政治とメディア

米大統領選とデジタルメディア

 15日、在ロンドンの米大使館で、「米大統領選挙とデジタル・デモクラシー」と題されたイベントがあった。私自身、米大統領選の進展を細かく追っていないので、知っている人には物足りない部分もあると思うが、その時の様子を若干紹介したい。

 米大使館に入るには、必ず写真つきIDが必要で、飛行機に乗るみたいなチェックがある。大使館の建物は、おそらくそのまま車が突っ込んで来れない様にということなのか、コンクリートの塊りやワイヤーが若干取り囲んでいて、「要塞」のような感じである。(日本の米大使館はどうなっているのだろう?)この前でよくデモも行なわれている。今もデモコーナーのような場所があって、小さい看板のようなものが置かれていた。

 まず、PoliticsOnline というところのPhil Nobleという人が話した。この人はオバマ候補を支持しているとのこと。他の候補と比べると、オバマ氏のネットを使った選挙戦は非常に高いレベルにある。どの候補が勝つかの最後の決め手は投票になるが、(1)誰がどんなキャンペーンをしたか、(2)誰がどれほどたくさんの資金を集めたか、(3)どの候補がいかにメディアで大きく取り上げられたかで勝ち負けが、常時変わっている。

 ネットでは、どれだけトラフィックがあったか、どれだけフェースブックの友人を持っているか、ネットの広告をどうやって使ったか。このいわば、全く「新しい科学」の分野でいかに成功できるかが決め手となる。この点が今回のデジタル技術を使った選挙戦のこれまでと違う第1点。

 第2点は、情報をネットで出すときの出し方が違うという。オバマ候補のサイトを開くと、80%のコンテンツが、どうやったらユーザーがオバマ候補を支持できるかに関連している。そして、ユーザー・あるいは有権者が作ったコンテンツがたくさん入っている。昔は、政治の行き先がどうなるのかは政治家を見ればよかったが、今は「有権者を見ろ」に変わった。ビデオも有権者が作っている。

 第3点は、選挙戦の戦場が商業サイトに移った、例えばウイキペディア(ウイキペディアが何故「商業サイト」なのか?と私自身思ったのだが、彼はそう言っていた)、フェースブックなどのサイトでどう表記されているかが非常に重要になった。

 次に、ロンドン大学Royal HollowayのAndrew Chadwickという博士が同様の特色を挙げた。そこで何故英国で同様の現象(ネットが主戦場の一つになる)が起きていないのかの説明があった。彼によれば、米国は連邦制で英国のようには中央集権化しておらず、政党が弱い(彼によればである)が、英国は政党制度が強い。議員候補者になるのでも、政党のシステムを通らないと事実上は上に行くのは難しい。そこで、米国で全米的に支持を得ようとすれば、ネットに頼って意見を集約する、という形が役立つが、英国では既に政党があって、メディアの構成も違うので(どう違うかは説明はなかった)、ネットよりも既存メディア、既存政党の選挙戦が幅を利かせている、と。

 英国はまだまだトラディショナルな選挙戦を展開している、ということ。チャドウイック氏によれば、将来的には英国も米国型になる、と。

 次に、英国では1000万人の会員がいる人気SNSサイト「ビーボ」の社長ジョアンナ・シールズ氏が、ネットの活用で、米大統領選挙戦に大きな変革が起きた、という。それは、巨額の資金を寄付する人や既存のテレビのネットワークの占める位置を相対的に低くしてしまったからだ。

 「人はネットを好み、オバマ氏の演説でも、TVのネットワークだったら、ちょっとしか放送しない。しかし、37分間、全部を人々はネットで見ていた。一種の革命だ。資金も沢山集めることができる」

 「SNSを始めとするネットは、民主主義を市民に取り戻させる」

 「ある情報は、既存メディアが報道するより、友人がこうだよって言ってくれたものの方が受け入れ易い」

 最後は、英首相官邸にかつて勤めていたジミー・リーチ氏。選挙戦の後で彼が困惑するのは、「例えばロンドン市長選でも、キャンペーン中はそれぞれ候補者はサイトを作る。ユーザーとインタラクティブにコミュニケーションを取るかもしれない。しかし、選挙が終わったとたん、例えば当選したボリス・ジョンソン市長も、サイトを更新しなくなってしまう。これはおかしい。むしろ、当選してからの市民との対話のほうが重要なのではないか」。

 英国の政治家のネットに対する知識や意識は非常に低い、という。(裏話で、一度見知らぬ番号の持ち主から、携帯にメールを貰ったという。「誰?」と聞いたら、ブレア元首相だった。メッセージは、「初めて携帯メールを送った」だった。)

 ひとしきりパネリストの話が終わると、一問一答になった。「本当にネットは民主化に貢献するのかどうか?」と聞かれ、ノーブル氏が「今でも大きいのはテレビだが、ネットはインタラクティブであることが違う。これは大きい」、「好きな時に、好きなように相手と通信できる。これは今までと全く違う」。

 しかし、ネットで盛り上がるのはある程度若い世代で、実際に投票するのは中高年が中心だとしたら、その「ギャップ」はどうするのか?という頭のいい質問が出た。また、コンピューターを持てない人と持てる人のデジタルデバイドは?という質問も。まともな答えはなかったように思う。ビーボの社長は「ネットへのアクセスはそれほどむずかしいことではない」と言っていたように記憶する。

 おもしろかったのは、スカイテレビの人の質問で、そのうちに、ネットはテレビで見る・やるのが普通になる。テレビは万人が視聴するものだし、そうなったら、デジタルデバイドはかなりなくなる、という意見だった。もう既にテレビ番組で視聴者参加型が大人気だし、あともう少しで主流になりそうな感じがする(2-3年??)が、どうだろうか。

 もう一つ、民主党候補者選びのヒラリー対オバマの闘いの様子は世界中で報道されている。米国の海外でのイメージ戦略的に言うと、どうだろうか?という質問が出た。同じ政党の2人の闘いがマイナスイメージを与えないか、と。この答えは時間切れのため出なかったのが残念だった。

関連サイト

ポリティックスオンライン
http://www.politicsonline.com/

ジミー・リーチ氏の会社
http://www.freud.com/

チャドウイック氏の大学
http://www.rhul.ac.uk/Politics-and-IR/About-Us/Chadwick/Index.html
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Commented by マッドマン at 2008-05-19 18:09 x
ひどい内容のセミナーですねえ(爆笑)ジャーナリストの旗手として小林さんが手を挙げてみんなに教えてあげなけりゃ駄目じゃないですかあ(笑)「私のメディア・ウォッチを読んで勉強してください!」と言えないよなあ、ああいう会合では。
先日のロンドン市長選でYOU TUBEでの質問のやりとりにケンもボリスも労力を使っていたことが全く語られないって、最低の分析ですよ。
米国大統領選のネットの話題だったら、われらがロン・ポールの話題がでないというのもおかしい議論。マスコミから完全に遮断されて、ネットだけの展開であそこまで行っているんだからこれは革命的です。
前回の大統領選では「ブログ」が影響力になりましたが、今回はYOU TUBEが米国でも鍵になるでしょうね。
by polimediauk | 2008-05-19 02:29 | 政治とメディア | Trackback | Comments(1)

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