小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


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ITVグレード氏、辞任へ、存続の危機―英地方メディア①

 民放最大手ITVの会長マイケル・グレード氏(経営責任者職=チーフ・エグゼキュティブ=も兼任)が今年一杯で辞職することになった。ただ、非常勤の会長としては残るそうだ。仕事の引継ぎ上、完全にいなくなるというわけにはいかないのだろう。

 グレード氏がBBC経営委員会〔現BBCトラスト〕の会長からITVに移ったのは、2006年11月だ〔正式就任は2007年からになるようだが)。BBCの経営体制の刷新を狙い、トラストなるものを立ち上げる直前の話で、2007年からトラストの会長となるはずだった。突然の移籍(それもライバル社への)で、共にBBC内の改革を進めてきたマーク・トンプソン社長(ディレクター・ジェラル=理事長、会長などいろいろな訳がある)は、怒りを隠せなかった。

 グレード氏ならITVを立ち直せるという前評判が高く、大きな期待があったが、広告収入の減少と経済危機の悪化のスピードが非常に大きくかつ早く、とうとう辞任にならざるを得なくなった。

 何でも、もともと2009年末までが任期だったそうで、これを昨年2月、取締役会に「もう一年いて欲しい」と頼まれて、2010年まで延ばしていた。結局、最初の計画通り、今年末までとなった。

 驚くのが、振り返ってみると、2006年末にITVに来て、たった3年で事態を大きく好転させようとしていたんだな、ということ。日本的感覚からすると、大急ぎの仕事だったわけだ。株主からの結果を出すようにというプレッシャーも相当のものだったろう。地方ニュースを制作・放映する余裕がないので、一定の地方ニュースを放送する義務が課せられる「公共放送」という看板を下ろしたがっていたわけが、今になって実感として分かる。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/business/8013801.stm

 英地方メディアの危機に、このところ注目している。日本新聞協会の新聞協会報に数回に渡って書いている。以下は、4月21日掲載分に若干補足したものである。

存続の危機―英地方メディア① 不況で広告収入が激減 有効な打開策打ち出せず

 英メディア界で「地方の声」が風前のともしび状態となっている。全国紙に比べて広告収入への依存度が高い地方紙は、不景気による広告収入の激減で大規模な人員削減や発行停止に見舞われている。放送業界でも、地方ニュースの制作は縮小傾向だ。存続の危機に瀕する地方メディアの現状とその背景を報告する。

―半年で約4000人削減

 読者の新聞離れや広告収入の減少に悩んできた英新聞業界だが、昨年秋以降本格化した金融危機と不景気が引き金となり、広告収入はさらに激減。広告収入と販売収入の割合が75対25とされる地方紙業界は、大きな苦境に陥っている。

 2009年第1四半期の地方紙の広告収入は前年同期比37%減で、通年では前年比20%―26%減となる見込み。過去半年間で、約1300紙の地方紙のうち60紙が発行を停止し、地方紙業界全体の約一割にあたる3500人から4000人が人員削減の対象となった。

 千人以上の人員削減を昨年行なった地方紙発行大手ジョンストン・プレス社は08年の決算で赤字に転落し、株価も90%下落。負債が膨らみ、高級紙スコッツマンの売却さえ検討中だ。

 200紙以上の地方・地域紙を発行するニューズクエスト社は08年第4・四半期で広告収入が前年同期比29・3%減少。部門別に見ると、減率が最も激しいのが不動産部門(同57・7%減)で、求人、自動車販売がこれに続いている。

 昨年1200人を削減し、27紙を発行停止、4紙を売却したトリニティー・ミラー社は今年1月―2月の広告収入が前年同期比30%減。同社も08年、赤字に転落した。

 全国紙も発行するデーリー・メール&ゼネラル・トラスト(DMGT)社は、今年第1・四半期の地方紙部門の広告収入が前年同期比37%下落。今年の削減予定数は千人で、昨年末予想の2倍となる。

 各社は、傘下新聞の発行停止や売却、整理・校正役の「サブエディター」職の廃止や大幅縮小、ネットと紙の編集部門の統合など、様々な対策を実施してきた。しかし、広告収入減少の規模の大きさや動きが急なことから、有効な打開策を打ち出せずにいる。こうした中、大手再編の噂が出ている。地方紙発行大手は2-3社に収れんされる、と言われている。(つづく)
by polimediauk | 2009-04-23 19:05 | 新聞業界