小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

ガザを救えというチャリティー広告を出すか、出さないか

 今朝のBBCラジオ4の「TODAY」という番組で、赤十字の人がガザで負傷した人を助けるべき云々の話をしており、「何故今これが問題に?」と思っていたら、「災害緊急委員会」(Disasters Emergency Committee, DEC)というところがガザで人道支援を行なうための資金集めを行なっており、その広告(動画クリップ)を出すか出さないかで、テレビ界がもめているのだった。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/7848614.stm
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/7848673.stm

 大手テレビ局は一旦は「広告を放映しない」と決めたようだ。何故そうしたのかは不明だが、恐らく、公共放送(運営資金がどこから来るかとは別個に、BBC,ITV、チャンネル4などもこの枠に入る)枠ではニュースは偏向してはいけないことになっており、放映すれば親パレスチナ側と目される、と判断したのかもしれない。

 このDECの「ガザ人道支援アピール」は、BBCサイトによれば、1月22日に発足。ガザ復興のために募金活動をしている。参加チャリティー団体は英国赤十字、オックスファム、セーブ・ザ・チルドレンなど著名なものが多い。私腹をこやすための変な団体ではない、とは言えるだろう。

 国際開発問題担当のダグラス・アレクサンダー大臣も(「が」というべきか)放送を支持している。

 問題は、BBCのトンプソン会長が、BBCの公平性を保つために、放送を却下してしまったことが発端だ。紛争の一方の側に傾いた放送になる可能性を避けるための正しい判断のはずだった。これが視聴者からの大きな非難を招いた。23日放送のBBCラジオ4「エニー・クエスチョンズ」という番組でも(識者によるパネリストに対し、視聴者が質問をする)、99%がBBCによる今回のチャリティー・アピールの動画放映不可は「間違いだ」と考えていた(挙手による)。

 BBCがあまりにも「政治的に正しい」ことをしようとするあまり、今回、判断を間違えたのではないか、という声が強い。

 この番組の中に出演していた政治家(元BBC記者、中東担当)は、「一般的にイスラエル側からBBCへのプレッシャーは強い。今回放送しないようにとプレッシャーがあったという意味ではないが。BBCには放映でガッツを見せて欲しい」と述べた。

 例によってBBC側は「判断は間違っていなかった」と今のところ言い続けている(こういう時、恐らく面子を守るためだろうが、BBCは決して前言撤回をしないのだ。)こうした中、ITV、チャンネル4, ファイブが放映方針を発表し、波紋が広がっている。先ほど、アルジャジーラ英語から送られてきたメールによれば、こちらも放映をするという。アルジャジーラ英語放送は、衛星テレビスカイを通じて英国で番組が見れるのである。

 24日はBBCの建物の1つの前に200人の抗議者が集まり、BBCに対し「恥を知れ」と叫ぶと共に、放送要請の嘆願書を出したという(・・・ということさえも自社ウェブサイトまで流すのがいいところではあるのだが・・・)。

 果たして、BBCはいつまで放送しないままでいられるだろうか?もちろん、放送しない局が1つぐらいあっても不思議はないのだが、BBCで放送すれば集まる募金の額が大きく違うはずなのだ。

 思い起こすと、BBCはかつて、反イスラエル報道で批判されていた。内部調査でそういう傾向があったようだが、その詳細は公開されていないようだ(以下参考。他にも別の調査があったと思うが、今見つからなかったので、とりあえず以下のみ)。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/6599927.stm

 今回はその逆で批判されていることになる。BBCがどうもお役所的に見えてしょうがない。報道機関としての信頼感・期待が大きいだけに一挙一動が批判の対象になってしまう。

 他局での放映は26日(月曜日)からになる見込み。

 BBC云々の話はやや横に置くとしても、今回の紛争で公平な報道はどうあるべきか?という議論が英メディア界である。今回のような紛争の場合、公平と言うのが難しい。また、メディアのアクセス度により露出度も変わってくる、単純な話だが。誰も行かない場所のニュースは表に出ないのである。また、今回の紛争に限ると、「公平性をいかに維持するか」なんて、どっちでもいいじゃないか、偏ってもいいじゃないか、と言う声があるのも事実だ。

 このチャリティー団体のアピールの話に戻れば、先のアレグサンダー氏(閣僚)は、動画を見て、募金するかどうかは国民が決める、それでいいのではないか、と述べている。

(―「災害緊急委員会」(Disasters Emergency Committee, DEC)はhttp://www.dec.org.uk/ で開くはずだが、少し前までアクセスできたが、いまやって見たらアクセスが殺到したのか開かなくなった。)


追加:BBC経営陣の見方

 BBCのトンプソン会長の見方は社員宛のメールに書かれてありました。以下から見れますが、
http://www.bbc.co.uk/blogs/pm/2009/01/the_bbc_and_the_dec.shtml

 2つ大きな理由があって、まず(1)実際に困っている人に届くのかどうか疑問、(2)今まさに進行中の紛争であるので、どちらか一方に肩入れしたくない・・・と。また、これまでにはDECのアピールを放映したことがあるそうで、DEC自体がダメというわけではない。しかし、今回に限っては・・とのこと。

 私の見方は、「変にこだわっているところが、何かおかしいなー?」という感じです。裏情報を持っているわけじゃないんですが。基本的に英国の大手メディアの報道は親パレスチナだと思っています。どうでしょう?前にレバノン紛争があった時も、反イスラエル感情が強まりましたよね、英国では。

 今回、BBC経営陣が親イスラエルになったとは思わないと言うか、まだ十分な証拠が無い感じなんですが、イスラエルがプレッシャーを加えた、という大それたことじゃなくて、あくまでも官僚主義的な動きのような気がしています。BBCが片方に偏ったような報道(一方に同情的な報道)をしたことは限りなくあるわけですし。

 それと、新聞の投書欄に「DECのことがニュースになったので、募金が増えた」という声と、「BBCはこのニュースの報道で、自社ウェブサイトにDECのアドレスを載せている、やっていることのつじつまが合わないのではないか」という声もありました。

by polimediauk | 2009-01-25 00:58 | 放送業界