告を受けた場合、72時間以内に地元の警察に名前と住所を通知する義務があり、これを怠ると罰金か最長5年の禁固となる。 

 雇用手順としては、教育省が管理するリスト99に名前が載っていない時点で最初のハードルをクリアしたことになるが、この後、性犯罪者として登録がなされているかどうかを犯罪記録局に確認する。 

 この過程にはかなりの時間がかかるため、学校側は志願者がリスト99に載っていないことを確認したうえで、とりあえず雇用し、犯罪記録局からの確認を持つという形をとる。

 リスト99に名前が載っていても、保護基準裁判所に訴えれば、条件付きで職場復帰も可能であるため、過去に性犯罪者として有罪になっていても、あるいは警察から警告を受けた人物でも、親や生徒の知らないうちに学校で教えていた例ができることになる。
 
―児童ポルノサイトへのアクセスだけで登録 

 名前を公表されたA氏は、児童ポルノのウエブサイトにアクセスしたという理由で、2003年警察から警告を受け、性犯罪者登録に名前が載っていたが、子供に教えることを禁止するリスト99には載っていなかった。児童のわいせつ画像のサイトにアクセスしたというだけでは、教師の職につくことを禁止するリスト99に登録するには十分ではない、と教育省は判断したからだ。 
 
 A氏は教育省に対し、教職継続のための書簡を書いてもらうことを依頼し、2004年、教育省は、A氏が「子供に何の脅威も与えない」「信頼に足る人物」であることを保証した。 
 
 A氏は2006年から勤務を開始したヒューイット・スクールに対し、過去の事情を説明し、教育省からの手紙も提出した。学校側は教育省からの手紙が教師としての勤務には何の問題もない証拠とみなし、氏を雇用した。 
 
 しかし、学校側は、後に地元の警察からA氏の雇用に関して懸念を持っているとする連絡を受け、調査を開始する。正式雇用を延期としたため、男性教師は自ら辞職した。学校に勤務したのは、結局ほんの数日間だった。 
 
 A氏のケースがメディアで報道されると、「何故こんな教師に職場復帰が許されたのか?」とケリー教育相の不手際を責める声が出た。親たちが、このような形で職場復帰を許された教師は、現在何人いるのかと問いただし、教育相が正確な数を提供することができなかったため、これに応える形で、メディアが問題教師達の名前、身元情報を探りだした。 
 
 現在までに、少なくとも他に3人の「問題教師」がいるとメディアは報じている。一人は男性科学教師のB氏(52)で、男子児童のわいせつ画像を所有していたために1996年に有罪となり、リスト99にも名前が載った。 
 
 B氏は保護基準裁判所(リスト99に登録された教師などの名誉回復のための調停の場として設置された)に訴えた。裁判所は、B氏の男子児童に関する感情は「同性愛的、児童性愛的で不適切」だが、「女性には全く興味がない人物」とする評価を出した。2001年、当時の教育相が「女子高でのみ教える」ことを条件に職場復帰が許された。 
 
 英ITVテレビの取材の中で、B氏は「教えている生徒の親たちは私が教師であることについて、ハッピーだといってくれている。自分は性犯罪を犯していない」などと語った。 
 
―女生徒と結婚した教師も問題に 
 
 BBCオンラインを含め、顔写真が新聞各紙に大々的に掲載されているのが男性数学教師C氏(59)だ。 
 
 C氏は1980年、15歳の女生徒にわいせつ行為を働いたということで有罪となり、60ポンド(約12000円)の罰金を払った。C氏はこの女生徒を直接は教えていなかったが、女生徒の家に花を送ったことから事態が発覚。後にこの少女と結婚。3人の子供をもうけ、結婚生活は19年間続いた。2000年には詐欺と窃盗罪で有罪となり、2年半の禁固刑の後、02年釈放された。 
 
 C氏は03年から05年まで、イングランド北東部の3つの学校で教えていたが、学校側が同教師の過去の有罪の経歴を知る度に、停職処分になっていた。

 2005年5月、教育省はC氏の過去には「重大な懸念がある」とはしながらも、職場復帰を禁止しないという手紙を出し、同年9月からは英南西部ボーンマスにある学校で教えていた。しかし、現在は調査が終了するまで休職扱いとなっている。 
 
 C氏は「ステップ・ティーチャーズ」という臨時教員を斡旋する会社から推薦されて雇用された。各紙の報道によると、ステップ・ティーチャーズの責任者ジェームズ・ニューマン氏は、求職者が現時点で学校で教えるに足る人物かどうかという観点から判断しており、性犯罪に関する有罪も含めて、過去の経歴だけを持って求職者を差別しないようにしていると述べた。 
 
 教員斡旋会社には、求職者に過去犯罪歴がないかどうか、あるいはリスト99に名前が載っていないかどうかを確認する責任がある。「ステップ・ティーチャーズ」は、C氏を雇用した学校側に詐欺罪などの前歴を伝えていなかったことが分かった。 

 その理由は、個人データ保護法の下で、斡旋会社が犯罪記録局から得た個人情報を学校側に伝えることを許されていないためだった。斡旋会社は、C氏の個別面談と、教育省からの職場復帰可能とする書簡をもとに、C氏が「子供を教える職に適していると判断したし、今でもこの判断は変わっていない」と述べた。 
 
 C氏は、地方紙の取材に、「私は児童性愛者ではない。子供に危険な人物ではない」、「自分が間違ったことをしたことは知っており、後悔している。しかし、他の人が考えるように、物事は白黒にはっきり割り切れるようなものではない」と説明した。

 C氏はリスト99にも性犯罪者登録にも名前が載っていない。1980年の事件は、こうしたリスト作成以前に起きたからだ。 
 
 もう一人、詳細は明らかになっていないが、H(62歳)というイニシャルの男性教師も、過去に性犯罪を起こしながらも、教育の職場に復帰していると報道された。 
 
 教育省は過去30年間で、性犯罪に関連した、あるいは警告を受けた教師のケースのファイルを見直す事を決めた。同様のケースが現在のところどれくらいあるのかは、まだ公表されていない。メディア報道は10件ほどとしている。 
 
 数が正確に分かっていない一つの理由は、教育省、警察、社会保障サービスなど、様々な機関が注意が必要な教師のリストを作成しており、合計では7つに上る。あるリストには載っていても他のリストには載っていないという事態が起きているという。 
 
―性犯罪者の自宅襲撃も 
 
 英社会で今回の事件が大きな衝撃を持って受け止められている背景には、2002年、英南部ケンブリッジ州ソーハムで小学生女児2人が殺害された事件がある。

 逮捕されたのは、少女たちが通っていた学校の管理人だった。この男性は強盗容疑の他、10代の少女数人に強制的に性行為を行ったとして数回、告訴されていた。しかし、犠牲者らが後で告訴を取り下げるなどをしたため、有罪に至ることはなかった。こうした情報は雇用した学校側には伝えられていなかった。 
 
 ソーハム事件後、独立調査委員会が設置され、情報の一元化を推奨していたが、実現化されていない。 
 
 今回明らかになった「問題教師」たちが、職場復帰後、何らかの性犯罪を起こした例はない。しかし、多くの子どもの親にとっては、ソーハム事件の衝撃が大きく、教育省の対応を非難する声は高まるばかりだ。 
 
 たとえば児童ポルノのサイトにアクセスした過去を持つだけなど、その「犯罪」の程度によっては、一生涯の職場復帰を禁止するのは人権の観点から問題があるとの声がある一方で、性犯罪はもちろん、何らかの犯罪にかかわった教師は、職場復帰を全面的に禁止すべきだとの強硬意見も少なくない。 
 
 英国では、性犯罪者に対する恐れ、嫌悪感が非常に強く、いったん「児童性愛者」とみなされると、職を見つけることがむずかしいばかりか、住民からの攻撃にあう場合もある。 
 
 2000年、性犯罪の前歴のある男性に8歳の少女が殺害された時、大衆紙ニューズ・オブ・ザ・ワールドが児童性愛主義追放運動を起こし、通常は警察や特定の地域団体のみに公開されている性犯罪者数十人の名前、顔写真などを公開した。この結果、該当する人々の自宅などを地域住民が襲撃する、といった事件が相次いだ。 
 
 一連の報道の後、A氏は妻と2人の子供と共に、秘密の場所に住居を移し、現在警察の保護下にある。C氏も、住居を移したという。 (次回は児童ポルノサイトからのダウンロードで有罪となったクリス・ランガム事件。)
by polimediauk | 2007-08-26 20:55 | 英国事情

ジャーナリズムの話いろいろ+欧州事情も


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