小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


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英景気刺激策で戦々恐々

 24日、財務相が景気刺激策を発表した。実態は確かに「景気刺激策」なのだけれども、「Pre-budget report」(直訳は予算の前のレポートか)と呼ばれている。毎年秋に発表される。翌年の春発表される予算の編成方針や経済の現況の分析を説明するものだ。BBCによれば、1997年、労働党政権が発足してから、当時のブラウン財務大臣が毎年これを報告することを決めたそうだ。経済の安定化や市場に安心感を与えることを目的としていたようだ。今回は秋の金融危機から初めての報告となり、「危機をどうするか」ということが目玉となった。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/business/7733570.stm

 下院で景気対策を発表した様子はビデオで見るとおもしろいが、時間がない人には難しい。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk_politics/7745340.stm

 このニュースは今朝の新聞各紙が詳しく伝え、昨日はBBCニュースで一日中やっていた。英国に来て間もない頃、どうしてこんなに注目されるのかと思ったけれど、結構、生活に直結する面があるからだということが分った。自分の収入やその他の経済的要因に応じて、様々な影響を受ける。企業経営者、高額所得者、低額所得者、年金生活者、母子・父子家庭、児童への財政支援などなど、何かしら自分にも関連してくるのである。

 今回の注目はいかにこの危機を乗り切れるか?だったが、景気刺激策は総額200億ポンド(約2兆円―3兆円)で、付加価値税(日本の消費税に相当)が現行の17・5%から15%になる。これは来年末までの時限措置。中小企業や中低所得層への様々な減税策(ただし長くは続かない)、住宅ローンが払えなくなって家を追い出される人に対する支援(追い出し前に3ヶ月の猶予期間を与えるなど)、年金生活者への支援(来年1月、特別一時金の支払い)など、「持たざるもの」への支援が耳に残った。「1997年の労働党政権発足以来、初めての労働党らしい刺激策・予算だ」という声も聞いた。高額所得者の所得税引き上げ、という決断もその理由だろう。

 全体的に見て、「今困っている人を助ける」、「減税」を表に出していた。そして、将来どうつじつまを合わせるのかは、基本的には先送りにした。高所得層の所得税率引き上げも2011年からだ。都合の悪いことは2010年以降、つまりは総選挙の後に回した感じだ。そういう意味では、政治的な動きでもあった。
 
 そこで、野党保守党は「国民のことを考えていない政治的刺激策」と批判した。(オズボーン影の財務相は「こんなことをしていたら、1990年代の日本のようになってしまう。日本は10年間不景気になったのだ」と言ったが、ダーリング財務相は「違う。日本の財務大臣に教えてもらったから」と返していた。)

 第2野党の自由民主党のビンス・ケーブル議員は「刺激策は評価するが、構造を変えないとダメだ。銀行が貸し出しをしないので経済が回らない。これを何とかしないとどうにもならない」と述べた。

 24日朝のBBCラジオ「TODAY」に出たエコノミストは、予想されていた刺激策が「経済を上向きにするかどうかは分らない。誰にも分らないが、やってみてもいいと思う」と述べる。

 ダーリング財務相は09年後半から景気が回復する、とした。これは非現実的とする声がテレビなどを見ている限りは多かったが、「コンフィデンスを与える」という意味では良かったのではないか。悪いニュースばかりなのだから。
by polimediauk | 2008-11-25 20:01 | 英国事情