英国事情

性犯罪と英メディア-2 児童ポルノ・サイト


 英俳優・喜劇作家クリス・ランガムが、8月2日、児童ポルノ・サイトから画像をダウンロードした行為で有罪となった。7月から始まった裁判では、問題となった画像が公開され、衝撃を受けた女性陪審員が泣き出す場面もあった。ランガム事件の顛末をたどりながら、ネットでアクセスする児童ポルノの影響と背景に注目してみた。

 英国で児童ポルノ・サイトの取締りが急速に進んだのは5年前だ。米国主導で始まった大規模な摘発作戦(「オペレーション・オー」)だ。有料児童ポルノ・サイトの閲覧のために使ったクレジット・カードの情報を基に利用者を探し当てるもので、英国には約7000人の利用者がいたことが分かった。

 医者、教師、ソーシャルワーカー、警察官まで含まれた利用者の中に、喜劇俳優クリス・ランガムがいた。1999年、米テキサス州を本拠地とする「ランドスライド」社に29・95ドル(約3000円)を払い、「欧州ロリータ・セックス」と題されたサイトにアクセス。その後も数年に渡り、児童ポルノサイトにアクセスし、画像をダウンロードしていた。

 ランガムの逮捕は2005年11月だった。BBCのコメディー番組での優れた演技を評価され、英コメディー賞の最優秀俳優賞を受賞してから数日後の逮捕となった。
 
―「調査のためにアクセスした」

  今年7月開始された裁判で、ランガムはサイトからのダウンロードを認め、「コメディー番組の調査のためだった」と説明した。「自分は児童性愛主義者ではない」と繰り返した。

 何故児童ポルノ・サイトにアクセスしたのかを法廷内で聞かれ、ランガムは自分の虐待経験を告白し、人々を驚かせた。両親と共に一家でカナダに移住後、自分が8歳の時に「赤毛の男性」に性的虐待を受けたと話したランガムは、法廷ですすり泣いた。

 虐待に関して「強い恥を感じ」、ポルノ・サイトの児童が「自分の兄弟のように思えた」と述べた。サイト内容をダウンロードしたのは、児童ポルノに対して「強い怒りを感じれば、自分の心の奥深くにある問題を解決できるかもしれないと思った」と答えた。

ところが、ランガムが自分のコンピューターにダウンロードしたビデオの一部が裁判所で公開されると、内容が極度に衝撃的であったために女性の陪審員が泣き出し、裁判が一時停止される場面もあった。

8月2日、ランガムは児童ポルノ・サイトの内容をダウンロードした行為で有罪となった。9月14日、量刑が発表される。

  有罪判決後、サイトにアクセスし、内容をダウンロードしただけで有罪とは「厳しすぎるのではないか」という声が一部に出た。オブザーバー紙の8月5日付で、コラムニストは「ランガムは児童ポルノ・サイトを見たために有罪となったが、児童虐待を行ったわけではない」と書いた。

しかし、児童保護団体はこうした見方に反対だ。児童虐待を防止する活動を行う英「NPCC」の代表は、BBCの取材に対し、「見るだけでも子供の品位を落とす重要な犯罪。アクセスすることで児童ポルノ業界の需要拡大にも貢献するので、虐待される児童が増えることになる」と述べている。

ランガム事件は「最期の事件」ではない。この後も、次から次へと似たようなケースが報道されている。(英国ニュースダイジェスト掲載分に加筆)

―CHILD PORNOGRAPHYとは

  児童が被写対象となったポルノを指す。英国では児童保護法(1978)の下、18歳未満の子供のわいせつ画像を配布あるいは宣伝目的で撮影、撮影を許可、作製、所持、上映、配布、宣伝すれば違法となる。「作製」とはサイトからのダウンロードも含み、アクセスだけでも犯罪につながる疑いを持たれる。刑事裁判法(1988)の下、こうした画像をいかなる目的でも所持すれば違法だ。

 日本の児童買春・児童ポルノ禁止法では、他人に販売や提供目的で児童ポルノの画像を所持すると処罰されるが、収集目的の単純所持は罪に問われない。この点から、アクセスだけで、つまり見ただけで逮捕・拘束・取調べを受けるという英国のニュースは、日本の常識からすると異様に見えるかもしれない。

 児童ポルノ・サイトを監視する英国の非営利団体IWF(インターネット・ウオッチ・ファウンデーション)によると、児童虐待の画像を掲載しているとして報告を受けた31,776件の中で、約3000件が重度の児童虐待行為(子供同士や大人と子供の間の性器挿入を含む性行為や動物を使った残虐な性行為など)の画像を扱っていた。

 IWFの調べでは、児童ポルノ・サイトの設置先国は米国が54・3%、ロシアが28・2%、アジアが7・4%、欧州が7・9% (英国は1%未満)、その他が約2%。

 児童ポルノ・サイトへのアクセスを制限するBTのソフトが一日に接続を遮断する回数は、3万5千回。IWFが2006年の1年間で、報告を受けた件数は31,776。犠牲者のほとんど(80%)が女児で、91%が12歳以下の子供たちだった。

逮捕されたセレブリティー①
俳優クリス・ランガム

私生活:58歳、2度結婚し子供が5人
職業:俳優、作家、監督、プロデューサー
経歴:1960年代末、喜劇俳優スパイク・ミリガンのテレビ番組で人気を博したことを皮切りに、数々の人気コメディー番組に出演。1981年テレビ界のアカデミー賞と言われる米エミー賞を受賞したが、アルコールと麻薬依存症で一線から遠ざかる。90年代に入って依存症を克服し、喜劇作家としても活躍。BBCのコメディー番組「ヘルプ」と「ザ・シック・オブ・イット」で2005年、英コメディー賞の最優秀俳優賞を受賞。2006年、「ザ・シック・オブ・イット」で英BAFTAテレビ賞で最優秀コメディ演技賞を受賞。
性犯罪との関わり:2005年11月末、ネット上の児童ポルノ利用者の捜査で逮捕される。2006年5月、児童のみだらな写真の作製容疑と複数の性的暴行容疑で起訴。2007年7月から裁判開始。8月、ネットから児童のみだらな画像をダウンロード(作製)した行為で有罪となる。暴行容疑は一部が取り下げられ、他は有罪に至らなかった。性犯罪者リストに名前が登録。9月14日、量刑が発表予定。

逮捕されたセレブリティー②
ミュージシャン、ピーター・タウンゼント

私生活:62歳、別れた妻との間に子供3人。パートナーの女性と暮らす。
職業:ロック・ミュージシャンで、バンド「ザ・フー」のメンバー
経歴:両親共に音楽家で、1960年代、イーリング・アート・カレッジ在学中に友人らとバンドを組み、ザ・フーの結成に発展。初期のヒット作は「アイ・キャント・エクスプレイン」、「マイ・ジェネレイション」など。映画にもなったロック・ミュージカル「トミー」を作った。
性犯罪との関わり:2003年1月、児童ポルノ・サイトにアクセスしたことが発覚し、逮捕。サイトにクレジットカードを使ってアクセスしたことを認めるが、目的は自伝や本を書く「調査のため」と説明。逮捕前に、幼少時に虐待を受けたことをエッセーに書いていた。4ヶ月近くの捜査の結果、所有するコンピュータに違法画像を保存した形跡は発見されなかったため、警察からの警告のみで不起訴に。性犯罪者リストに名前を登録された。
by polimediauk | 2007-08-27 20:41 | 英国事情

ジャーナリズムの話いろいろ+欧州事情も


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