小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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インドでテロ 英新聞のある見方

 インドでテロが起き、英新聞各紙はトップにこの事件を載せている。朝のBBCラジオのニュース番組「TODAY」でテロ分析の記者フランク・ガードナー氏が眠そうな声で出ていた理由が分かった。

 テレグラフ(紙)を読み出したら、「ボンベイ」とある。「ムンバイ」なのに・・・と思う。ミャンマーでなくビルマと呼ぶのは政治的意味合いも込めているのかもしれないが、その国自身が「ムンバイ」としているのだから、そろそろボンベイと呼ぶのは止めたほうがいいのではないか?ずい分自分たちの呼び方にこだわるな、とちらっと思った。ボンベイというのは確かに分かりやすいけれども。(BBCはムンバイ、である。)テレグラフもウェブではムンバイとなっていた。(ちなみに、タイムズはボンベイ、インディペンデントとガーディアンはムンバイである。いずれも紙の1面見出し。)

 記事を読みながら思ったのは、報道時で「80人死亡」という部分で、その衝撃度だ。2005年のロンドンテロでは52人の犠牲者が出た。これは非常に大きな衝撃だった、英国民にとっては。どこの国でも一人の死でも痛いが、それでも、人口10億のインドにとって、「80人」(書いている時点で100人以上)というのは、国全体ではどんな意味合いを持って受け止められているのだろう?

 ・・・と思っていたら、在ニューデリーのラウル・ベディという人が「次のテロリスト攻撃を座って待つ」という記事があった。(すぐにサイトでは見つからなかったが、Sitting and waiting for the next terrorist―by Rahul Bedi)

 彼によると、過去3年で、インドでテロで亡くなった人は300人。解決された事件は一つもなく、誰も有罪になっていない。すべてのケースが「イスラム系テログループ」がやった、ということになっている。政府は「外国人のテロの細胞」がインド中にある、という。インドでは、ムスリム系国民は経済的にも社会的にも低い位置にいるという。イスラム過激派たちがこうした国民の中にシンパを見つけてゆくー。

 べディ氏は、最近のインドでのテロ攻撃は、警察や警備を担当する人々が何にも達成できていないことを示すものだと見ている。名前さえも登録がなされていない何百万人もの人が生存し、死んでゆく国で。テロが起きるたびに監視カメラが設置され、鉄道の駅や他の公的な場所が捜索されるけれども、結局は交通渋滞と(電車が遅れて)不満な通勤客を生み出しただけだったと。「インスティチュート・オブ・コンフリクトマネジメント」のアジャイ・サーニという人のコメントが最後で、今のところは「次のテロリストの攻撃を座って待つしかない」状態だという。

 一方、タイムズではジェレミー・ペイジ記者が、タージマハール宮殿ホテルから炎が出た光景は、「まるで(インドの)9・11テロ」のような衝撃を与えた、と書いている。1903年に建設されたホテルは、インドの「最も著名な目印」で、インドのテレビのキャスターが言ったところによれば、「米国人がワールドトレードセンターの光景が忘れられないように、ムンバイとその自由な精神を代表する美しい建物から炎が出た光景を人々は決して忘れ去ることはないだろう」。
by polimediauk | 2008-11-27 19:33 | 新聞業界