小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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グーグル取材こぼれ話③グーグル副社長ネルソン・マトス氏インタビュー(下)

グーグル副社長EMEAエンジニアリング担当ネルソン・マトス(Nelson Mattos)さんのインタビュー(下)

 「モチベーションをこちらから与える必要はない」

―世界中に散らばるエンジニアたちを統括する役目を担うマトスさんは、どうやって仕事の動機付けを与えているのだろうか?

マトス氏:そんなことは簡単だよ。私がモチベーションを与える必要はないんだ。エンジニアたちが自分たちでモチベーションを見つけているからだ。グーグルは非常にフラットな組織になっていると言ったね?そして、非常に技術力に優れた、かつ自分でアイデアを発想・開発できる人を雇う、とも。そうすると、社内で、私がエンジニアのところに行って、 「ある言語で検索をしやすくするにはどうしたらいいか考えて欲しい」と言わなくてもいい。エンジニアが私のところにやってきて、「ユーザーが検索ワードを入力する時、途中まで入力しただけで、検索が始まるサービスを作ったらどうか」と言う。私がやるのは、「それはいいアイデアだ。よしやってくれ」と言うだけなんだ。

―そうすると・・・マトスさんの仕事は一体何になるのか?

マトス氏:私がIBMで働いていた時のことを思い出すと、日本のエンジニアは世界中のエンジニア同様に素晴らしいアイデアを出していたよ。しかし、日本では、私がエンジニアのところに行って、「今どんなアイデアがある?夜眠れないほどの悩み事はないか?」などと聞く必要があるだろうと思う。米国のエンジニアはもっと自分の言いたいことを自分からこっちに言ってくる。

―あなたが行かなくても、エンジニアがあなたのところにやってくる、と。

マトス氏:そうだ。それでも、時々、こちらから方向性を示すこともある。世界でどんな技術上の挑戦があるか、すべてのエンジニアに情報を出している。一旦、全体的な方向性を示すと、エンジニアたちは勝手にどんどんアイデアを考え出すんだ。

 例えば、1週間に一度、欧州にいるすべてのグーグルのエンジニアを対象に、「イノベーション会議」を行っている。どのエンジニアも私の所に来て、自分が思いついたアイデアを15分間、話すことができる。チューリッヒにいる私は、今ロンドンにいるあなたとこうしているように、ビデオ画面を通して話を聞く。毎週、いつも、すべてのスロットが予約済みとなるほどの人気だ。

―あなた自身に、達成するべきゴールというものはないだろうか?

マトス氏:ゴールはあることはあるが・・・例えばこう考えて欲しい。多くの企業には、開発するべき製品、到達するべき収益、市場シェアのターゲットなどがあるよね?しかし、グーグルはそういう風に動かない。

 ではどうやって動くのかというと、例えば、今、携帯電話でネットにアクセスする人が増えている。これから増える10億人のネットユーザーは、おそらくPCではなく携帯からのアクセスになる。しかし、携帯はPCに比べたら、パワフルではない。ネットへのアクセスがPCほどには簡単ではないかもしれない。

 そこで私がグーグルのエンジニアたちに言うのは、PCを使う時と同時くらいに携帯でもネットが使えないだろうか、と。ここで注意して欲しいのは、私は特定の製品について、あるいは収益の数字に関して言っているのではないということ。どれぐらい収益が上がるのかも分らない。しかし、将来的に課題となってくるのは明らかだ。また、携帯電話の使用者が世界的に増えているけれども、その多くが開発途上国にいる人たちかもしれない。読み書きさえまともにできない人たちかもしれない。携帯電話を使い慣れていない、こうした人向けに提供するサービスはどんなものであるべきだろう?あるエンジニアは、音声自動認識サービスを使って、声が文字に変わるのはどうか、と私に言ってくる。いや、タッチスクリーンのほうがいい、というエンジニアもいるだろう。また別のエンジニアは、もし画像やビデオをもっと使うなら、まずインフラ整備をしないといけない、と言うかもしれない。製品や収益のことなど議論に上らず、技術上の課題やユーザーが欲しがるかもしれないサービスに関して、私は話す。エンジニアたちがこれを実現するアイデアを考えてゆく。

 これがグーグルのやり方だ。したがって、「グーグルは来年どんなサービスを出すのか」と聞かれても、答えようがない。携帯が重要になり、オープン・プラットフォームを開発中だ、とは言えるけれども。ウェブ上のアプリケーションが重要さを増す、とも。どんな製品が?と聞かれると、私には分らない。エンジニアたちがやっているから。

―グーグルとプライバシー問題について聞きたい。IBM時代には、セキュリティーやプライバシーについて著作物もあるマトスさんはこれをどう見ているか?

マトス氏:この問題には2つの面がある。プライバシーについて語る時、2つの要素を混ぜて話している人が多い。非常に重要な要素だが、それぞれが独立した要素だ。そのうちの1つはデータの保護だ。人々がデータに関して懸念持つという時、「データが安全に守られているか」を知りたがっている。この点に関しては、世界でもトップクラスの専門家を社内にそろえている。

 グーグルのデータセンターに安全に情報が保管されている。(従業員はデータの内容にアクセスできる。)データの保護という面では、グーグルは業界でもトップクラスだ。
 
 もう一つはプライバシーの面。つまり、「自分に関するデータをグーグルは一体どうしようとしているのか?」という疑問だ。グーグルはユーザー情報の取り扱いを非常に、非常に真剣に受け止めている。どれほど長く情報を保管しているかを公表した最初の会社だと思う。私たちが利用する情報に関しては、ユーザーが選択できるようになっている。 グーグルのそれぞれのサービス内で、情報は共有していない。Gメールとユーチューブの間で同じユーザー情報が共有されると思っている人がいるようだが、正しくない。

 Gメールを使う時、画面上に広告が出るのは検索エンジンを使っている時と同じことで、グーグルがあなたの個人的なデータを見ているわけではない。あなたをネット上で追いかけて、他のサービスに利用しようとしているわけではない。(チューリッヒ・オフィスの人から「最後の質問をどうぞ」という声がかかる。)

―ライバルのマイクロソフトに関してどう思うか?

マトス氏:マイクロソフトに直接聞いたほうが良いと思う。私が答えられるのは何故グーグルが成功しているか、だ。マイクロソフトにとって参考になるかどうかは分らないが。私たちはユーザーに焦点を置く。これは非常に重要だ。ある製品がユーザーにとって最善かどうかを第一に考える。オープン・ソース、オープン・プラットフォーム、オープン・ウェブを重視する。これがイノベーションを引き起こす。グーグルはテクノロジーを中心にすえる会社だ。製品にではなくある挑戦・課題に焦点をあわせ、これをユーザーのニーズに合わせて解決しようとしている。その後で、どうやって収益を上げるか、利益を出すかを考える。

 世界中のどこからでも、いつでも、どんなデバイスからでもアクセスできるようにするために、クラウド・コンピューティングの拡大を目指す。携帯電話をもっと使う人が増えれば、クラウド・コンピューティングの使用がもっと増える。クラウド・コンピューティングには巨大なインフラが必要となる。巨大な処理能力、保管能力、データーセンターの必要性が増す。(2008年8月末、グーグルのロンドン・オフィスにて取材。「東洋経済」誌、2008年9月27号「グーグル特集」のためのインタビュー。)(次回、ユーチューブ販売担当者の話。)

参考:
クラウド・コンピューティングを批判する人もいる:
http://www.guardian.co.uk/technology/2008/sep/29/cloud.computing.richard.stallman
by polimediauk | 2008-11-15 01:33 | ネット業界