小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

英児童ポルノサイトで、表現の自由侵害の懸念

 欧州と英国の児童ポルノサイトの規制に関して、新聞協会報6月24日付けに原稿を書いたのだが、日本の例との比較を入れたいと思いながら時ばかりが過ぎてゆくー。一旦、ここで出すことにしたい。(掲載分に加筆。)

EU加盟国で規制進む
 ー英・児童ポルノサイトで、
  表現の自由侵害と懸念も


 児童ポルノなどのサイト規制をめぐり、欧州連合(EU)は今年末までの3か年で4500万ユーロ(約75億円)かけ、「インターネットをより安全にする計画」を実施している。加盟国のうちフランス政府は6月10日、プロバイダー各社と協力し、児童ポルノ、テロや人種憎悪をかきたてるサイトの封鎖策を今秋から実行すると発表した。英国、デンマーク、ノルウェー、米国などに続く措置。英国では、児童ポルノ「画像」の解釈を広げる新法制定も進む。しかし規制強化には、表現の自由の観点から疑問の声も上がっている。

 EUの「ネット安全計画」は児童虐待、人種差別や外国人への嫌悪感を増幅させる「非合法あるいは有害な」コンテンツを減らし、ネットをより安全な環境で使えるようにすることを目指すという。①非合法・有害コンテンツに関するホットラインの設置②フィルタリングソフトの研究③ネット業者の自主規制能力の向上に努める――の3点を主な柱とする。

 規制は自由な表現行為を侵害する可能性がある。しかし児童の保護を重視する姿勢は欧州諸国に共通する。

 フランスのアリヨマリ内相は報道陣に「監視社会にするつもりはないが、児童を虐待から守りたい」と述べた。9月以降、利用者からの情報をまとめ「ブラックリスト」を作成する。この情報をプロバイダーに伝え、アクセスが封鎖を求めるとともに、内容により司法当局や国際刑事警察機構などに連絡する。

 英国ではブリティッシュ・テレコム(BT)が、児童ポルノの画像が掲載されたサイトを識別する「クリーンフィード」と呼ばれるサービスを利用し、非合法のサイトへのアクセスを遮断する。児童ポルノ画像、刑法違反となるわいせつな内容でないかや、人種憎悪を扇動するものではないかを監視する非営利の自主規制組織「インターネット監視財団」(IWF)(EUとオンライン業界が運営資金を持ち、会員はプロバイダー、携帯業界、メーカー、ソフトウエア企業など)がブラックスリストを作り、BTなどプロバイダー側に削除やユーザー側への警告・注意喚起などを行うよう推奨するほか、取り締まりを当局に求めることもある。児童ポルノサイトへのアクセスを制限するBTのソフトが、1日に接続を遮断する回数は、IWFによると「3万5000回」に上る。

 英政府は4月、青少年が安心してSNSサイトを利用できるようガイドラインを発表し、プロバイダーに「SNSで許される行為と許されない行為の明記」、「利用者の身元情報の定期的確認」などを求めた。政府が管理する性犯罪者の電子メールアドレスをSNSサイトの運営者に渡し、犯罪者のサイト加入を防ぐという施策も発表した。ネット上の治安問題を扱う「ネットインテリジェンス」社のフィル・ウオームス代表は複数のアドレス取得が容易なため、「性犯罪者の電子メールアドレスを渡すという方法は効果がない」としながらも、「児童をネットの危険から保護する施策がやっと出始めた」と歓迎した。

 英国では児童保護法で児童のわいせつな写真(動画を含む)や「写真に近い表現」(コンピューターグラフィックスなどの視覚表現を含む)の配布と、宣伝目的での撮影、撮影を許可、作製(ダウンロードも含む)、所持、上映などは違法と定められている。

 しかし、現行法では「写真以外の視覚的表現の所持」のみを対象として違法とする法律はない。捜査当局や児童保護団体からの懸念を受け、新法によりこうした画像の所持も違法とする考えだ。同様の法令はアイルランド、ノルウェーのほか、カナダ、米国オーストラリアで施行されている。

 ガーディアンのコラムニスト、マーク・ローソン氏は、新法制定の動きの背景には、02年の米国最高裁の判例があると指摘する(ガーディア電子版5月31日付け)。この時、CGで作った児童ポルノの画像が容疑者の「表現の自由」から禁止措置に至らなかった。英政府は、「法の抜け道」の存在に、この時気づいたのではないかー。

 CGや漫画で描くポルノ画像の単純保持を禁止する新法作りは、「自由な芸術表現に対する危険をはらむ」とローソン氏は述べる。法務省の意見聴取では「思想警察のような動き」とする反対意見が出された。

 しかし、厳格化への流れはおいそれとは変わりそうにない。昨年8月、児童ポルノのサイトから画像をダウンロードしたことで著名男優が有罪となり、性犯罪者リストに名前が登録された。「児童虐待を犯したわけではない。厳しすぎる」(オブザーバー紙、07年8月5日付け)とする声への賛同者が出たが、「違法行為だったことは確か」とする多数派にかき消された。

 ローソン氏は、今年が(監視社会の同義語となった小説)「1984年」になるかもしれないと危惧する。
by polimediauk | 2008-07-10 06:52 | ネット業界