小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

英メディア・トーク「ネットでどうやってお金をもうけるか?」+仏国営放送

 ・・・と書いたからと言って、私が「(メディアが)ネットでどうやってお金をもうけるか?」の妙案を持っているわけではない。(最初にお断りしておきたいが・・・。)

 ロンドンのメディアクラブ「フロントライン・クラブ」で、26日、政治ブロガーやガーディアンとテレグラフのネット担当者が集まり、「これからのメディア(新聞)はどうやって、ネットからお金をもうけたらいいのか?」というテーマでしゃべりあう、というイベントがあった。(登録してログインするとビデオが見れるはずである。)

 http://www.frontlineclub.com/club_pastevents.php?startdate=2008-06-01&enddate=2008-06-27

 出席者は、司会役が写真家・ブロガー・ジャーナリストのベン・ハマースリー、テレグラフのイアン・ダグラス、ガーディアンのマット・ウェルズ、政治ブロガーのポール・ステインズ(「グイド・フォークスGuido Fawkes’ Blog」)、プレスガゼット誌のコラムニスト、ピーター・ケーウィン(敬称略)。

 メモ+記憶から一部を採録したいが、このイベントでは、ブログ(=自分のメディア)に広告を入れることで、本当の意味で自営となり、「来てくれた人が読みたいことを書くことに徹底し、大人気となり、怖いものがなくなってゆく・・・」とう、ブログ「グイド・フォークス」のブロガー+ジャーナリストのやり方・考え方に、結構触発された。

 最近、本を楽しんで読んでいる。紙の新聞もおもしろい。情報を取る、アイデアのヒントを得るにはネットが良いが、後で紙でまとまったものを読む、というのもなかなか楽しいものだ。これからのメディア(文字情報+絵+動画)はネットが主で、印刷物がその周辺にさまざまな形で存在する、ということになっていくのだろう(か)。自分の気持ちとしてはこの形がもっともしっくりするけれども、問題は、「さて、ネットだけになった時、それだけで生活費をカバーできるようにするにはどうするか?」だ。これは英国(だけには限らないだろうけれども)の新聞業界の大きな悩みでもある。

 いや、大きな悩み「だった」とも言えるかもしれない。どうやら、英新聞業界は(ライバル社には言わないようにしているようだが)、うすうすとだが、どうやってネット時代で生き延びるか、食っていくかの感触を得ているようだ。小さな成功例を、結構コツコツと集めている感じがする。近いうちに、インダストリアル・スタンダードというか、形がもっとはっきりしてくると思う。(読まれている方で、もう答えを知っている方もいらっしゃるかもしれない。)

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(以下記憶+メモ書きによる採録。正確にはビデオを参照のこと。)

 マット・ウェルズ(ガーディアン):印刷した紙(の上のジャーナリズム)が「聖なるもの」とする考え方はもはやなくなってしまった。(紙の)新聞産業に将来がないとみんな言うけれど、シリアスなジャーナリズムの必要性の余地はまだまだある。今日はプリント・ジャーナリズムの将来を考えるということだが、実は、将来は、今ここにある、と言ってもいい。もう将来が始まっている。

 将来がどうあるべきかということよりも、問題は、みんな(業界が)視聴者が何を欲しがっているのか分からないのだと思う。どんなジャーナリズムを欲しているのか、どのような形で提供するべきか、が。既に古いビジネスモデルは崩壊してしまったのだと思うが、新しい需要が何か、そしてどうやって新しい環境でお金をもうけてゆけるのかが、分からない。

 ジャーナリズムは盛んだと思う。何かを知りたいという人々の欲求は非常に強い。

イアン・ダグラス(テレグラフ):ジャーナリズムは最高の状態にあるという点に同意する。みんなが読みたい、関わりたい、知りたいと思っている。読者の要求は多様だ。その要求に全部応えられていない。テレグラフという媒体の地位はしっかりしていると思う。

ピーター・ケーウェン(プレス・ガゼット):ガーディアンはどんどんお金を失うばかりだ。お金を失うのは簡単だ。何故お金を失うのか?まず、英国には全国紙が多すぎると思う。市場が過剰サプライ状態なのだ。これはもう長年続いている傾向だ。今後、存在が消滅する新聞は出てくるだろう。例えばタブロイド紙のデイリー・エキスプレス紙だ。地方紙も大きく2,3のグループに統合・淘汰されていくだろう。全国紙がもっと地方ニュースをカバーするなど、吸収される場合も増えるだろう。新聞のウエブサイトは、ずい分動画(「テレビ」とウェブサイトは呼ぶ)を入れている。5年から10年ぐらいで、テレビのニュースと新聞のウェブサイトがやっている動画ニュースが対立するようになるだろう。統合・淘汰がここでも起きるだろう。

 そこで勝ち組になるのは、ガーディアン(スコットトラスト所有)やテレグラフ(バークレー兄弟所有)のように、プライベートで所有されている新聞だろう。つまり、もっとリラックスした経営、編集ができるからだ。

ポール・ステインズ(ブロガー):自分のブログは利益が出ている。ガーディアンのようにお金を失っていない。何故か?簡単だ。まず、コストを非常に低く抑えている。(利益は広告からと後で答えている。)もう一人、コンピューター関係の人に手伝ってもらっているけれど、編集は一人でやっている。

 テレグラフやガーディアンは1つのニュース・ブランドだ。一定の権威があって、物事を語っている。しかし、私のブログは、他に人気のイアン・デイルによる政治ブログ同様、負けないほどの大きなトラフィックがある。

 誰だって、私のように情報の発信者になれる。(自動車番組の人気キャスター)ジェレミー・クラークソンが自分のサイトを立ち上げて情報発信すれば、すごいトラフィックがあるだろうと思う。ガーディアンのトラフィックを軽く超えてしまうのではないか。

 私の予想では、個人のそれぞれがサイトを作って情報発信をすることで、いくつものユニークな場ができて、ニュース市場はバラバラになっていくと思う。それぞれ専門のサイトがたくさんできる。

司会:ガーディアンはウェブサイトでお金をもうけているかどうか?

ウェルズ:ウェブサイトではお金をもうけていない。でも、11月から紙部門とネット部門が統一する。今までは紙とネットの人が別々に働いていた。これからは一緒になる。どちらにも書く、というのが続くと思う。

司会:お金を失い続けてもいいのか?

ウェルズ:ガーディアンはニューテクノロジーにずっと投資を続けてきたので(これからも続ける、赤字でも)。新聞業はずっとお金を失っている。

ステインズ:ガーディアンは博物館になるだろう、そのうち。

ウェルズ:スコットトラストが最後まで際限なくお金をカバーしてくれるとは思わないけれども、今は利益を出さなくてもよい、と言われている。

ケーウェン:新聞業自体で利益を出すことができなくても、メディアグループの中に入っていれば(他の部門でお金を稼げば)大丈夫だ。しかし、会社の構造そのものを考える時、(ガーディアンやテレグラフなど)は新聞編集作業の周辺にいろいろお金がかかる構成要素がついている。例えば、(ロンドン市内の中心地に)オフィスは必要なのか、など。すべてを自社内だけでやるのではなく、将来的には、多くの業務をアウトソーシングするのは可能だと思う。例えばたくさんフリーランスを使うとか。ジャーナリスト自身が整理・レイアウトをやるとか。

ステインズ:新聞の将来というと、オンライン広告の可能性に関してよく考える。例えば、政治ブロガーのデール(先述)は、他の媒体にもコラムを書いたりしているし、他の収入源があるのだろうが、それでも、数十万ポンドの収入を得ていると聞いた。いろいろなトピックで他の人もできる、ビジネスモデルとして。例えばファッションについてのサイトでもいいだろう。既存の新聞だって、考えればもっとうまくやれる。

 私はジャーナリズムうんぬんよりも、一般大衆を対象に書いている。読者が読みたいことを選んで書く。これは、ニューヨークタイムズだって同じことをしていると思う。自分のブログもニューヨークタイムズもジャーナリズムだと思う。

司会:テレグラフがデイリーメールのサイトのような、極端なコラムを出せないのは何故か?何か妨げているものはあるのか?

ダグラス:私たちは幅広いトピックを扱おうとしているものの、特に何かが妨げになっているということはない。視聴者(オーディエンス)との双方向性を重視している。

ウェルズ:ジャーナリズムが1つのメディアだけの独占である時代は終わったと思う。いろいろなプラットフォームを通して語る、というのが成功するジャーナリズムだと思う。

ダグラス:テレグラフは読者にブログサービスを提供している。双方向性。意見をシェアし、互いに評論しあう。人々が何を読みたがっているのか?広告主も関心がある。ブログサービスを通して、核となる少数の読者と長い関係を持ちたいと思っている。

ウェルズ:シリアスなジャーナリズムはやるのが難しくなっていると思う。BBCは大体できていると思うし、「エコノミスト」もそうだけれど。まあ、エコノミストは評論だが。ジャーナリズムでお金儲けはできない。基本的に利益は出ない。といって、ガーディアンがシリアスなジャーナリズムをやめることはないけれども。

ステインズ:「シリアスなジャーナリズム」?それって、人を見下ろした感じがするけど?自分はジャーナリストだと思っている。(BBCの政治記者マイケル・クリック)と全く同じアプローチで取材する。ただ、自分は、人が受け入れやすい形でアウトプットするだけだ。人気がある、調査報道をしている。これの何が問題なのか?

ウェルズ:ジャーナリズムっていうのは、1つの行為として誰でもできる。誰かが、「自分は(本当の)ジャーナリスト、あなたは市民ジャーナリストって考えない方がいい」って言っていた。

ステインズ:私はコストを低くし、読者のターゲットをしぼっている。スーパーマーケットみたいにすべてをやろうとはしていない。

司会:紙で印刷するのをやめてしまったらどうか?

ダグラス:うーん・・・。今までずっと続いてきたからなあ・・。

ステインズ:ウェブサイトの動画でもうけているのは、フィナンシャルタイムズだけなんだよ。ビデオに広告を載せているからだ。

ウェルズ:テレグラフは動画を作るのをITNに任せているから、ITNに制作費を払っている(だからもうからないんだ)。

司会:毎週の「メディア・トーク」(オーディオクリップ)を作るのにどれくらい時間をかけているのか?

ウェルズ:20時間―30時間ぐらいだろう。でも、将来的にこのクリップでお金をもうけることができるだろうと思う。今度、広告を入れるからだ。動画はクリックすると広告が入るが、オーディオに入れるのが難しかった。

ダグラス:テレグラフも動画に広告を入れているが、実はこの広告費が結構いい。プレミアム価格をつけるビデオもある。

ケーウェン:2-3年前にビデオを見たとき、これは伸びるなと思った。これから、大きな収入源になっていくと思う。

ステインズ:ビデオは自分はやらない。15分のまともな動画を作るのに、8時間はかかるから。時間がかかりすぎる。

ケーウェン:今後は、プライベート・エクイティーなど、さまざまな投資家が市場に参入してくると思う。もっと企業家も出るかもしれない。

(質問:ガーディアンはネットと紙を本格統合するということだが、例えば整理担当者を減らすとか、テクノロジーの発展で、人員削減をするという話はないのか?)

ウェルズ:整理をはずして、ジャーナリストが作る、ということは今のところはない。ただ、いちいちデスクに見せずに、チーム内だけで完結して載せてしまおうと思っている。(司会:そんなことしていいのかな?法的な問題に発展しないのか?まあ、いいけれど。)

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 感想:ニュース制作場所としては非常に大きな組織になっているガーディアンやテレグラフ。もし「本当に困っているなら」、プレスガゼットのコラムニスト、ケーウェン氏がちょっと言及したように、「整理部をすっとばし、ジャーナリスト自身が面を作るところまで」行ってもいいのではないか?アウトソーシングのことも含め、まだまだできることがありそうだ。昔、自分自身が記者でありながら、紙面も作っていた経験を考えると、やればできる感じがする。本当の昔の話からすれば、紙面デザインも考えるのは「邪道」とも言われそうだけれど。でも、簡単な写真なら記者自身が撮影するのは今は当たり前だし。私はテクノロジーに強くないが、それでも、デザイン・紙面制作は非常に役に立った。

 それと、共同電(産経新聞ウェブより)だが、フランスの動きも気にとめて起きたい。国営放送でもコマーシャルがあったこと自体、英国の感覚からすると、驚きであるが。

http://sankei.jp.msn.com/world/europe/080626/erp0806261011004-n1.htm

仏国営テレビCM廃止へ
2008.6.26 10:11

 フランスのサルコジ大統領は25日、国営テレビ「フランス・テレビジョン」のコマーシャルを2009年1月から段階的に削減し、11年12月に全廃する方針を表明した。商業主義に左右されない質の高い番組制作の実現が狙いとしている。

 年間6億5000万ユーロ(約1098億円)の代替財源として、電話事業者やインターネット接続業者、民放から新税を徴収する意向。法律改正案の国会審議は秋に始まるが、電話事業者や国営テレビの職員組合、野党などが反発しており、審議は予断を許さない情勢だ。

 1世帯当たり年間116ユーロの受信料とコマーシャルからの収入の2本柱で成り立つ国営テレビの財源に関し、サルコジ大統領は1月「公共放送に求められるのは質の高さだ。商業主義に流されるわけにはいかない」と強調。国会議員らでつくる諮問委員会に検討を委ねていた。

by polimediauk | 2008-06-29 08:59 | 新聞業界