小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

苦しい英地方紙とBBC 会議から

 英国野村がロンドンに勤務する人材の中から、約1000人を近く削減するそうである。小売店チェーンのウールワースがほとんど破たん状態になり、金利が4日付で2%になった。ついこの間までは4%ほどだったのに。2%は1951年以来の低さである。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/business/7764107.stm
http://news.bbc.co.uk/1/hi/business/7764741.stm

 なんだか物騒なぐらいに景気が悪くなっていく感じがする。小売店はどんどん大セールをやっている。「これでもか!」というほどに、値段をどんどん下げている。ロンドン野村に勤務している人はクリスマスどころではないだろう。

 メディアもこうした風潮の中で孤立しているわけではなく、あまり景気の良い話は聞こえてこない。

 11月9日から11日の「ソサエティー・オブ・エディターズ」の会議でも、地方紙の悲鳴が聞こえてくるような意見が多く出た。この時焦点になっていたのは、BBCが予定している地方版のウェブサイト拡充案だった。この案は100%無くなったわけではないが、実現にストップがかかった状態だ。その結果、今度はBBC側の人員削減につながっている。英国に住んでいて、景気悪化に関しては物事の進み具合が非常に(過度に)速い感じがする。

 会議の様子と新聞業界の内情を11月25日号の「新聞協会報」に書いた。以下はそれに若干付け足したものである。


英編集団体年次会議
―地方サイト拡充でBBC批判
 新聞が広告収入減など危惧


 英メディア編集者関係団体「ソサエティー・オブ・エディターズ」の年次会議が11月11日まで3日間にわたり、イングランド西部ブリストルで開催された。BBCが発表した地方版のウェブサイトを拡充する計画案に対し、ページビューや広告収入の減少を危惧する地方紙を中心に、批判が相次いだ。一方、発行部数減と広告収入減が続く新聞経営の在り方では、サイトからの利益を上げる方策として動画提供への期待や、「ハイパー・ローカル」(地域密着)に徹すべきだとの指摘など、生き残り策について論議が交わされた。

 年次会議には、新聞・放送各社の編集・経営幹部ら200人が参加した。地方紙を中心に新聞界から、BBCが地方版サイトを拡充する動きを見せることに対する批判が繰り返された。

 BBC執行部は5月末、60の地方版サイト(利用者は週に計400万人)に、1日10本以下の動画を掲載する計画案を発表した。制作体制も5年間で現在の各サイト4人にビデオ・ジャーナリスト一人を加えるという。ただし地元のビジネス情報の検索や不動産、交通、求人など、地方紙が得意とするニュースは拡充しないとした。BBCトラストが「公的価値を持つかどうか」で審理を続けている。(注:11月21日、トラストは中間結論を出発表し、「公的価値はない」とした。)来年早々、最終決定が出る。

 毎年約30億ポンド(約4360億円)の受信料収入を得るBBCが、地方版サイトの拡充に乗り出すことに対し、地方紙など新聞界の批判は強い。地方紙・雑誌で構成する「ニューズペーパー・ソサエティー」は11月4日、審理の停止をBBCトラストに申し入れたほどだ。

 ブリストルの編集者会議でも「BBCによるサイト拡充は地方紙市場の競争を阻害する」(地方紙も傘下に持つガーディアン・メディア・グループ社のマッコール最高経営責任者〈CEO〉)、「すべてをBBCが独占したらどうなるのか」(英最大の地方紙グループ、トリニティー・ミラー社のベイリーCEO)など、多くの批判が出された。

 この背景には、悪化する一途の経営状況がある。地方紙が収入の約75%を頼る広告収入が落ち込んでいるためだ。

 構成比の大きい不動産広告を7-10月で見ると、トリニティー・ミラー社と、地方紙グループ大手のジョンソンプレス社は前年同期比で半減した。本紙の広告全体でも両社は、15-20%を超す減収となった。加えて昨年18億ポンドを売り上げた地方紙の案内広告は、2012年までにほぼ半減するとも予測される。地方紙は統合や消滅、人員削減の波の中で、サイトの拡充に取り組むのは困難だ。BBCの新サイトは大きな脅威に映る。

 一方、BBCにとり地方版サイト拡充は、英社会のデジタル化に寄与する活動方針に合う。ロンドン中心の番組制作から軸足を移し、地方に住む視聴者からの評価も期待できる。多チャンネル化が進むなか唯一、視聴者から受信料を受け取る放送局としての存在意義を認めてもらい、将来の活動資金の安定化を目指した動きでもある。

 また、多チャンネル化の進展や景気動向、視聴者の視聴行動の変化などから、放送業界も広告収入源に悩むが、民放大手ITVは地方ニュースの制作を縮小あるいは放棄する方向に向かっている。地方ニュース市場自体がプレイヤー不足気味になる中で、「BBCの参入はむしろ望ましい」(ジェレミーITV地方ニュース編集者)という声もあった。

―動画、地域密着に活路
 新聞生き残り策めぐり論議

 新聞が生き残る方策をめぐる論議では「痛みを伴う策しかない」との見方が出された。一方、サイトからの利益を増やす方法については、決め手はないものの、動画の充実や地方紙では「ハイパー・ローカル」に徹する必要性が挙げられた。

 大衆紙デイリー・メールのデイカー編集長は「市場は縮小し、地方紙の統合・合併がこれから加速する。予期できな動きも出てくる」と述べ、「思い切った頁数の削減、販売価格のカットなど、これまでに想定外としてきたことにも手をつけるべき」と語る。

 ベイリー氏は、読者が「必要なとき必要な情報を必要な形で、無料で提供する」ために努力すべきだとして「痛みを伴う生き残り策」しかないと言い切った。

 「痛み」の一つは、人員削減である。11月17日付ガーディアン紙によると、7月中旬の1週間で主な英メディア企業による人員減は2300人を超す。この3か月で全国紙、大手放送局などは約4000人を減らした。

 会議に出席した編集・経営幹部は、サイトから収益を上げることに望みをかける。しかし決め手を持つ社はほとんどない。

 「満足な利益を上げている」。こう述べたのは、ガーディアン紙のラスブリジャー編集長だけだ。同紙のサイトは「紙よりもネットを重視」の方針を編集長自ら宣言し、他紙に先駆けて先行投資をしてきた上に、イラク戦争開戦前後、米メディアがこれを正当化する政府方針を支援する画一的な報道になる中、政策批判を含め冷静かつ深い報道を続けたと評価され、高級紙のブランド力を高めた。米国からの読者も多く、世界中から毎日約2000万人がアクセスする。

 今後は「サイト上の動画」(マッコール氏)を使った収入増を見込む。具体的には動画の前後に広告を流す方法で、トラフィックの多さから広告費をある程度高く設定できる利点とユーザーのサイト滞在時間を長くできる。

 高速ブロードバンドの普及により、動画はダウンロードしやすくなっている。視聴者と広告主がネットに移動していることから、番組を放送と同時に見れるなどサイトを刷新したITVも劇的にトラフィックを伸ばした。英国の動画市場は5年間で28億ポンド規模に成長する見込みだ(ドレスナー・クラインオート社調べ)。

 大手紙サイトも動画の充実に力を入れる。放送社と新聞社はネットでの動画提供という点では同業他社となり、業態の垣根が消えていく動きとなっている。

 地方紙の生き残り策に、マッコール氏はハイパー・ローカル化を挙げた。地方紙だから取材できる地域の細かな情報を生かした紙面作りが必要だとした。

(補足)

 一方、コンサルティング会社「S1」のスミス代表はサイトから利益を生むには「市場の徹底したセグメンテーション化」を挙げる。「いかに特定のユーザーにあったコンテンツや広告を提供できるかが鍵を握る」。トリニティー・ミラー社のベイリー氏は「行動ターゲティング広告の活用」を挙げた。(「これまではやらない・できないと思っていた分野にも私たちは踏み込まなければならない」とベイリー氏は言っていた。読者にかかわる情報を広告会社に売る、という意味で、「一歩踏み込んだ」ことをやろうとしているのかな?と思わせた。)
 
 これまでの新聞業は不特定多数の人を読者として想定してきた。しかし、一人一人のニーズに合ったコンテンツを提供するモデルが、もしスミス氏の言うように将来の生き残りの「鍵」となるのであれば、天と地が変わるような変身が必要となってくる。こんな大きな変身が、はたして可能なのだろうかー?・・・そんなことを考えながら最後のセッションを聞いていた。
by polimediauk | 2008-12-04 23:47 | 新聞業界