政治とメディア

英政治家のお気に入りとは?「ボーデン」と「オカド」

 総理の候補者の会見をテレビで見た。もうすでに「内定」があるのかどうか。候補者の中で「(国際)テロ」と「日本の貢献」に言及があり、ドキッとしてしまう。この「テロ」がアルカイダや他イスラム系テロのことを指しているのだとしたら、英国ではこうした「国際テロ」は非常に空虚に響く言葉になっているような気がする。

 ブレア前首相の時代、イラク戦争開戦までの経緯で、政府が、イラク(=外国)の大量破壊兵器の脅威を誇張していたことが暴露されている。「嘘をつかれた」と感じる国民はまだ多い。また、王立国際問題研究所も含め、複数のシンクタンクなどが、アルカイダ+イスラム系テロの脅威は、米英のプロパガンダ的部分があったことを明らかにしている。

 それにしても、「国際」というのはずいぶんと効力がある言葉だ。「国際社会の要求」がある、というと、なんだかすごいことに聞こえる。あたかも「国際社会」がどこかにありありと存在し、日本に要求している・・・ような。米国の要求だけであったりするかもしれないのだが。「国際」(社会の要求)という言葉がマジックワードのような効き目を果たすのは、それだけ日本がいわゆる「国際社会」つまりは外国から(心理的に?)遠いということなのだろうか?あるいは国際的にもっと「顔」を見せたいと言う意識のあらわれか?いずれにしろ、「国際社会の要求」と政治家が言うとき、いつも「?」と思ってしまう。

 さて英国の政治家の話だが、チャーチル元英首相なら葉巻、サッチャー元首相ならハンドバックと、トレードマークになっている品物がある。政治家のお気に入りとして最近注目を浴びているのが、キャメロン保守党党首が愛用する衣料品のカタログショッピングのブランド「ボーデン」と、クレッグ自由民主党党首が好きなショッピング・サイト「オカド」だ。それぞれが中流階級向けで、低所得層とは一線を画す政治家の生活が垣間見える。「英国ニュースダイジェスト」最新号で、両ブランドに着目した。

―「ボーデン・マン」とは?

 ボーデンとは:衣料品のカタログ・ショッピングの会社。http://www.boden.co.uk/ 1991年設立。中流階級向けの品揃えで人気に。典型的顧客のイメージは「ケイト(妻、39歳)、ジェームズ(41歳)。高級紙を読み、平均年収は5万5000ポンド(約1000万円)以上。ケイトは素敵な中流階級の妻で、家族が何を着るかを決める」。

 「ボーデン・マン」とは:ボーデンの衣料を愛用する男性たち。「かつては労働党に投票したが、今後は決してしないと心に誓う男性。環境保全に関心が高く、子供が育つ世界の行く末に懸念を持つ」(評論家ニック・フォークス氏による)
 お気に入りの政治家:デービット・キャメロン保守党党首
 意外なファン:トニー・ブレア元党首も休暇中、ボーデンの花柄のショートパンツ姿を披露。

―「オカド」とは?

 オカドの名称:造語。新鮮さの維持が最も難しいフルーツ、アボカドを連想させる。多忙でショッピングの暇がない人々に、スーパーに行かずとも食料品を購入できる「もう一つの機会」を提供するために、元投資銀行勤務者3人が2000年設立。
オカド・サイトの提供品:高級スーパー「ウエイトローズ」で販売されている品目。
お気に入りの政治家:ニック・クレッグ自由民主党党首。信用収縮で家庭の財政が悪化し、オカドを泣く泣くあきらめたと言う。

―浜辺を歩くデーブとサム

 今夏、デービッド・キャメロン野党保守党党首は妻のサマンサ(サム)さんと手をつなぎながら、イングランド南西部コーンウォール地方の浜辺をリラックスした様子で歩いた。砂の上に腰を下ろした2人は、互いを愛情を込めた視線で見つめあったー。どこから見ても完璧な、幸せそうな夫妻の様子を、報道陣のカメラが追った。夫妻の写真は翌日の新聞各紙に掲載され、「休暇を心から楽しめるほど余裕のある政治家、安心して政治を任せられる男性=キャメロン」のイメージ作りに大いに貢献した。

 休暇中、浜辺でフリスビーをしたキャメロン党首は花柄のショートパンツをはいていた。後にラジオの番組でこの格好に関して聞かれ、「ボーデンだよ。もう何年も着ている」と告白した。サムさんが選んで買ってくれたことも。

 ボーデンは、中流階級向けの衣料品カタログショッピングの会社だ。商品の特徴は「スマート・カジュアル、クリエイティブだが伝統的、やや少女趣味、英南部に住み、インターネットに親しむ人が好むスタイル」(タイムズ8月3日付け)。ボーデン式生き方とは「保守党を支持し、ニュー・レーバーを嫌い、良い仕事は重要だが家族や友人、休暇や冗談を言い合うことの方がもっと重要と考え、自由と正直さを大切にする」(ジャーナリスト、チャールズ・ムーア氏の定義)。ボーデンはキャメロン党首自身、あるいはキャメロン氏が「こうありたい」とする保守党のイメージに重なる。(ちなみに、この原稿を書くため、ボーデンのウェブサイト見ていたら、女性用カーディガン79ポンド、約1万6000円などやや高いのだが、自分も家族のために購入したくなった。新聞のチラシとして時々入ってくるのだが、その時は「高い」と思い捨ててしまうが、サイトで見ているとをなんとなく購買欲を刺激される。)

―財布の紐を締めるクレッグ氏

 一方、ニック・クレッグ野党自由民主党党首も、自分のお気に入りのブランドを挙げている。高級スーパー「ウェイト・ローズ」の食品をウェブサイト上で注文し、自宅まで届ける「オカド」である。

 クレッグ氏はオーガニック食品や「フェアトレード」ブランドも好み、牛乳パックは紙を無駄にするからと、瓶詰め牛乳を配達させるほど、環境問題に関心が高い。弁護士の妻との共働き家庭で忙しい毎日を送り、食料品をネットで注文できるオカドをよく利用してきたと言う。わざわざ店舗を訪れる必要がなく、地球環境保全にも貢献できるというのがオカドの売りだ。

 昨今は住宅価格が下がり、銀行の貸し渋り状態が続く。全国的に住宅ローンの返済に苦しむ人が増え、クレッグ氏は「国民の皆さんの気持ちはよく分かる、と報道陣に向かって語った。「うちもローンの返済に苦しんでいる」と告白し、「妻がオカドでのショッピングから、価格の安いセインズべリーズに変えざるを得なくなった」と「窮状」を訴えた。「国民の苦しみを共有する政治家」というメッセージが込められていた。

 しかし、クレッグ氏の議員給与は6万ポンド(約1200万円)を超え、ロンドンにある5つの寝室付き自宅は時価1・3億ポンドを下らないと言われている。「国民の苦しみを共有」が、何とはなしに白々しく聞こえないでもない。また、セインズベリーズよりも安いスーパーは複数ある。「乗り換えるなら(さらに安い)アスダにするべきだったのでは」という声が一部で出た。

 さて、ゴードン・ブラウン首相のお気に入りのブランドとは?首相就任1年余だが未だイメージが湧かないのが少々寂しいこの頃である。

―「ジョニー・ボーデン」とは

JOHNNIE BODEN: カタログ・ショッピングの会社「ボーデン」の創始者。47歳。自称「スノッブ」。キャメロン保守党党首同様、名門イートン校からオックスフォード大学に進む。投資銀行勤務後、労働者階級の利用度が高いカタログ・ショッピング界を変えようと、中・上級階級向けに高品質の衣料品を販売するボーデンを立ち上げる。「ポップアイドル」など「低俗な番組を見ない人に向けて販売する」と宣言した。シーズンごとの新ラインアップの宣伝文句を自分で毎回書く。ボーデンの年間売上高は1億5000万ポンド(約291億円)に上る。
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Commented by elmoiy at 2008-09-10 23:25 x
小林様

イラク関連のことで質問させていただきたいのですが、ブッシュ大統領の
「われわれはドイツと日本を民主化したから、イラクも民主化できる」という主張について、イギリスの政治家・知識人・国民は本気で信じていたのでしょうか?

そもそもイラクと日本では、歴史も社会の成り立ちもぜんぜん違っているのだから、日本で成功したやり方をそのまま持ち込んでもうまくいかないと思うのですが。
Commented by polimediauk at 2008-09-11 09:03
elmoiy さま、

日本とドイツの例を出し、イラクも民主化できる、ということをブッシュ大統領が述べた件(具体的に知っているわけではないのですが、こういう論理をよく聞きましたよね)で、話の流れというか、スピーチの原稿作りで、こういう言い方はブッシュ大統領でなくても、一時、よく聞いたように記憶しています。実際、英国でも、英国の知識人(それこそ王立研究所とか、在英大使とか、例えばですが)がそう言ったり、書いたりしていたのも記憶しています。おそらく、データベースで検索すれば相当のものがあるのではないでしょうか。振り返ってみると、おそらく、楽観論が当初(2003年ー2004年)あったのではないでしょうか。確かにイラクと日本ではぜんぜん違いますが、そしてそれをこういう発言をした人も知ってはいたでしょうが、やはり、「占領後に飛躍的に成長」のモデルとしては、日本とドイツというのははずせない成功例ですから、話の流れとして、あるいはスピーチ原稿の作り方として、これを入れる、ということは大いにあったように思います。
Commented by polimediauk at 2008-09-11 09:09
(続き)その時代の雰囲気に逆らって、というか、冷静に物事を見極めるのは難しく、「イラクも民主化できる(この言葉自体あいまいですが)」と言いたい政府側の思いもあったでしょうし、楽観論がその場に充満していた感じがします。単純にそう信じていた人はいたでしょうし、こうした主張を聞く側も、「ゆくゆくはイラクも日本のように・・・」と感じたのかもしれません。イラクの統治政策に関しては、今「インディペンデント・ディプロマット」という本を書き、シンクタンクも立ち上げた英国の外交官がかつて王立研究所のセミナーで言っていましたが、アラビア語を話せる中東専門家ではなくて、英国の首相官邸や米大統領周囲が決めた、ということで、「イラクはどんな国か」に関して、十分な注意が注がれなかったという経緯があるようです。

今では、イラクと日本+ドイツを並べて語る人は非常に少なくなったのではないでしょうか。さすがに今は・・・。
Commented by polimediauk at 2008-09-11 09:20
(続き)英国の知識人が本気で信じていたのかどうか?のご質問ですが、「ゆくゆくはそうなってほしい」、「いつかはできるだろう」などの楽観論があって、あるいは究極の成功例としての日本とイラクを並べるという論理を本気で信じていた人も少数いたかもしれません。

しかし、イラク(統治できない国と表現した英政治家もいたと思います)と(戦前の)日本では本当にずいぶん違い、そのまま前のやり方を持ち込んでもうまくいくはずがないですね、確かに。これを英国の知識人は知っていたはずですが、そうした声は当初、表には出なかった、という感じがします。また、ブッシュ大統領の主張は、一般的にあまり重くは受け取られていませんね、英国では(馬鹿にされていると言ったほうが早いかもしれません、これが妥当かどうかは別にして)。





Commented by elmoiy at 2008-09-11 21:11 x
>これを英国の知識人は知っていたはずですが、そうした声は当初、表には出なかった

やっぱりそうですか。アメリカでも、日本専門家はうまくいかないと言っていたようですけれど。

アメリカはベトナム戦争時も、戦後の日本で行った農地改革をベトナムで
行おうとして失敗した経緯があるのですが、どうも過去の歴史の経験から
学んでいないように思えます。
Commented by マッドマン at 2008-09-12 20:19 x
イラクの人民は60年前の日本人に対してシンパを感じているでしょう。今でも親日が多いしね。僕の学校でもトルコ人、イラン人など中東の人はみんな親日ですね。明治政府というのは英国の傀儡政府でしょう?インドのような植民地にせず、間接統治として「天皇制」という「擬似」の皇室を
英国のように真似た人工的な民主化を歴史的に成功させた例ですよね。
それで米西戦争で米国がフィリピンを統括して、日本をだましてまた天皇制の上にインチキ民主主義を構築したから、それでアジアがいけると
思ったら。1951年の朝鮮戦争で失敗。65年のベトナム戦争で大敗北、
91年の湾岸戦争から03年のイラク攻撃と、失敗の連続。GUN BOAT
DIPLOMACY「砲丸外交」というのは20世紀の遺物ですよね。
ヒットラーのタブーが日本の天皇以上に今でもすごいですから、たしかに
イラクとドイツと日本を語る人は世界では少ないけど、日本人の言論人では多いはずです。漫画家の小林よしのりがそうだし。
by polimediauk | 2008-09-10 22:05 | 政治とメディア | Trackback | Comments(6)

ジャーナリズムの話いろいろ+欧州事情も


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