政治とメディア

BBC記者が見た福田元首相+インディー補足

 麻生内閣が成立したが、これにちなんでBBC記者が「日本の政治は回転ドアのように」くるくるとトップが変わる、と述べている。「フロム・アワ・コレスポンデント」というBBCのラジオ番組の中で、27日放送された。世界にいる特派員が個人的な視点から駐在国について語る人気番組だ。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/programmes/from_our_own_correspondent/7637286.stm

 日本の政治のトップが変わるという話は新しい指摘ではないが、まるで「カラオケ」のように曲目が矢継ぎ早に変わり、それに応じて歌い手もどんどん変わっていく・・・という比ゆがおもしろくも聞こえた。

 しかし、注目なのは、日本の政治家が外国のメディアとどうつきあっているのかが分る、非常に貴重なエピソードを披露している点だ。

 福田前首相の話になるのだが、2006年からBBC特派員として日本にいる記者に、ある時、いよいよ首相と一対一のインタビューの機会が巡ってきた。これまで、「日本を本当に動かしているのは政治家ではなく役人だと言われてきた」という記者が、これをしみじみと実感したのがこの取材だった。

 首相の周りのブレーンは、福田氏が何か失言をしてしまうのではないかとかなり心配したようだ。取材日の何日も前から、インタビューではどんなことを聞くべきか、聞くべきでないかに関しての交渉が続いた。

 取材当日、記者が取材用の部屋に入ると、スーツ姿の男性たちがたくさんいたと言う。この日、役人たちが福田元首相が話すべき内容として考えたのは環境問題だった。福田氏に話して欲しい内容を「テレプロンプター」(せりふを教える装置)に書き、これを取材者である記者の左耳の後ろの位置においた。これでは自然な受け答えには見えないとBBC側が指摘したが、意に介されなかった。また、インタビューの冒頭で福田氏が声明を読み上げることになった。BBC側はこの部分は放送されないと言ったが、それでもかまわないといわれたようだ。

 福田氏が姿を表すと、すぐにインタビューが始まり(通常はインタビュー開始前にちょっとした会話をするのが普通)、氏はテレプロンプターに書かれた声明文を読み始めた。福田氏がまじめにやっているので、記者も一生懸命これを聞いたようだ。この部分は放送されないと分っていても、読むように言われたので読んでいるのだった。

 記者は、ちょっとした遊び心から、質問の順番を変更して福田氏に質問をしてみたという。周りにいたアドバイザーたちのあわてた様子を記者は描写しているが、福田氏は動じることなく答え続けたと言う。

 記者は、福田氏が「非常にインテリジェントな人物であることは確か」にも関わらず、まるで操り人形のようであったことで、「落ち込んだ」と書いている。

 これはもしかして、文化の違い、ということもあるのだろうか?「正しくやろう」、「良いイメージを伝えたい」と思うあまりの行為、一生懸命さが逆にマイナスになってしまったということなのか?

 しかし、結局のところ、慣れなのかな、とも思う。外国の報道陣に取材慣れしているかどうか。あるいは外国人とのつきあいがあるかどうか。(あまりびびらず、力まず、自然体でがんばって欲しいものだがー。)

―インディペンデント補足
 
 インディペンデント紙には「あまり読むところがない(読みたい記事が載っていない)」という、メディア評論家ロイ・グリーンスレード氏のコメントや知人の感想について前回書いたが、(実は)こう感じるのは(もちろん)人による。

 特に前の編集長サイモン・ケルナー氏の時に明確にされた・強調されたのが、インディペンデントの「オルタナティブな新聞」としての位置だ。発行部数が3倍以上あるテレグラフ紙に追いつき、追い越すことは最初から狙っていないだろうし(少なくとも今は)、「誰もやっていなかったので『ラジカル・レフト』という方向性を選んだ」(ケルナー氏談)インディペンデントは、それなりに健闘していたと思う。人権やマイノリティーに関しての記事は充実していると思う。頁数が多いというよりも、他紙がフォローしていない記事が載る。個人的に読み応えがあると思うのは、日曜版だ。寄せ集め、故意に脅そうとする記事(健康への脅威、薬が危ないなど)もあるが、他にはない視点の記事がある。取り上げる人物も興味深い人が多いように思う。

 もともと、テレグラフにいた3人の記者が作った新聞だが、その中心となったアンドレアス・ウイッタムスミス氏によれば、きっかけは「テレグラフがあまりにもつまらなく、新しいことを何もやろうとせず、写真も冒険がなかった」ので、思い切った、斬新な、冒険心に富む、ジャーナリズムの質の高い新聞を作ろうと思ったのだと聞いた。その目的は大体満たされたと思うが、やはり長いこと、ずーっと冒険心を持ち続け、かつセールスも常に上々・・・というのは随分大変のようだ。

 とある新聞販売店(ニューズエージェントと呼ばれ、雑貨屋のような感じだ)に日曜の朝、新聞を買いに行ったら、客の一人が店長と話していた。インディペンデントが大好きで、「これ一部を読んだら、もう他の新聞は読まなくてもいいくらい」と言っていた。「私も日曜のインディペンデント、大好きです。おもしろいですよね」と話がはずんだ。店長も私も、この客も有色人種だった。移民の視点から見たさまざまな問題、人種問題、人権問題などをよく掲載するインディペンデントのファンが集まった感じだった。ちなみに、先の「インディペンデントには読みたい記事がない」としたグリーンスレード氏も、同様のことを言った私の知人も「白人」・ミドルクラスの英国人だった。
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Commented by mozu at 2008-09-29 23:15 x
この話ですが、わりと有名な日本関連ブログで話題になっています。コメント欄含めてなかなか興味深いのでご一読ください。

http://www.mutantfrog.com/2008/09/27/interview-with-the-japanese-pm/
Commented by 歩厘 at 2008-09-30 02:24 x
私もインディペンデントはイギリスの新聞の中で一番好きでした。最近はご無沙汰していますが、昔は学校の図書館で誰も読まないインディペンデントを良く引っ張り出していました。

福田前首相のインタビューの件ですが、日本人の官僚体質が良く表れていて、私も落ち込んでしまいますね。「文化の違い」や「慣れ」ということもあるでしょうが、それ以上に何か深い問題を有しているように感じます。
Commented by polimediauk at 2008-09-30 23:24
mozuさま

教えてくださり、ありがとうございました。日本関連の英語ブログでいいものがなかなか無いな、と思っていた矢先でした。

私自身がこのエピソードに関して思ったのは、(1)国際的な報道機関に取材慣れしていない感じーーしかし、これに慣れるのは、相当の修練と時間、場数を踏まないとなりません。英国に住み、取材をして何年か経つ私も、実際に自分が取材をされる側に回ると、どきどきしますね。時間的余裕があれば練習してのぞみます。(紙に書いて読む、なんてことまではしませんが。)それでも、思いがけない質問に頭が空白になることもしばしばでした。(2)このエピソードの亜流はたくさんあると思うのです。国際化や英語とはまったく別の問題ですが。日本人は一生懸命やりすぎるのではないか?準備をしすぎるのではないか?ということです。自分も含めて、です。もっとリラックスしたいものですが。英国はリラックスしすぎている+あまりにもアバウトな面があるので、これもお手本にはなりません
Commented by polimediauk at 2008-09-30 23:26
歩厘さま

日本の良い面が悪く出てしまった、という部分もあるでしょうね。今から考えるとですが。
Commented by mozu at 2008-10-01 23:57 x
おっしゃるように日本の政治家があまり海外プレスの取材慣れしていないという問題もあると思いますが、クリス・ホッグ氏にもそうとうの問題があると思います。この方のリポートの問題性については日本語圏ではなくむしろ英語圏で議論の対象になっていますね。まああまり大きな声で言いたくはないのですが、こういうアマチュアを配置するのはやはり問題でしょうね。
Commented by polimediauk at 2008-10-03 23:02
mozuさま

ホッグさんのレポートが問題視されている(それもむしろ英語圏で)というのは驚きでした!!時々テレビでも見ますが、よくやっているなあと関心さえしていたところです。

本当に一般的なことですが、大手メディアの外国特派員は必ずしも当該国の専門家ではないことが多々ではないかと思います。たいていの場合、「飛ばされて」レポートすることが多いように思います。メディアによってはその国に長いこと居住させる場合もあるでしょうけれども。BBCの中東記者も長くやっている人がたくさんいますよね。

ホッグさんの件からははずれますが、「記者」としてプロであれば、プロ的仕事をすれば、あるトピックあるいはある国のいわゆる専門家でなくてもよいのでは、と思っていますが。話がずれていたら、すみません。
Commented at 2009-02-15 12:39 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by polimediauk at 2009-02-16 22:04
笈野泉さん、

早速これから読ませていただきます。

読む前になんですが、福田さんが政治家としてどうなのか?というよりも(ホッグ記者の報道で驚いたわけですが)、自分も含めた日本や日本社会の一面だったかなあと思ったりします。きっと、「ちゃんとやらなければならない」と思ったのではないでしょうか。
Commented by polimediauk at 2009-02-16 22:29
JAN JANの記事、読ませていただきました。

http://www.news.janjan.jp/world/0901/0901185644/1.php?action=tree

 「日本の恥」の実態は、結局、どこにあるのだろう?と考え込んでしまいました。結局、日本をよくしよう!と熱い決意を持った人を選べなかった政治なのか、それとも、天下泰平でこれほど体温が低そうな人が首相になれた、ということなのかー?
Commented by 笈野泉 筆名・JANJAN記者 at 2009-02-22 21:10 x
 お読みいただきありがとうごいざいます。「日本の恥」の実態は、政治の在り方そのものだと思います。福田元首相の官僚操縦の記事に対し、「だから!何を今更、分かり切った事ですよ」という官僚とおぼしき人物からの感想が寄せられ、それへの反論を「日本変革の条件」(4)~(6)に掲載してあります。これももし宜しければお読み下さい。
※お返事が遅れまして、失礼しました。
by polimediauk | 2008-09-27 22:12 | 政治とメディア | Trackback | Comments(10)

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