小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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大学ランキングと英国

 英国に戻る前のばたばたでずい分更新のない日々が続いてしまった。こちらはかなり気温が低い(12度から15度)が、黄色や緑、茶色の落ち葉が非常に美しい季節でもある。

 どことなく体調がまだ元に戻っていないので、「英国ニュースダイジェスト」最新版(ウェブでは21日から掲載)向けに書いた大学ランキングの話を入れたい(若干補足)。

 教育出版団体が毎年作成する「タイムズQS世界の大学ランキング」が、今月上旬、発表された。トップ10は米国と英国の大学が独占したが、英大学のランキングは下がり気味。上位100に入る数も減っており、教育関係者の間では不満が募る。ランキングの上下は大学の評判に影響を及ぼすので、「優秀な学生が集まらなくなる」、「研究への投資が減る」ことを心配しているのだ。

 200位までを見ると、日本の大学で最初に入っているのは19位の東大。120位には今回ノーベル賞受賞者を出して名をはせた名古屋大学が入っている。大学関係者同士の評価が大きな影響力を持つランキングで、つまり「国際的に知られていなければ評価されない」ということか。結局のところ、あまりこだわることはないのだが、ずい分と英国の大学関係者や政治家が気にしているようなのがおもしろい感じがした。

 もとの資料は:

http://www.timeshighereducation.co.uk/hybrid.asp?typeCode=142&pubCode=1&navcode=118

世界の大学ランキング発表
英国があせる理由とは?


 10月9日発表された「タイムズQS世界大学ランキング」は、高等教育情報誌Times Higher Education(THE)と教育関連企業QS社が作成し、2004年から毎年、発表している。世界中の学者約6300人、企業側から約2300人が調査に協力した。順位付けの最大の要素(40%)は同分野の専門家からの評価だ。

 今年トップを占めたのは米ハーバード大学。5年連続のトップだ。昨年2位に並んだのはイエール米大学、英国のケンブリッジ大学、オックスフォード大学だったが、今年はケンブリッジが3位、オックスフォードが4位と英国組は下に落ちた。トップ10は米国の大学(6校)と英国の大学(4校)が独占したものの、トップ100に入る米大学は37校であるのに英国は17校。前年は19校であったことから、「米国を追い抜けない英国」、「評価を下げた」等、失望感漂う報道が出た。

 英国では、高等教育に関する様々なランキングが発表される。各教育機関の切磋琢磨の一助になるという目的以外に、進学希望者やその保護者にとっては、大学選定の目安となる。上位になれば、優秀な学生や指導陣が集まるだけでなく、研究・実験のための資金も集めやすくなる。ランキング付けは、大学の利益に直結する、無視できない指標となっている。

―米国に追いつけない?英国

 今回のランキングのトップはハーバード大でこれにイエール大が続いた。英国の名門中の名門「オックスブリッジ」を僅差で抜いた。世界の優秀な頭脳や研究費用の投資が英国ではなく米国や他国に流れるのでは?そんな懸念を抱く大学関係者もいたようだ。

 ランキングを行った雑誌の編集長アン・ムロズ氏によると、「ハーバード大学の年間の寄付金総額は、英国のすべての大学の年間収入とほぼ同じ規模」だ。「金」がランキングで上位になるための決め手と見る関係者は多い。ロビー団体「ラッセル・グループ」も、英国が将来高等教育にもっと投資をしなければ、「中国をはじめとする他国に追い抜かれてしまう」と警告を発している。

 イングランド地方の高等教育大臣デービッド・ラミー氏は、BBCニュースの取材の中で、「現時点で優位にある教育機関が10年か15年後にもそうである保証はない」として、高等教育機関への財政支援の増加の必要性を訴えた。政府は2011年までに、1997年時点と比較して30%増の年間110億ポンド(約1800億円)の財源を高等教育機関に当てる計画を立てている。

 日本の大学では19位に東京大学が入っているものの、米英に比べると影が薄く、英国の「懸念」や「警告」は贅沢な悩みにも聞こえる。

 一方、英国の大学は、教育の質を高める、研究資金をできるだけ多く集めるという目標の他に、別の面で大きな課題を課せられている。それは、中・上流家庭の師弟に集中しがちな高等教育の機会を、低所得層にも開放することだ。元祖格差社会というか、階級社会英国ならではの(こうした格差をなくするための)社会的要請といえるだろう。会計検査院(NAO)の6月の調査では、家庭の裕福度による高等教育進学率のギャップは依然として残っている。まだまだ努力は続く。

―THE-QS世界の大学ランキング2008 
200校の中で、20位以下は日英のみを抜粋すると・・・

1 ハーバード大学(米)
2 イエール大学(米)
3 ケンブリッジ大学 (英)
4 オックスフォード大学 (英)
5 カリフォルニア工科大(米)
6 インペリアル・カレッジ・ロンドン (英)
7 ロンドン大学ユニバーシティー・カレッジ (英)
8 シカゴ大学 (米)
9 マサチューセッツ工科大 (米)
10 コロンビア大学 (米)
11 ペンシルベニア大学 (米)
12 プリンストン大学 (米)
13 デューク大学 (米)
14 ジョンズ・ホプキンス大学 (米)
15 コーネル大学 (米)
16 オーストラリアン・ナショナル大学 (オーストラリア)
17 スタンフォード大学(米)
18 ミシガン大学 (米)
19 東京大学(日本)
20 マッギル大学 (カナダ)
(以下、日英のみ抜粋)
22 ロンドン大学キングス・カレッジ (英)
23 エジンバラ大学(英)
25 京都大学 (日本)
29 マンチェスター大学 (英)
32 ブリストル大学(英)
44 大阪大学(日本)
61 東京工業大(日本)
66 ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス(英)
69 ウォーリック大学(英)
73 グラスゴー大学(英)
75 バーミンガム大学(英)
76 シェフィールド大学(英)
81 ヨーク大学(英)
83 セント・アンドリューズ大学(英)
86 ノッティンガム大学(英)
99 サザンプトン大学 (英)
104 リーズ大学(英)
112 東北大学(日本)
120 名古屋大学(日本)
122 ダラム大学(英)
130 サセックス大学(英)
133 カーディフ大学(英)
133 リバプール大学(英)
152 バース大学(英)
153 アバディーン大学(英)
158 九州大学(日本)
160 ロンドン大学クイーン・メリー (英)
162 ニューキャッスル大学 (英)
170 ランカスター大学(英)
174 北海道大学(日本)
177 レスター大学 (英)
180 早稲田大学(日本)
194 レディング大学(英)
199 神戸大学(日本)
(61位を後で直してあります。)

英国の大学Q&A

―大学の種類

 主に5つに分類される。19世紀以前に創立された「古代の大学」、19世紀から20世紀初期にかけて創立された「赤レンガ」大学、1960年代に創立され当初「新しい大学」と呼ばれていた大学など。現在ではこうした大学は一般に「古い大学」(オールド・ユニバーシティー)と呼ばれる。1992年の高等教育法施行以前に創立された大学すべてを指す。実用的なコースもある総合高等教育機関「ポリテクニック」が、この年大学に移行している。また、1968年に創立の「オープン・ユニバーシティー」は英国で唯一の通信教育専門の大学。

―経済環境と入学率の影響

 会計監査院の「Widening Participation in Higher Education」という報告書によれば、社会・経済レベルが低い家庭に育つ18歳から20歳の若者の間で、高等教育を受けている比率は全体の20%(2005年ー06年度)。一方、中・上流家庭の同年齢層の場合、43.3%が高等教育に進学している。

―高等教育で学ぶ学生の内訳

英国人学生:2006035人
EU他国出身者:106225人
EU以外の他国出身者:223855人
合計:2336115人
(2005年―06年度、フルタイムとパートタイムを総合。Universities UKより)

関連キーワード: Russell Group ラッセル・グループ。研究を主とする20大学の団体。元々、ロンドンのラッセルホテルに集ったことからこの名前がついた。ケンブリッジ大学、オックスフォード大学、インペリアル・カレッジ・ロンドンなど著名大学が所属。1994年、ロビー団体として結成された。英国の大学に投資される研究費用全体の60%以上がこのグループの大学に入る。米「アイビー・リーグ」と同列とも見なされる。2006年から実施された、大学の授業料値上げを訴えて注目を浴びた。
by polimediauk | 2008-10-21 02:03 | 英国事情