マドンナ、リッチーの離婚と財産分与+クリスマス
英国のクリスマスは日本の年末年始にも似ていて、家族が一緒に過ごす時期、ということになっている。離婚、再婚、あるいは結婚していないパートーナー同士の別離(逆に出会いも)は日常茶飯事となるので、「どの家族と一緒に過ごすのか」という問題が非常におおごとになってゆく。悲喜こもごものドラマとなる。子供たちがどっちの親の家でクリスマスを過ごすのか?簡単にはいかない。
このところ、英国に住む有名人の離婚が世間を騒がせた。例えばポールマッカートニーとヘザー・ミルズの離婚やマドンナ(英国にずっと住んでいた)とガイ・リッチーの離婚である。多くの人は、こうした有名人カップルの離婚劇を大いなる関心を持って見ていた。相手が有名人だから、という理由以上に、離婚が誰にとっても身近な問題となっているためもあった。
その背景を、「ニュースダイジェスト」12月4日号に書いた。これに付け足したのが以下である。
(また、このブログはクリスマスが終わる頃まで、一旦休みます。年末、また再開します。2008年、お忙しい中、このブログを読みにきて下さり、本当にありがとうございました。)
マドンナ、リッチーが離婚
―「カネはいらない」で人気に
人気歌手マドンナさんと映画監督ガイ・リッチーさんの離婚が、11月末、成立した。両者ともに有名人で巨額の資産を持つだけに財産分与で相当もめるのではないかとする予想を裏切り、子供の養育権が争点となった。リッチー監督は自分よりはるかに収入が上の妻への財産請求権を拒否したと伝えられ、「偉い!」と株を上げた。最近の有名人カップルの離婚とお金の関係を探った。
―近年の英国有名人の離婚事件
カップル名:歌手ポール・マッカートニーさん、キャンペーン運動家ヘザー・ミルズさん
離婚までの経緯:2002年結婚後、06年別居。08年3月、調停後に離婚成立。
資産:裁判所によれば、夫の資産は4億ポンド(約573億円)相当
財産分与:夫が妻に2430万ポンド支払う。内訳は離婚手当が1650万ポンド、資産が780万ポンド。離婚手当にはロンドンの物件購入代250万ポンドが含まれる。これとは別に、乳母代や学費を含む養育費として毎年3万5000ポンドを夫が妻に払う。
子供の養育権:4歳の娘は母親と暮らす。
評価:夫の資産は8億ポンドとする妻は1億2500万ポンドの支払いを要求。4年間の結婚生活で巨額の支払いを要求したミルズさんの株は大幅下落。調停が続く間沈黙を守ったマッカートニー株は上昇。
カップル名:歌手マドンナさん、映画監督ガイ・リッチーさん
離婚までの経緯:2000年に結婚後、今年11月、離婚成立。
資産:夫と妻で推定約5億2500万ドル(約503億円)。そのほとんどが妻マドンナさんの分と言われる。
財産分与:報道によれば、妻からの2000万ポンド(約18億円)の授与を夫リッチーさんは拒否したと言われる
子供の養育権:マドンナさんの娘は母親と暮らし、リッチーさんとの間にできた息子とマラウイからの養子の息子はリッチーさんが住む英国とマドンナさんが住む米国との間を行き来する。
評価:妻の財産の受け取りを拒否したと報道されたリッチーさんの株が急上昇。
カップル名:元アーセナル、ティエリ・アンリ選手、元モデル、クレア・メリーさん
離婚までの経緯:不倫発覚で2007年離婚。
資産:推定では選手の資産は約2500万ポンド。ロンドン北部の豪勢な自宅は、購入時(2002年)600万ポンド相当だった。
財産分与:慰謝料として元妻に1000万ポンド払ったと言われている。サッカー選手としては最高額か。
子供の養育権:現在4歳になる娘がいる。詳細は明らかにされていない。
評価:離婚原因は「アンリの態度」とされ、実際には選手の不倫が主因と言われている。自業自得か?それにしても元妻の慰謝料請求額の大きさに、みんな唖然。
カップル名:歌手・女優ビリー・パイパーさん、DJクリス・エバンズさん
離婚までの経緯: 01年結婚後、04年から別居し、2007年離婚。
資産:3000万ポンド(エバンズさん分)
財産分与:パイパーさんは夫から財産分与を受けていないと言われている。
子供の養育権:離婚当時は子供なし。
評価:「離婚で、夫からはびた一文ももらわない」と宣言したパイパーさんの株がアップ。
カップル名:F1レースの興業主バーニー・エクレストンさん、元モデルの妻スラビカさん
離婚までの経緯:今年11月末、妻が離婚申請を提出。結婚生活は24年間継続している。
資産:夫の推定資産は24億ポンド。世界中に不動産、豪華ジェット、ヨット他を所有する。
財産分与:未定
子供の養育権:子供たち(24歳と19歳)は成人しているため、問題外となりそうだ。
評価:知らないうちに離婚申請を出され、巨額慰謝料を要求されそうなエクレストンさんの株はやや下落か。
―骨肉の争い?
愛情一杯で結婚した2人が、いざ離婚となると互いの財産分与や子供の養育権で骨肉の戦いを繰り広げるー。米映画「クレイマー・クレイマー」や「ローズ家の戦争」でフィクションとして描かれたが、これが現実となったのが、今年3月離婚が成立した元ビートルズのポール・マッカートニーさんと元妻ヘザー・ミルズさんの争いだ。世界一有名なポップグループの一員として長年に渡って築き上げた資産を持つ夫に対し、ミルズさんは巨額慰謝料を請求した。一女をもうけたとは言え、ほんの4年間の結婚生活だった。裁判は長期化し、これをメディアが過熱報道。夫妻は「汚れた下着を人前で洗っている」(内輪の恥を人前にさらす)と言われた。
好対照をなすのが歌手マドンナさんと映画監督ガイ・リッチーさんの離婚だった。10月、2人が離婚の準備段階に入ったと報道された。夫婦としての合計資産の大部分がマドンナさんのものと言われ、財産分与や子供たちの養育権を巡って長期の交渉が続くと予想された。11月末、3人の子供の養育権に関して取り決めが交わされると、離婚が成立。「お金より子供が大事」と述べたリッチーさんは、マドンナさんの個人資産への一切の請求権を放棄したと報道された。「潔い」、「男らしい」、「お金にこだわらない」など、リッチーさんの株は急上昇した。
裁判が長期化した上に、お金に執着心を見せて株を下げたミルズさんと、離婚がスピーディーに進み、「カネにはこだわらない男」として人気となったリッチーさん。評価の違いは、離婚騒動の管理の仕方の違いにある。パパラッチやタブロイド紙のターゲットとなったマッカートニー夫妻の離婚劇を見ていたマドンナさんとリッチーさんは、養育権や財産分与などもめそうな案件に関して2人の間で十分に事前協議。離婚のプロセス開始までに、すでにほぼ合意ができていたと言われる。最後の詰めを終えて、離婚はほどなく成立。例え2人の間で「骨肉の争い」があったとしても、それを表に出していけない。イメージ作りが命の有名人にとって、修羅場の表面化が打撃となることを両者が十分に承知していたのだろう。
一方、それぞれの離婚劇は、ある「気になる問題」を多くの人に思い出させた。それは、「高額所得者のパートナーと離婚する時、妻あるいは夫はどれだけ財産分与を請求できるのか?」という問題だ。昨年、保険業界の有力者の男性の元妻は、資産の形成における「妻としての貢献度」を評価され、英国の離婚訴訟史上最高の4800万ポンド(約70億円)の慰謝料を受けることになった。結婚は平等な立場のパートナーシップという考えを基に、他にも高額所得者を夫に持つ妻に巨額慰謝料の支払いを命ずる画期的な判決が複数出た。働く男性側からすれば、仕事で一生懸命築き上げた財産の多くを、「不当に」元妻に持っていかれてしまう状況だ。ミルズさんの高額慰謝料の請求は、高額所得者の夫から多額の財産分与を求める元妻の姿にダブって見えた。逆に、リッチーさんは「人の財産まで欲しがろうとしない男」として、高い賞賛の声が出た。
しかし、離婚を専門とするある弁護士は、「リッチーさんは後悔するのでは」と指摘する。「男の面子で財産分与を拒否する必要はない。もらえる時にもらった方がよい」と。
果たしてリッチーさんが「やっぱりあの時・・」と将来考えるかは不明だが、近年の判例を見る限り、「自分より高額所得のパートナーが築いた財産にはノータッチ」のリッチー流は、あくまでも珍しい例になりそうだ。(小林恭子)
―関連キーワード Divorce rate:離婚率。よく英国で報道されるのが、夫婦1000組当たりの離婚件数。政府統計によると、イングランド・ウェールズ地方は11.9(2007年)。前年比で過去3年間連続下落。1970年代初期は6前後だったが、その後、緩やかに上昇してきた。最も離婚率が高いのは20代後半の夫婦で、そのうちの半分以上に子供がいる。これとは別に、人口1000人当たりで計算するなど、様々な離婚率の計算方法がある。一方、シビル・パートナーシップを結んだ同性同士のカップルの中で、07年これを解消したのは42組。28組が男性同士、14組が女性同士のカップルだった。