小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

英国で法廷にテレビカメラが入るようになるかもしれない

 英イングランド・ウェールズ地方では、裁判の様子のテレビ放映は今のところ行なわれていない。ところが、こうした状況が変わる可能性が出てきた。

 昨年11月検察庁のディレクターに就任したキア・スターマー氏が、司法の透明性と公開度を拡大するため、テレビ放映の必要性を報道陣に語ったからだ(チャンネル4で9日放送分より)。

ニュース
http://www.channel4.com/news/articles/society/law_order/calls+to+televise+court+cases/2900667

ビデオ

http://link.brightcove.com/services/link/bcpid1184614595/bctid6805212001

 イングランド・ウェールズ地方の法廷にかつてはカメラが入っていたが、これは1925年に停止された。法曹界ではカメラをシャットアウトする状態は時代錯誤的と見ている、とチャンネル4は伝える。スコットランドでは一部カメラ撮影が許されている。

 これまでイングランド・ウェールズ地方でテレビカメラが法廷に入ったのは3年前のパイロット・プログラムが行なわれた時。3週間に渡る撮影だったが、当時のフィルムは公開されていない。

 裁判報道での自由度がどんどん広がりつつあるが、テレビカメラがOKということになると、ずい分大きな変化になるような気がする。スターマー氏はテレビ放映は法廷に「新鮮な風」をもたらす、と述べる。しかし、チャンネル4も指摘しているように、テレビカメラを使って裁判を一種の政治ショーとして使う人も出てくるだろう。例えば、死刑になったフセイン元イラク大統領の公判の様子は誰でも思い出すだろうと思う。「あなたには裁判をする資格がない」と裁判長に向かって言うなど、なかなか本題に入れないままに時間が過ぎた。

 ところで、英国では陪審員の評議によって、刑事裁判の一部で有罪・無罪が決められている。メディア側は陪審員に関しての報道に厳しい制限をつけられる。12人の陪審員中で男女の比率の報道ぐらいはいいのだが、そのほかの情報に関しては事実上一切報道が禁止されている。テレビカメラが法廷内に入った時、現状では、カメラは陪審団を撮ってはいけないことになる。顔が出ては身元が割れてしまうからだ。しかし、この点もいずれ変わるようになるのかもしれない。日本では陪審制度に似た裁判員制度が5月から始まるが、報道機関の裁判員への接触は奨励されていないはずで、英国での変化が日本にもそのうち影響を及ぼす・・・なんてことがある「かも」と思ったりする(先は長いだろうが)。
by polimediauk | 2009-01-11 07:05 | 英国事情