グーグル取材こぼれ話④ユーチューブ部門のパトリック・ウオーカー氏インタビュー
氏のキャリアは、なんと日本のNHKから始まったという。ロンドンに戻ってきたのは2000年だそうだ。インタビューは在英ドイツ人ジャーナリストのヘニング・ホフ氏が担当した。ホフ氏はフリーランスで、メディア関係の記事をドイツ及び英国の新聞に書いている。
個人的に参考になったのが、ネットで見る動画(ビデオ)市場がこれからもどんどん大きくなって、市場参加者全員が利益を得られる豪華な「晩餐」になるだろう、という予測だ。ビデオ市場はあまり伸びないのではないかと英テレビ界で聞いたばかりだったので。以下はインタビューの一部抜粋。
「幸せなユーザーと幸せな広告主」
―グーグルの欧州・中東・アフリカ(EMEA)地域の特徴とは?
ウオーカー氏:非常に広い範囲の国を網羅する。英国、フランス、ドイツ、スペイン、イタリアなど洗練され、ブロードバンドの普及率の高い国と、中東やアフリカなど, ブロードバンドよりも携帯電話が比較的主導的役割を果たす地域がある。
「カスケード効果」が起きている。つまり、ある製品を販売する時、米国で開始し、貨幣化が導入される。その後英国で販売し、その後フランスやドイツ、イタリアなど他の欧州諸国で導入する。2,3ヵ月後などに他の地域に導入する、という形だ。地域によってアプローチがかなり違うが、最初の流れが次の地域で再現される。
英国は米国に次ぐ第2の市場として位置づけている。他の国と比べると、売り上げ面でも英国市場は先を行っている。(同じ英語という)言語の問題もある。コアになるチームがここにいる点もあるし、英国が非常に進んだ広告市場であるという点も大きい、ブロードバンドの普及率やクリエイティブな広告代理店が新たな手法、新たなプラットフォームを使おうとする。英国では米国同様、音楽やエンタテインメントなどのクリエイティブなコンテンツが豊富だ。
欧州の大部分の国でグーグルはもっとも人気のある検索エンジンだが、ロシアやチェコでは他のエンジンの方が人気があるので、こうした地域ではライバル社と連携したり、自分たちのサービスを改善している。
別の意味の課題があるのは中東で、巨大な需要とブロードバンドの普及率も高いが、アラビア語の検索能力を向上させる必要がある。
―フランスが「グーグルプリント」(現グーグル・ブック検索)に抗議の声を上げた。グーグルあるいは米国が世界を支配してしまう、と非難した。何故このような反発を招くと思うか?
ウオーカー氏:教育が必要なのだと思う。私たちが何をしているのか、またどのようにデータを管理しているのかを理解してもらえるようにする必要がある。私たちは責任を持ってデータを管理しているし、何か隠された意図があって行動しているのではない。
最終的には、ユーザーがグーグルのサービスを使って、画面上でクリックしてくれる。マウスを使ってグーグルのサービスに投票してくれる。ユーザーはそうしたければ他のサービス、製品に移動すればいいのであって、障壁はない。グーグルの広告主や資金を出す企業に無理強いをしたこともない。私たちはビジネスの機会を作り出すが、これを使うかどうかは相手によるのだ。ユーザーが毎日使ってくれていること自体が、私たちがどうやっているかの最高の目安だと思う。
―欧州の不景気は広告重視型の収入構造に影響を及ぼしているだろうか?
ウオーカー氏:確かに鈍化している。しかし、オンライン広告でおもしろいのは、広告費がどれだけ活用されたかを測定できる点だ。私が見るところでは、広告主は、確実で、結果が測定可能な広告方法を不景気時には望んでおり、私たちにとっては良い機会だと思っている。
―ユーチューブは十分に利益を生み出していないのではないか、と言われているが?
ウオーカー氏:ユーチューブの貨幣化の試みは本当に初期段階だ。ユーチューブはもともと米国のサービスだった。コンテンツを作った人は、商業化を目指していた。しかし、欧州では、貨幣化よりも企業にとってのマーケティングの機会となっている。ユーチューブのブランド・パートナーとなるチャンネルを探し、パートナーたちがそこでプレゼンスを持ち、自分たちのブランドをユーチューブ上で管理できるようにした。2007年時点でゼロから始めて、現在までに1200の大手メディア企業やクリエイティブ制作会社がユーチューブ上にチャンネルを持つようになった。政治家もユーチューブを使っている。英女王も。 スペインの公共放送と協力して08年の選挙を放送した。この時は最初から商業化を視野に入れた。
ユーチューブの貨幣化について考えるとき、まず、ユーチューブは非常に変革が激しい業界にいるということを思い出して欲しい。オンラインビデオ市場はどんどん伸びている。ブロードバンドの普及でオンラインでビデオを見る人がどんどん増えている。アップロードやダウンロードの時間も短くて済むようになっており、携帯電話にもビデオを作る機能がつく。誰でも簡単にコンテンツを作って放送できるようになっている。
ビジネスとしてはまだ初期段階だが、私たちが避けたいのは、急いで行動を起こし、すでに存在する広告のフォーマットを採用し、これがあまりユーザーにとって使いやすくなかったり、十分にターゲット化されていなかったり、必ずしも広告主、パートナー、ユーザーにとって按配がよくない結果になることだ。どうやってユーザーとインターアクトするか、最善の広告フォーマットをどのように作るかに関して、十分に注意深くありたいと思っている。
最近導入したのはビデオ広告だ。基本的に、ビデオのウインドウの中に広告が入る。欧州では始めたばかりだが、通常のディスプレー広告のクリック回数の5倍から10倍のクリックがあった。
―オンラインビデオの世界では競争がますます激化する。ヤフーやネットテレビ米「HULU」もある。脅威を感じているのだろうか?
ウオーカー氏:わくわくしている!他社の市場への新規参入を歓迎している。他の会社を競争相手だと言う人もいるかもしれないが、同時に、パートナーとなる可能性もあると思う。英テレビ局数社が開始する、ビデオ・サービス「カンガルー」の将来にも注視している。
ユーチューブは非常に活気ある、グローバルなビデオのコミュニティーだ。高品質の、長時間のビデオやテレビ番組の消費サイトだ。もっと参加組織が増えればうれしい。
―自分の取り分が減っても?「一つの同じ骨を奪い合う」状態になるのではないか?
ウオーカー氏:必ずしも減るとは思わない。プレイヤーが増え、著名メディア企業がオンライン上でサービスを提供すれば、広告主はビデオ市場にもっと投資しようと思うだろう。「同じ骨を奪い合って」・・・と考えるのは早すぎる。誰でも参加して利益を出せる、非常に大きな晩餐会をイメージしている。
カスケード効果を考えると、将来に楽観的だ。北米で成功し、これを英国にもってきた。視聴者は増えている。ここ2,3ヶ月で英国市場でナイキや主要映画スタジオなどがユーチューブに広告を出している。こうしたカスケード効果を中東やアフリカでも期待できると思う。
―将来的に、グーグルはコンテンツを作るようになるのだろうか?
ウオーカー氏:ならない。コンテンツを楽しむ環境を作るだけだ。コンテンツを効率的に、簡単に配布できるようなプラットフォームを作る。コンテンツプロバイダーになろうとはしていない。焦点を置くのはテクノロジーや宣伝だ。
―グーグルは「世界を支配しようとしている」のか?
ウオーカー氏:全くそうは思わない。ユーザーのためにすばらしいツールを継続して提供していきたい。選択と機会を与えたい。生活を楽しくさせ、情報へのアクセスを拡大したい。貨幣化の道を探し、これを開発し、幸せな広告主と幸せなユーザーになってもらいたい。幸せな広告主と幸せなユーザーができていかないと、成功しない。この点を忘れたら、途端に私たちは失敗する。 (インタビューは2008年9月8日、グーグルのロンドン・オフィスにて。取材者ヘニング・ホフ氏より掲載了解。インタビュー内容の一部抜粋を掲載。)(こぼれ話は次回の⑤で最後の予定です。)