小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

英ブロガーがたじたじのイベントがロンドンで

 昨日、ロンドンの外国プレス協会で、英国のトップ政治ブロガーたちが外国人ジャーナリストの質問に答えるというイベントがあった。出席者はBBCの元政治ジャーナリスト、ニコラス・ジョーンズ氏(政府の情報操作に関する記事や本を書いた人として知られる)、今月中旬、英メディアを騒がせたメール事件を暴露した、ブログ「グイド・フォークス」の運営者ポール・ステインズ氏、それに保守系テレグラフ紙でコラムを書き、出版社や雑誌も出す論客イアン・デール氏。本当は、これにガーディアンのメディア・コラムニスト、マット・ウェルズ氏も入る予定だったが、なぜかとうとう来なかった。

 途中で、中国で異端とされる宗教を支持する女性が、突如宗教について熱心に話しだしたり、メキシコのジャーナリストが司会者から「それは質問になっていない」と指摘されたことで、怒り、席を蹴って出口まで行き、振り返って「もうこのクラブをやめる」と言い捨てるなど、イベントには直接関与しない部分でドラマがあった。クラブのメンバーとしては、せっかく来てくれたパネリストに対し、恥ずかしい思いでいっぱいだった。

 しかし、実際の他のジャーナリストからの質問がどうだったかというと、これが私にとっては驚きで、ブロガーを低く見る発言が相次いだ。「不正確な事実ばかりが載っている」、「偏った意見ばかりだ」、「バランスが取れていない」などなど。つまるところ、「ジャーナリストとは言えない」、と言いたかったようだ。「新聞社や放送局は、お金を使って、人を雇い、常にニュースを追っている。バランスのとれたニュースを、事実確認をちゃんとやった記事を載せている。それに比べてブログは・・・」という感じ。ブロガーたちが「不正確な事実を載せているというのは、私のブログのことを言っているの?」と問い返すと、しどろもどろになって、「一般的にです」などという答えが返ってくる。

 こういった質問はドイツ、デンマーク、スペインからで、欧州系はブログに対する考えがある意味では遅れているのかなとも思った。一瞬、「労働党に雇われて、こういう質問をしているのかな?」ともふと思った。

 「ブログはバランスのとれた意見が載らない。ブロガーが自分の視点で書いた、いわば偏った意見ばかり載る。例えば、政府の広報官の言ったことをうのみにして書いたり、読み手を故意に一定の方向に向けようとして、書くことはないのか?」と聞かれたイアン・デール氏は「一定の方向に故意に議論を持っていこうとすれば、読者はすぐそれを察知する」と述べ、ポール・ステインズ氏は「偏った見方であっても構わないと思う」と述べた。デール氏は「要は、読者が判断する」と続けた。

 デール氏は自分がジャーナリストだとは思っていない(テレグラフにコラムは書いているけれども)そうだ。自分が思うことをブログに書いているだけだ、と。ステインズ氏は、「自分はジャーナリストだと思う。他の既存メディアのジャーナリストとなんら変わるところがない。朝から晩までものすごく忙しい」。

 ステインズ氏はブログサイトの運営に日本円で月に1万5000円ぐらいかかっているそうだ。「今は誰でも簡単にサイトを立ち上げることができるようになったのだから、資金がほぼゼロでもジャーナリスト・ブロガーとしてスタートできる」。
 
 イライラ感を感じたような外国報道陣の数人が、「でもいったい運営資金はどうするの?それに、サイトをやるだけではお金は十分にもうからない。ビジネスモデルがあるの?」と聞く。デール氏は「お金だけが目的で書く人ばかりじゃないんだよ」と言ったが、どうも通じていなさそうだった・・・・。深い溝。きっと、不満げだったジャーナリストたちも実際に自分でブログをやれば、いろいろわかってくると思うのだけれど。

 ニック・ジョーンズ氏の話がはいらなかったが、新聞のニュースサイトがどんどん動画を使うようになり、新聞は自主規制なので、「公益のために」という理由でどんどん「何でもあり」状況になっていることへの懸念を示した。(詳細はまた改めて紹介したい。)

*英国ブログとお金に関する過去記事は以下で。

http://ukmedia.exblog.jp/9321155

http://ukmedia.exblog.jp/9131877
by polimediauk | 2009-04-30 06:20 | ネット業界