小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


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「ソサエティー・オブ・エディターズ」会議 ロバート・ペストン氏の言い分

 9日から11日まで英ブリストルで行われていた、「ソサエティー・オブ・エディターズ」の会議が終了した。新聞業界では広告収入が落ち、発行部数も慢性的に下落する中でどうするのか、マルチスキルを求められる編集現場の課題や、「一体ネットでどうやって十分な利益を生み出すのか?」が大きなテーマとなった。今、BBCは地方ニュースのウェブサイトの拡充を計画しており、これは地方紙にとっては大きな脅威だ。そこで、BBCに対する反発の声もかなり聞こえてきた。

 英国の新聞業界は、日本の新聞業界同様、あまり良い話はなく、ネットと紙の編集部の統一(コンバージョン、インテグレーション)を続々と進めている。何か明るい見通しや確信があってウェブサイトの拡充を進めたり、コンバージョンを行っているというよりも、将来はネットが中心になっていくだろうという大体の勘をもとに、捨て身で、損が出るのを承知でニューメディアに投資している、ということのようだ。ネットから出る利益だけで紙の編集チームを維持することはできず、もし良い方法があるなら、それを「同業他社の前では言いたくない」のだ。

 地方紙の編集長らが会議に出席し、全国紙の例えばガーディアンの編集長、テレグラフの編集長らに加え、FTからもネット主導者が参加。放送業界からも人気キャスター、アンドリュー・マー(BBC)氏、ロバート・ペストン(BBCビジネス)などが参加した。

 ペストン記者といえば、住宅金融で国有化されたノーザンロックの資金繰りの困難さを真っ先に報道したことで著名。その後もスクープ報道を行い、金融危機以降は連日のようにテレビやラジオに出ている。

 ペストン氏は、会議の中で、「メディアが、あるいは自分の報道が金融危機や銀行の取り付け騒ぎを引き起こした、あおった、というのは正しくない」と述べた。例の、BBCの記者らしくないしゃべり方で、である。(どんな感じかというと、波のように大きくなったり小さくなったり、急に言葉を溜めた後に一挙に話す感じになったり)。悪い・責任があるのは「例えばノーザンロックの経営陣なのではないか?無理な貸し出しをしていたのだから」。

 「自分はもともと、金融紙で銀行業専門の記者としてスタートした。最初にいろいろ学んだ。それからさまざまな経験を積み、今は48歳になった。スクープ記事をつかめたのは、これまでの経験と知識があるからだ」と言って、「だから多くの記者に言いたい。ずっとやっていれば何かにはなるよ、あきらめるな、と」。一定の年齢になると記者職ではなく管理職になるかつての同僚に言っているように聞こえた。

 ペストン氏の報道が注目されたのは、番組の中というよりも、BBCのニュースサイト上で読めるブログからだった。ブログでも、放送での報道同様に、「事実関係の確認をし、きちんとしたものを出す。デスクの目を通してから出るし、そういう意味では本当のブロガーではないかもしれないが、ジャーナリズムの基準はブログだからといって変えていない」とも述べた。

 「視聴者・読者に直接、瞬時に語りかけることのできるブログは、すばらしいジャーナリズムの一手段だと思う。今、ジャーナリズムは非常におもしろい時期に来ていると思う」。最後まで明るく、元気いっぱいだった。

 今日、ある人にブログを書いている理由を聞かれた。「取材時に得た情報で、原稿には使わなかった分を自分のところで『死蔵』させたくない」、「情報をシェアしたい」、というのが基本的な理由だが、文字情報に関わる人+ネットにアクセスできる人、書き手として仕事をしている人などが、ブログというか自己の情報発信の場を持っていないのが逆に不思議に思える、今となっては。頻度や何を書くかは個人の自由だろうが、「何故書くか」より、「何故書かないのか」が問いになってきたような感じがする(無料ブログでは原稿料が入らないから、というのはもはや理由にはならないだろう)。ずい分、周囲の状況が変わってきた感じがするのである。(別件だが、休刊となった雑誌「論座」のネット版・・・なるものはできないのだろうか?読者一人から1000円取るとしたら、読者はどれだけ集まるのか?)
by polimediauk | 2008-11-12 08:31 | 新聞業界