小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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英イングランド・ウェールズ地方で久しぶりに陪審員なしの裁判が

 英国では重大な刑事事件に関し陪審制度をとっており、国民の間でも陪審制に対する支持率は一般的に高いが、このほど、この制度を使わずに裁判を行ってもよいというケースが出て、大きなニュースになっている。なんと、イングランド・ウェールズ地方(スコットランド、北アイルランドは別の法体制を使っているため)に限ると、過去400年ではじめてのケースだそうである。18日、控訴院が出した判断。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/8106590.stm
http://business.timesonline.co.uk/tol/business/law/article6528322.ece

 これはどういう意味を持つのだろう?長い歴史を持つ陪審制度=普通の市民によって裁かれるーーの揺らぎということなのかどうか。(まあ、そこまではいかないのか?)

 この刑事事件とは、2004年、ヒースロー空港近くで起きた大規模な強盗事件。4人の男性による強盗団が、170万ポンド相当(約2億7000万円)を盗んだとして容疑者になっている。これまでに3回も(2005年、2007年、そして昨年)、裁判が行われたのが(陪審制度を使って)、最後の評決が出ずじまいで、その理由は、陪審員らに対する脅しなどがあったからだった。検察側は、これでは裁判がうまくいかないと、4回目の裁判は陪審員を使わずに裁判をして欲しいと訴えており、最終的にこれを認める判決が出た。

 「リバティー」など、人権団体は、「危険な先例ができた」とこれに異を唱える。つまり、陪審員がいなければ、裁判官だけで決めてしまう=「密室裁判」、何か不正が起きるかも、と。また、リバティーの代表がチャンネル4で昨日言っていたのは、「こんなことをすれば、証言者として裁判に出る人が、出にくくなる。陪審員の身柄も保護できないなら、証言者としては怖くて参加できない」と。

 陪審制度なしに行われた刑事裁判は北アイルランドやスコットランドでは珍しくない。リバティー代表によれば、「北アイルランドではカトリック系住民とプロテスタント系住民の間の溝が大きく、陪審制を使ってもうまくいかないという想定での特殊な状況がある」。

 タイムズが先月、ある裁判の陪審団長が裁判の行方に疑問を呈した記事を掲載した(2007年)ことを巡り、「法廷侮辱法違反」として、罰金をかされている。(タイムズは現在、控訴を申請中。)

 陪審制がすぐなくなるわけではもちろんないが、紆余曲折しながら続いているのだろう。
by polimediauk | 2009-06-19 19:45 | 英国事情