RBS銀元幹部の年金とハーマン議員、英上院議員の汚職疑惑
与党労働党のハリエット・ハーマン副党首は、この金額は(例え合法であったとしても)「一般大衆の法廷では」受け入れられない額だとして、何らかの形で払い戻しを求めることを示唆した。ブラウン首相も、先に過度の額であることを認めている。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk_politics/7917361.stm
どうやって政府がこの金額を減少させるのかは不明だ。既にグッドウィン氏は減額を拒否している。
RBSを公的資金注入が必要とされる状態にした人物が辞任し、年金をもらうことになったわけだが、失敗の元を作った人物が巨額年金をもらうのは「国民感情が許さない」というつもりで、ハーマン氏は言ったのだろう。
しかし、実際、本人が返さないといっているのだから、どうしようもない。
昨晩BBCラジオを聞いていたら、「特定の個人をこらしめるために法律を作ったり、変えたりするのは良くない」という労働党議員の話があった。
政府高官やメディアが国民の大体数の声を代弁する形で「年金は巨大すぎる」と述べて、減額コールを作り上げるのは許せるとしても、曲りなりにも政府が一旦年金支払額も含めた契約に合意してから、今になって「違う」というのは見苦しい上に、あまりにもめちゃくちゃである。私自身、「失敗した人物が巨額年金を貰う」のは確かにおかしいとは思うが、それでも、政府が後になって立場をコロコロ変えるのはまずい。しかも、法律ではなく、「一般大衆の法廷では」・・・として、懲罰的な理由で立場を変えるとなると、リンチ的にも見える。どうなることやら、と思う。
少し前に、お金と上院議員の話が話題になった。これを「英国ニュースダイジェスト」最新版の「ウイークリーアイ」コラムに書いた。以下はそれに加筆したものである。
英上院議員の汚職疑惑
改革の追い風に?
英労働党の上院議員4人が法案修正の見返りに金銭を受け取ることに同意したとサンデー・タイムズ紙が1月25日付けで伝えた。議員らは全員が疑惑を否定したが、これを機に上院議員の行動規範を改正すべきと言う声が高まっている。金銭そのほかの物品的見返りと引き換えに法案の行方に影響を及ぼしたり、動議に投票したり、上院内で質問を行なうのは違法だが、議会関連以外の問題を扱うコンサルタント業務は認められている。
―英上院議員の構成
総数:732人。内訳:一代貴族614人、世襲貴族92人、聖職貴族26人(このうち12人が最高裁の役目を果たす)(*欠席届けを出している11人を除く数字。資料:上院)
―世論調査は議員に厳しい結果
*上院議員が法案改正で報酬を受けたとする疑惑を聞いて
驚いた:58%
驚かなかった:42%
*もし疑惑が本当なら、上院議員への対処は?
上院から追放され、罪を問われるべきだ:67%
上院から追放されるべき:24%
上院当局から懲罰を受けるべき:7%
分からない他:2%
(資料:「ユーガブ」調査、2月4日―6日)
―事件の発端
1月下旬、労働党の上院議員4人を巡る汚職疑惑が、サンデー・タイムズ紙の取材によって発覚した。タイムズ紙の記者が、英国内でチェーン展開をはかる海外企業のロビイストとして議員らに接触し、統一事業税関連法案の修正を求める見返りとして金銭を譲渡すると持ちかけた。4人の議員は修正を加えることへの協力を約束し、その見返りに最大で12万ポンド(約1600万円)の支払いを求めたと報道された。
問題の議員らは違法行為は働いていない、現金の受け渡しはなかったと弁明したが、4人の中の1人トラスコット卿が「一日のコンサルティング料で2000ポンド欲しい」と記者に語る様子が隠しカメラで撮影されていた。
―規範のあいまいさ
上院議員には順守するべき行動規範がある。「金銭またはそのほかの物品的見返りと引き換えに、いかなる法案や動議に投票すること、上院内で質問を行なうこと、またいかなる事柄を推進することも行なってはならない」と明記されている。一方、下院議員とは異なり議員給与が支払われない上院議員は特定分野の専門家であったり、ビジネスマンであったりする。そこで、専門知識を生かし、議会関連以外の問題を扱うコンサルタント業務を行なうことは認められている。「議会の義務の遂行に影響を及ぼすかもしれない」情報に関しては申告することになっている。
しかし、行動規範の解釈には不透明さがつきまとう。一体どこまでが合法行為となる「議会関連以外の業務」になるのか、また「影響を及ぼす」という解釈の線引きはどうなるのか?
2月上旬、ロンドン警視庁は「証拠不十分」として疑惑捜査を行なわないことにした。議員特権で捜査を拒否されることの懸念や行動規範の解釈の不透明さが背景にあった。その代わり、上院の小委員会が疑惑の詳細を調査することになっている。
―有罪となっても資格は剥奪されず
上院議員は、登院すれば一日に合計335ポンド50ペンスが手当てとして支給される。これは課税対象外だ。一方、例え違法行為が証明されても、最大の罰は謝罪で上院議員の身分を剥奪されることはない。実際、著名作家でもあるアーチャー卿は偽証罪と司法妨害罪で有罪となり、6年の禁固刑となった。テレグラフ紙を所有していたブラック卿は詐欺罪で受刑中だ。両者共に上院議員の資格を維持している。世論調査会社「ユーガブ」の調査によれば、89%が「刑務所に入った上院議員はその資格を剥奪されるべきだ」と答えている。
今回の事件を機に上院議員の行動規範を改正すべきとする声が高まっている。ストロー法相は、刑事犯罪で有罪となった議員は資格を剥奪される案も含めて、2010年までに規範の見直しを進めることを明らかにした。
11世紀にその始まりを持つ上院に、「悪いことをしたら追放」という、市民社会では当然の規範が適用される日が来るのは意外と近いかもしれない。今回の疑惑の真偽は未だ不明だが、労働党政権が進めてきた上院改革の追い風ともなりそうだ。
―疑惑の対象となった上院議員
トラスコット卿(49歳):貴族の称号を授与されたのは2004年。防衛及び貿易担当閣僚だった経験がある。元欧州議会議員。作家、学者としても知られ、プーチン露大統領の自伝を出版している。エネルギー及びロシア関連の複数の企業のコンサルタント及び非常勤役員を務める。
ムーニー卿(61歳):1987年から2005年までスコットランドのカーカルディ選挙区の下院議員だった。元兵士の問題を担当する大臣職を経て、貴族の称号を得たのは2005年。上院では経済・金融委員会の委員。
スネイプ卿(67歳):1974年から2001年までイングランド地方中西部ウェスト・ブロムウィッチ・イースト選挙区の下院議員。1977年から79年まで与党内院内幹事を務めた。防衛、内政、交通問題に詳しい。貴族になったのは2004年。
テイラー卿(79歳):ホテル・グループの社長でストロー法相の友人。2001年と05年の総選挙時には労働党への寄付金提供者となった。1969年に大英勲章第4位(OBE),74年にCBE(大英勲章第3位)、78年に貴族の称号を授与された。94年から2005年まで防衛大手BAEシステムズにコンサルタントとして働き、その後もエネルギー関連のコンサルティング業務に関わる。顧問役となっているCantaxx社がストロー現外相に3000ポンドの献金を2004年行ない、これをストロー氏が申告していなかったことが昨年発覚した。
―関連キーワード
Cash for Honours:直訳は「勲章を金で買う」だが、2006年に発覚した労働党への選挙資金融資疑惑を指す。一代貴族となる人物の候補者推薦リスト(首相作成)の中に、2005年の総選挙のために労働党に巨額融資を行なった人物数人が入っていた。当時の選挙法では政党への献金は公表する義務があるが、融資に関しては規定がなかった。これを利用して、労働党が融資を依頼し、見返りに爵位を売ろうとしていたのではないかとする疑惑が出た。ロンドン警視庁が捜査に乗り出し、ブレア首相(当時)を含め関係者が調査を受けた。2007年、疑惑を裏付ける証拠が不十分として、警視庁の捜査は中止となった。