小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


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パイレート・ベイ、タックス・ヘイブン

 音楽・映像のファイル共有・ダウンロードサービスを提供する、スウェーデンのウェブサイト運営者たちに、17日、著作権法違反で実刑判決が出た。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/technology/8003799.stm
http://news.bbc.co.uk/1/hi/business/8004060.stm


 この件に関しては、日刊ベリタのみゆきポワチャ記者が何度か書いている。

http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200903071621186

 スウェーデンで、こうしたサービスの提供が「著作権侵害ほう助に当たるかどうかをめぐる裁判」が、2月16日から3月3日まで行なわれていた。損害賠償を要求していたのは音楽、映画業界だ。

 有罪になったのはサイト創始者の4人で、それぞれが一年の禁固刑。ずい分厳しい感じがする。また、巨額罰金の支払いも科された。

 パイレートベイは世界で「最も著名なファイル共有サイト」とされている(BBC)。2003年に創設。ユーザーは音楽、映画、コンピューターゲームなどをアップロード、あるいはダウンロードし、著作権を払わず利用できた。

 こうしたサービスで使われるのは「ビット・トレント」というソフトで、同じ番組を沢山の人が同時にダウンロードできる。1人がダウンロードを開始すると、ダウンロード作業が終了する前に、他の人が番組をサイトにアップロードできる。ファイル共有する人が多ければ多いほど、作業が簡単になるという。

 パイレートベイはこのビットトレンド・ファイル、通称トレントの検索エンジンサービス。同様のサービスは他にもあるが、非常に人気が高いのがパイレートベイで、利用者は2200万人とされる。

 有罪・実刑となっても、パイレートベイを含め、同様のサービスは続くと予想されている。そこで、この判決は、著作権を払わずに利用しても良いと考える人への「警告」という意味がある・・・そうなることを、少なくとも著作権団体は望んでいる。

以下、パイレートベイのサービス説明:(日本語)

http://thepiratebay.org/

「ザ・パイレート・ベイ」は世界最大の「ビット・トレント・トラッカー」です。「ビット・トレント」は確かな方法でサイズが大きいファイルでも高速通信が可能なファイル・シェアリング・プロトコルです。

このウエブサイトは自由に使えるトラッカーで誰でもトレント・ファイルをダウンロードすることができます。アップロード、コメントの書き込み、個人的なメッセージを掲載したい場合は、会員登録が必要です。登録は無料です。

ザ・パイレート・ベイは多くの方が利用されているため、中には不快に思われる内容が掲載されている場合があります。そのような場合はご覧にならず、必要なものだけをご覧下さい。ザ・パイレート・ベイは、掲載内容が不適切な場合、削除する権利を保有します。

当コンテンツに関連性のない不適切な語句の使用を発見した場合は削除します。

当サーバーにはトレントファイルだけが保存されます。著作権がないものや違法なもの(映画、ソフトウェア、ゲームなど)はザ・パイレート・ベイによって保存されます。これらは、ザ・パイレート・ベイの過失にはらないものとします。著作権や違法物などに対して苦情を寄せられた場合、当サイト上に掲載する場合があります。

当ウェブサイトはスウェーデンの反著作権団体によって2003年に作られ、2004年10月より個人により運営されています。 Piratbyrån ご利用は全て無料となりますが、運営のための資金が必要ですので寄付金は歓迎致します。
(以上)


―タックスヘイブン

 話は変わるが、先日の金融サミットで話題となったのが「タックス・ヘイブン」(租税回避地)。経済協力開発機構(OECD)は今月2日、秘密口座の情報公開を行わないなど脱税対策に非協力的な国のブラックリストを公表した。英政府も監督・規制に力を入れるようになっており、具体的な監視策の協議を始めている。タックス・ヘイブンに関して、「英国ニュースダイジェスト」4月16日号に書いたものに、補足したのが以下である。


タックスヘイブン、規制強化へ


 4月2日、ロンドンで開催された20カ国・地域(G20)の第2回首脳会合(金融サミット)は、タックス・ヘイブン(租税回避地)の規制強化を閉幕制限に盛り込み、終了した。「銀行の秘密の時代は終わった」(宣言)のである。

 これを受けて、経済協力開発機構(OECD)は同日、該当する国・地域の名前を公表した。秘密口座の情報公開を行わないなど脱税対策を十分に行っていない国としてコスタリカ、マレーシア、フィリピン、ウルグアイを挙げた(その後、各国が協力を約束し、7日時点でリストから削除された)。脱税対策を約束していながら非協力的な国・地域としてベルギー、ルクセンブルグ、スイスなど38カ国を名指しした。

 公正な租税体制の構築を訴える在英団体「タックス・ジャスティス・ネットワーク」(TJN)によれば、「オフショア金融センター」とほぼ同義で使われる「タックス・ヘイブン」という用語には正確な定義付けがないという。税率が低い、税制の優遇措置があることに加えて大きな産業がない島国などが該当することが多い。こうした国や地域に企業が租税負担の軽減を目的として「タックス・ヘイブン」を作る。本国からの取締りが困難であるため、犯罪に使われた資金のマネーロンダリングの一つの手としても使われていると言われている。

 しかし、税金が低い、あるいは優遇措置があること自体はもちろん非合法ではなく、外国からの投資を呼ぶために、あえて優遇措置を取り、経済を活性化させる手法は多くの国が行なっている。不当に税金の支払いを回避しているかどうかの判断は「極めて難しい」とTJNの代表リチャード・マーフィー氏は語る。

 ちなみに、OECDによるタックス・ヘイブンの定義は、金融・サービスなどの活動から生じる所得に対して無税、あるいは名目的にしか課税していないこと、かつ他国と実効的な情報交換を行なっていない、または税制や税務執行に、透明性が欠如、または誘致される金融・サービスなどの活動について、自国において実質的な活動がなされることを要求していないことが条件だ。

 タックスヘイブンに関与するのは大企業だけではない。英国の銀行は英国外で働く人、退職後海外で住む人などのためにオフショア口座サービスを提供しており、英国よりもはるかに税金が低いか、税金免除があるジャージー島やマン島に口座を開設している人は多い。国も金融サービスの多様性を確保し、各金融機関の競争を促す一環として、厳しい取締りをこれまでしてこなかった経緯がある。

―クレジット・クランチ(信用収縮)で変わった見方

 昨今の信用収縮で事情は変わってきた。タックス・ヘイブンを使っての「租税逃れ」のために、英政府に入るはずの9億ポンド(約1340億円)から15億ポンドの税収が、毎年、消えている。こうした状況を政府は見逃すわけには行かなくなった。

 タックス・ヘイブンとなった国・地域の側からすれば、税率を低くして、世界中の企業がやってくることで大きな収入を得ており「顧客の秘密を守る」という銀行業の原則から言っても、顧客情報を外部に出したがらない傾向があった。

 しかし、国際的環境も変わりつつある。OECDは、2004年のG20財相会合、昨年秋の国連委員会の会議を通して、国際的な税制取り決めをまとめた。この取り決めを批准した加盟国及び一部の非加盟国は、税金に関わる全ての情報を、リクエストに応じ、互いに交換することになる。この取り決め自体には法的拘束力はないため、情報交換を希望する国同士が2国間の「税金情報共有合意」を交わす。英国はジャージー島、ガーンジー島、バージン諸島、マン島、バーミューダと交わしており、リヒテンシュタインとも交渉中だ。

 TJNのマーフィー代表は、今後は「リクエストがあれば情報を流すのではなく、自動的に情報が流れるようにするべき」と述べる。

 税制の取り決めに関して課題とされるのが、こうした合意を交わしていない国・地域に資金が流れるだけでないかという懸念もあることだ。「税金逃れの根絶」は道徳的にも尊い目標であり、税金収入増を狙う英国も含めた各国首脳陣はタックスヘイブンの規制監督強化にしばらくは力を入れそうだ。

―タックス・ヘイブンの国際基準履行状況リスト(OECD作成)、4月2日発表時点

―いわゆる「ホワイト・リスト」(国際的な税制取り決めを著しく履行した国・地域)
アルゼンチン、オーストラリア、バルバドス、カナダ、中国(*)、キプロス、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ガーンジー、ハンガリー、アイスランド、アイルランド、ドイツ、ギリシャ、マン島、日本、ジャージー島、韓国、マルタ、モーリシャス、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ロシア、セーシェル、スロバキア、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、トルコ、アラブ首長国連邦、英国、米国、米領バージン諸島(*中国は香港とマカオの特別行政区域を除く。)

―「グレー・リスト」(脱税対策を約束しながら十分に実行してない国・地域)
アンドラ、アンギラ島、アンティグア&バーブーダ、オランダ領アルバ、バハマ、バーレーン、ベリーズ、バミューダ諸島、英領バージン諸島、ケイマン諸島、クック諸島、ドミニカ、ジブラルタル、グレナダ、リベリア、リヒテンシュタイン、マーシャル諸島、モナコ、モントセラト、ナウル、オランダ領アンティル諸島、ニウエ、パナマ、セントキッツ&ネビス、セントルシア、セントビンセント&グレナディーン諸島、サモア、サンマリノ、タークス・カイコス諸島、バヌアツ、オーストリア、ベルギー、ブルネイ、チリ、グアテマラ、ルクセンブルグ、シンガポール、スイス

―「ブラック・リスト」(国際的な税制取り決めに合意していない国)
コスタリカ、マレーシア、フィリピン、ウルグアイ(7日時点で、削除)


―関連キーワード: Organisation for Economic Cooperation and Development (OECD) 経済協力開発機構。パリに本部を置く国際機関で、持続可能な世界の経済成長の支援、生活水準の向上、金融体制の安定化などを協議する。経済成長予測などのレポートが高く評価されている。1961年、発足。前身は第二次世界大戦後、欧州経済を活性化するための、米国による復興支援計画(「マーシャル・プラン」)の受け入れ整備のため、1948年に発足した欧州経済協力機構(OEEC)。日本は1964年加盟。加盟国は先進国を中心とした30カ国で、英語と仏語が公用語。約10年前からタックス・ヘイブン(租税回避地)撲滅を目指す運動の先頭に立ってきた。(資料:OECDサイトより作成)
by polimediauk | 2009-04-17 21:05 | ネット業界