政治とメディア

英国の「クラス」とニューレイバーの終わり

 急に、英国のクラス(階級)システムに関する話が広がってきた。

 元をたどれば、1つには野党保守党のデービッド・キャメロン氏の台頭があるだろう。(この人は本当は何を考えているのか、よく分からない。非常に上手なマーケティングマンなのかどうか?政治信条がどうもぴんと来ない。それにしても、非常にしまった顔になってきたような気がする。キリリ。乗っているのだろう。)2001年に議員になったばかりなのだが、党首に選ばれてから、一時ふらふらしていたが、今は大分盛り返した。

・・・とキャメロンが保守党を盛り上げている内に(その大きな功績は影の財務大臣のオズボーン氏にもよるものだろうが)、今月頭には、ボリス・ジョンソン保守党議員がロンドン市長になってしまった。これで大きな風が吹いてきた。

 キャメロンもボリスも、いわゆる「トフ(上流階級)」というか、気取ったやつみたいな感じではあるのだが、「まあ、トフも悪くはないな」ことになってきた。というか、上流クラスであるから良いのではなくて、これまで上流であるとやっかみ・憎まれる感じがあったけれど(自分が上流や中流だと、わざと「労働者階級です」という人も多い)、それが「言っていることがまともなら、上流だろうが、いいものはいい」という風になってきた。

 そこでテレグラフ紙などが書き立てるのは「上流階級が人気!」という話である。それを「ニュースダイジェスト」にも書いた(以下)のだが、「上流階級が人気」というよりもむしろ、「あまり憎まれなくなった」と受け取っていただきたいと思う。

 そして、先日、地方の補欠選挙で、保守党候補が勝ったのだが、ここで労働党は大きな失敗をしてしまった。それは、保守党候補は「トフだ、上流階級の人間だ。普通の人の生活のことは分からない」として攻撃をする作戦を、労働党は実行したのだ。山高帽をかぶって貴族の格好をさせた人物を保守党候補の周りに置いたそうである、作戦として。

 これが逆に反感を買ってしまった。「いまさら、階級の事を持ち出すなんて、古い」と。選挙民はそんなことより、「各候補者が何をしてくれるか」を考えて見ていたのだった。

 新聞の中には、「これでニューレイバーは終わった」と書いたところも出てきた。ニューレイバーは、中流階級を取り込むことを狙い、成功したけれど、階級差のない社会を作るのがもともとの目的だったとしても、階級にこだわらない(上流階級に対する憎しみがない)感じがあったが、階級にこだわる=古い労働党、という印象を与えてしまった。

 総選挙は遅ければ2年先だが、本当に一時代が終わったという感じがする。

 ブラウン首相は本当にどうしてしまったのだろう。一番得意だった経済で失敗し(ノーザンロック、税金)、他の政策も後手に回り、保守党の政策のまねのような印象を与える。納税者に支援をするとダーリング財務相が前に発表したが、英中央銀行キング総裁に「資金の出所が分からない財政支援だ」と言われてしまった・・。(中央銀行を政府から独立させたのはブラウン氏なのに。馬鹿にされていてはいけない。)

 といって、労働党は、代わりに立てる人がいないのも事実だから、ブラウン氏でがんばるしかないのだろうが。(以下、ダイジェスト掲載分に加筆しました。)

(その前に1つだけ。私自身は、今、英社会を分けているのはクラスというよりも、お金のあるなしだと思う。リッチな人はどんどんリッチに!お金が自分たちのグループ内で回るのである。)

***
「上流」が格好いい?
  ボリス、キャメロンが火付け役か


 今月上旬、ロンドンの新市長にボリス・ジョンソン(「ボリス」)保守党議員が選出された。名門イートン校からオックスフォード大学で学んだボリスは裕福な上流階級家庭で育った点もキャラクターの一部だ。一方、ボリスとは大学の同窓生で同じく上流階級出身の保守党党首デービッド・キャメロン議員は同党のイメージアップに大きく貢献し、政権交代も夢ではなくなった。「Posh」=上流階級であることが格好いいと見なされるつつあるのかもしれない。

―名門校の出身者たち

―ハーロー校:チャーチル元首相、フセイン現ヨルダン国王、詩人バイロン、俳優エドワード・フォックス、歌手ジェームズ・ブラント
―イートン校:ジョンソン・ロンドン市長、キャメロン保守党党首、マクミラン元首相、ウイリアム王子、ヘンリー王子、俳優ヒュー・ローリー
―ラグビー校:チェンバレン元首相、数学者兼作家ルイス・キャロル、作家サルマン・ラシュディー、スポーツとしてのラグビーの考案者ウイリアム・ウエブ・エリス          ―チェルトナム・レディーズ・カレッジ:ザーラ・フィリップス、女優クリスティン・スコット=トーマス、TVタレントのタマラ・ベックウイズ


ー所属する階級の意識調査

自分は労働者階級だと思う: 53%    
中流階級だと思う: 41%
上流階級だと思う: 2%
分からない・無回答: 4%
(Source: Guardian/ICM Poll, 2007年10月実施)
(*この数字は解釈に要注意です。「と思う」のと、実際にそうであるかは違う可能性があるからです。)

ー階級の内訳と特徴
(これは英語版ウイキペディアを参照。さまざまな分け方があることをご了承ください。仕事のタイプと収入を合わせたり、A,B,C,D、Eで分けるやり方もあります。)

アッパークラス: 貴族、紳士階級、土地所有者など。先祖代々の土地や資産を受け継ぎ、国内で最も裕福な層。BBCのアナウンサーなどが使う発音で英語を話し、パブリック・スクールで教育を受ける。狩猟、乗馬などを楽しむ。ビジネスを嫌悪する傾向も。

アッパー・ミドルクラス: 教育程度の高い家庭出身で自分自身も良い教育を受けた層。アッパークラスの発音や生活様式を模倣しようとする。弁護士、医者、軍隊幹部、学者、官僚、株式ブローカーなど。文化的リーダーシップを取る。

ミドル・ミドルクラス: 上の階級よりは教育程度がやや低いブルジョアジー。地元企業の経営者、大企業の中間管理職など。BBC英語に少々地元のアクセントを入れて話す場合もある。

ローワー・ミドルクラス: ホワイトカラーに従事するが、大学には行かなかった場合が多い。多少地元のアクセントが入った英語を話す。相手の発言が聞き取れなかった場合、「パードン?」と言って聞き返すことが多い。

ワーキングクラス: 農業、鉱業、工場勤務者、ブルーカラーの仕事に就き、地元のアクセントの英語で話す。教育程度はあまり高くない。サッカーや大衆紙を好む層でもある。

貧困層:低所得者か社会保険を受給している層。

***

ーきっかけは

 「立候補自体がジョーク」と言われたボリス・ジョンソン保守党議員(通称「ボリス」)が、2日、ロンドンの新市長として当選を果たした。元欧州議会議員を父に持つ裕福な家庭で育ち、英国の名門パブリックスクール、イートン校からオックスフォード大学に進学した。卒業後はジャーナリストとして活動を続けながら、保守党議員にも選出された。ぼさぼさの金髪ヘアーとジョークの連発でテレビの人気キャラクターにもなり、いつしか「道化者(バフーン)」というニックネームが付いていた。こんなボリスのロンドン市長就任で、社会の上流階級に対する見方が変わりつつある。

 家柄、教育程度、職業、英語の発音や語彙、衣服の好みから趣味・志向によって、英国には様々な社会階級が存在する。分類は様々だが、大きく分けて上流(アッパークラス)、中流(ミドル・クラス)、労働者階級(ワーキングクラス)がある。上流階級の上に来るのは王室だ。社会のほんの数パーセントを占める上流階級は、非上流階級からすると、「気取っている」、「富を独占している」など、嫉妬あるいは揶揄の対象になることが多かった。

 ところが、典型的上流階級であることを隠さないボリスは多くのロンドン市民に親しみやすさを感じさせ、「ボリスなら、何かやってくれる」と思う選挙民の票を集めた。

 ボリスの選挙運動を後押ししたのが保守党の若き党首デービッド・キャメロンだった。キャメロンはボリスと同様にイートン校からオックスフォード大学に進んだ。上流階級の男性が入るクラブの典型「ホワイツ」に所属し、妻サマンサも16世紀にその端を発する上流家庭の出身。3年前に議員になったばかりのキャメロンは、暗いイメージの保守党に新風を吹き込み、1日の地方選では与党労働党に圧勝した。ボリスとキャメロンは上流であること(=posh)が「クール」だと思わせる役割を果たしているのだろう。

―新「posh」

 ボリスやキャメロンにはこれまでの上流階級とはやや違う面もある。2人とも、かつての上流階級のように運転手つき車でなく、可能な限り自転車通勤。ボリスは、労働者階級の語彙「メイツ」(仲間)という言葉をしょっちゅう使う。キャメロンは子供を私立校でなく公立校に通学させている。

 さらに視野を広げ、究極の上流、あるいは上流の一つ上の階級とも言える王室の例を見れば、ウイリアム王子もヘンリー王子も、普通の若者のようにサッカーの試合を見に行くし、ナイトクラブで飲みすぎではしゃいだり、中流階級の女性たちをガールフレンドにしている。「新上流」は旧上流と比べると、堅苦しさがないようだ。

 デーリーテレグラフ紙(7日付け)は、新上流が好感を持って受け止められているのは、「お金がすべて」という昨今の風潮への「反動」と分析している。「階級付けは意味がない」、「差はあいまいになった」と指摘する人もいるが、ガーディアン紙と調査会社ICMが昨年行なった調査によると、89%が「階級によって人を判断する」と答えており、階級と英社会が切っても切れない関係にあるのはしばらく変わらないようだ。

ー関連キーワード
ETON COLLEGE: イートン校。1440年、ヘンリー6世が創設した男子全寮制の私立中等教育機関。ロンドン西郊外に位置し、18人の首相経験者を輩出するなど、英国の名門パブリックスクール(私立中等教育機関)の中でも最高峰とされる。元々は貧しい少年たちに無料で学問の機会を与えるために設立された。生徒数は現在約1300人で、約15%が外国人。学費は年間約2万6000ポンド(約540万円)で、裕福な家庭の子弟が多い。ほぼ全員が大学に進学し、その3分の1はオックスフォード大学かケンブリッジ大学に。ウエストミンスター、ウインチェスター、イートン、ハロー、ラグビー、マーチャント・テイラーズ、セントポールズ、シュルーズベリー、チャーターハウスの9校は「ザ・ナイン」と呼ばれる英国の代表的な名門校だ。
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Commented by マッドマン at 2008-05-27 14:56 x
資本と国家が結婚した時代を「近代」、離婚した時代を「新中世」と最新の経済学では言うらしい。英国や日本は後者。成長中の中国やBRICKSは
まだ前者。前者では「富の二極化」が起きている。英国も日本も米国も今では経済的な「中流」が消滅してしまいました。ロンドン市内にまともな家賃を払える所得がある会社員はシティ勤務の高額所得者だけ、などといわれていますね。「ワーキングクラス」層がさらに没落して「ワーキングプア」という層が生まれているわけです。
ところで、「ダイジェスト」でのいい記事は、小林さんが書いた記事が多いんですね。どうして、匿名になっているの?
Commented by polimediauk at 2008-05-30 16:16
マッドマンさま

リッチとプアの二極化は英国も日本同様、そうですね。ただ、二極化はずーっと続いている感じがします。みんながそれを認識していると。その差が広がっているということですよね。「ダイジェスト」のあのコラムは匿名コラムなんですよね・・。といっても「銀」という印は付くんですが。もう一人と2人でやっているんですが、署名にしてもいいかも分かりませんね。もう一人の女性は政治に強い人なんですよね。なるべくニュートラルにしたい、という意図があるらしいですがー。
Commented by こんにちは at 2008-12-10 05:09 x
がんばってください!
by polimediauk | 2008-05-26 07:34 | 政治とメディア | Trackback | Comments(3)

ジャーナリズムの話いろいろ+欧州事情も


by polimediauk