小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


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英FT、有料化強める

 4月2日にG20金融サミットがロンドンで開かれるので、市内で大規模なデモが始まっている。グローバル化反対、銀行家への反発などが中心で、英中央銀行や近辺のオフィスビルへの攻撃を予定しているとも伝えられている。

 英国内で失業者が増えていて、この間、職を失った若い女性がBBCラジオで取材されていた。彼女は18歳から働いてきて、今まで失業したことがないので、現状を恥だと思って生きている。両親以外には失業したことを誰にも伝えていない。「現在の心境は?」と聞かれて、泣き出してしまう。

 サミット開催で、巨額・莫大な税金が使われる。開催するだけのお金があったら、どれだけの人を救えただろうかと思う。

 英国の経済はさらに悪化するそうだが、サミットが将来役に立つ何かを生み出すことを願っている。1930年代にもロンドンでサミットがあったそうだが、大失敗だったそうである。二の舞にならないと良いのだが。投資家ジョージ・ソロスが昨日BBCに語ったところによれば、今回のサミットには意義があり、それはこういう金融危機では一つの国あるいは二ヶ国間の合意ではなく、国際間の取り決めが効果的だからだそうだ。

 「新聞協会報」3月24日号にFTの有料化の話に関して書いた。以下はそれに付け足したものである。

 FTは常に一歩先を行くように、経済危機に対応した動きをしているようだ。それにしても、通常ウェブサイトで見ているFTを紙で買うと、サイトでは見えなかったトピックが見えてくる。紙媒体のレイアウト構成とサイトの構成は全く違う、別物なのだということを改めて感じた。(追記:それと、スポーツクラブの会員になった方は経験があるかもしれないが、先払いでやってしまうと、意外とあまり使わないというか、全体の一部しか使っていないことがある。FTにしろ、エコノミスト・サイトにしろ、有料購読者になっても、それほど読まない人が結構多いのではないか?また、たとえ頻繁に読む人でも、なかなか全ては読めない。これはほぼ全員がそうであろう。休眠状態の人ーーお金だけ払って実際はサービスを使っていない人ーーが結構いるだろう。有料購読者の数だけで競っても、あまり意味がないことになるが。このあたり、広告を出す側はどう考えているのだろう。) 

英FT、有料化強める
英米主要紙で模索の兆しも


 英経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が、無料で閲覧できるニュースサイトの記事数を次第に減らしている。2007年のサービス開始時には月間30本を無料閲覧できるようにしたが、現在までに十本に減少している。未曾有の不景気で広告収入増加が見込めない中、タイムズなどの他の英紙も有料モデルを模索する。米紙ニューヨーク・タイムズ幹部からも、再度の有料化を示唆する発言が出てきた。

 FTは07年10月、FTは、利用者の拡大のため、有料で提供していたサイトの記事を月間30本まで無料で読めるようにした。しかし1年後には20本に減り、現在は10本程度までになった。利用者登録をしなければ、3本しか読めない。FTは近年、広告収入への依存を減らし、デジタル化された金融経済情報の有料提供に主力を傾けるようになっている。無料で閲覧できる本数を減らすことは、有料購読者拡大に向けた戦略の強化を示す。

 FTの親会社で教育・情報大手ピアソン社が2日発表した08年決算によると、FTグループ(新聞、サイト、インタラクティブ部門)に占める広告収入の比率は2000年の52%から25%に減少した。これに対し有料のデジタル情報サービスによる収入は28%から67%に上昇している。

 金融機関やテクノロジー企業がマーケティング費用を削減したため広告収入は3%減となったが、FTグループの収入、営業利益は景気後退にも関わらず、共に前年比8%増を記録した。

 好業績の理由は徹底した合理化と有料化モデルの推進だ。紙とネットの編集部門の統合、非中核事業の外注化などの費用削減に加え、スポーツ面の廃止、頁数の減少、人員削減、一定額以上の給与の賃上げ凍結、希望者を対象とする夏季週3日勤務制度の推進など、広範な手段を講じている。過去1年半で平日版販売価格を1ポンド(約138円)から1・8ポンドまで急上昇させ、08年の販売収入を前年比16%増加させた。

 サイトの有料利用者は前年比9%増の10万9609人となった(実は、この約10万という数字はここ1-2年、あまり変わっていない感じがするので、「増えた」のは事実としても、沢山増えているとは思えない)。財務情報の提供や記事に利用権を販売するなど企業向けサービスにも力を入れる。3月からは、月2回中国に関する投資・経済情報をこれも有料で提供する「チャイナ・コンフィデンシャル」を始めた。

 景気後退が続く中、他の英紙もニュースサイトの課金モデルを模索中だ。ガーディアン紙(2月23日付)は、「ニューズ・インターナショナル社筋の話」として、同社が発行するタイムズの経済記事をその親会社が所有する米ウオール・ストリートジャーナル紙の有料サービスの抱き合わせとして提供する案を紹介した。しかし、英国の場合、BBCの無料ニュースサイトの存在が大きいと記事は指摘する。これが無料化維持の圧力になる、という見方だ。

 有料のオンライン・サービスだった「タイムズセレクト」を07年に無料にしたニューヨークタイムズ紙も、再度の有料化を念頭に置いていると言われる。3月9日の同紙サイトの記事で、ニセンホルツ上級副社長が有料化の可能性を示唆した。

 サルツバーガー会長は否定したものの、景気低迷で広告収入が減少し、08年決算で赤字転落した同社にとり、タイムズセレクトが生み出していた年間約1千万ドル(約9億8000万円)の収入が大きな魅力に映っているのは間違いない。
by polimediauk | 2009-03-29 19:05 | 新聞業界