小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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アイフォーン、英政治ブログが暴露した「スピン」

 英国、特にロンドン近辺+南東部で暑い日が続いている。日本からすれば珍しくはないことだが、今日は33度ぐらいまで気温があがりそうだ。これほどの気温の高さに適応するような環境ができていないので、暑い!という感じが増す。例えば電車やバスに乗ると、大きな窓はあっても、開けることができる部分が非常に小さいのである。寒いことを基本にして作られているのだろうなあ・・と思う。

 アイフォーンを使いだして2日目の昨日。寝転がってアイフォーンを片手に持ってニュースを読めることの楽さをしみじみと感じた。PCの電源をつけて画面を読むことは、これに比べるとやはりおおごとである。知らない場所に出かける時、地図の画面を使って、全く迷わずに目的地に行くことができた。これは私にとって大きな進歩だ。電車の中では通常は何かしら紙媒体を読んでいたが、今回はアイフォーンの画面の設定をしたり、情報を読んだりして、時間があっという間に過ぎた。スマートフォンを持っていたら、少なくとも電車内で新聞を読む行為はしなくなっていく。まだ少ししか(アイフォーン専用の)ニュースサイトを入れていないが、米「ハフィントンポスト」の読み心地・使い心地が他と比べてダントツに良い。やはりもともとネットサイトだから、というのがあるのだろう。ハフィントンポストはウェブサイトを開くと、何だかどこから読んでいいのか、米国に住んでいない私としては決めがたく、読みにくい感じがしていたが、アイフォーンでは読みやすく、これなら今後もちょくちょく読みそうだ。不思議なものである。読み方を変えただけで、これだけ認識が変わるとは。

 夢中で使っていたら、アイフォーンの裏部分が非常に熱くなっていた。知人が、アイフォーンを使っていたら、異様に本体が熱くなったという記事をどこかで読んだと言っていた。何だか問題がありそうだ。とりあえず、電源を切って休めておく。

 このところ、紙媒体に書いたもののブログ掲載が滞っていた。すこし前になるが、「英国ニュースダイジェスト」(4月30日号)掲載分に補足したのが以下である。また、この中のブロガー、ポール・ステインズ氏の快挙に焦点をあわせた原稿を「GALLAC」7月号に書いている。

 また、最新の英国事情分析記事が読みたい方は、ニュースダイジェストのサイトで、今回の「ウイークリーアイ」の特集が「下院議長」にスポットライトをあてている。(電子ブック)

http://www.news-digest.co.uk/news/component/option,com_wrapper/Itemid,25/

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英政治ブログが暴露した「スピン」


 野党保守党党首らに関する誹謗・中傷メールを労働党支持のブログの運営者に送っていた、首相官邸の広報官が、4月11日、辞任した。メールは、野党指導陣に関する誹謗中傷を広めることを狙っていた。ブレア前政権の代名詞ともなった「情報操作」(スピン)とは決別したはずのブラウン政権に対する国民の信頼感は落ちた。メールの存在を暴露したのは、政治ブログ「Guido Fawkes」。事件の裏には左派系と右派系ブログの間の「戦争」があった。

 英政府が雇用する「スペシャル・アドバイザー」は現在、70人以上を超える(ちなみに、労働党政権が誕生する直前の1996年ー1997年では38人、下院調べ)。メディア、政治、政策に関わる専門知識を持ち、政府閣僚の仕事を補助するのがその使命だ。この中でトップクラスに位置するのが首相官邸勤務のアドバイザーたち。官邸の戦略・企画担当広報官だったダミアン・マクブライド氏はこの部類に属し、ブラウン首相の「側近中の側近」だった。

 保守系政治ブログ「Guido Fawkes」の運営者が、4月、暴露したところによると、マクブライド氏は、野党保守党党首らに関する、根拠のない誹謗・中傷ネタを複数のメールに書きつけ、政府の元メディア戦略担当官デレク・ドレイパー氏などに宛てて、自身の公用アドレスから送信していた。このネタをドレイパー氏が作るブログ「RedRag」に掲載することで、保守党の地盤沈下を狙っていた。

 ドレイパー氏が「素晴らしい」と誉めたネタの内容は、同性愛の保守党議員とビジネス界の癒着、既婚者の保守党議員の情事、キャメロン保守党党首が性病を患っている噂作り、オズボーン影の財務相の「恥ずかしい写真」を探す、オズボーン夫人の精神状態に疑問を投げかけるなど。姑息な手法で相手を貶める手口が明るみに出た。

 マクブライド氏はメール事件が新聞報道された同月11日、辞職。ブラウン首相はキャメロン党首らに「遺憾の意」を示す書簡を送付し、メールの作成に閣僚やマクブライド氏以外の側近が関わっていなかったと強調した。

―「スピン」は消えたか?

 ブレア前政権時代、頻繁に話題に上ったのが情報操作を意味する「スピン」、という言葉だった。「スピン・ドクター」といえば情報操作が巧みな専門家を意味し、政府の広報官(=スペシャル・アドバイザー)とほぼ同義語として使われた。当時の著名なスピンド・クターはアレスター・キャンベル官邸報道戦略局長や数々の閣僚職を担ったピーター・マンデルソン氏(現企業相)だった。イラク戦争開戦前夜、「イラクに大量破壊兵器がある」、「45分で英国が攻撃される」とした政府の説明がスピンだったことが後に判明した。

 2007年の首相就任で、ブラウン氏は「スピンは終り」と宣言した。ところが、誹謗メールのネタの下劣さと首相側近が関わっていた点から、国民の間に失望感が漂う。労働党の支持率も下落気味となった。

―ブログ戦争

 マクブライド氏とドレイパー氏がブログを通じて、保守党に関わる悪評を流そうとしたのには理由があった。英国の政治ブログは右派・保守党系の人気が高い。先の「Guide Fawkes」、「ConservativeHome」、政治ジャーナリスト、イアン・デール氏の「Iain Dale’s Diary」などがある。

 一方、ドレイパー氏は、労働党支持者によるブログ「LabourList」を、今年年明けから開始したばかり。デール氏のサイトの人気に追いつきたいと、「どうやったら良いブログができるか」を氏に相談したという。噂話や陰謀話も歓迎する「Guido Fawkes」のようなブログを想定したのが、新設の「RedRag」だった。「暗黒のプリンス」というニックネームがあるほど影で情報操作をするのが得意とされるマンデルソン氏の愛弟子だったドレイパー氏が、ブラウン氏の側近だったマクブライド氏のネタ案を元に、人気ブログを作り上げて名声を上げ、保守党の弱体化も実現できれば、一石二鳥と考えても無理はなかった。敵の誹謗・中傷ネタを流布し、政敵への攻撃を狙ったマクブライド事件に、本当に官邸首脳陣の意思は全く反映されていなかったのだろうか?
 
―中傷メール事件の関係者

ダミアン・マクブライト氏(35歳):元官邸の戦略・企画担当広報官。今年1月、野党保守党党首らに関する中傷メールを政府の元メディア戦略担当官デレク・ドライバー氏などに複数回送付。保守系政治ブログ「Guido Fawkes」の運営者にこのメールの内容を暴露され、辞任。元財務省官僚で、ブラウン蔵相(現首相)の政治広報官になる。ブラウン氏の首相就任後は官邸で同職を務めた。影のブリーフィングを得意とする。ケリー運輸相の辞任を正式発表前に一部メディアに漏らした事件の責任を取り、戦略・企画担当広報官に移動していた。

デレク・ドレイパー氏(41歳):元々、左派系雑誌のジャーナリスト兼マンデルソン氏(現企業相)のかばん持ちだった。1998年、おとりの取材記者に対し、閣僚への接見を金銭で売ると持ち掛けたスキャンダルが発覚し、労働党広報官の立場を追われる。現在は心理セラピスト、作家として活動。労働党支持者によるブログ「LabourList」を運営する。人気の右派系ブログに対抗する「RedRag」という新たなブログを設置。コンテンツ案をマクブライド氏と練っていた。

ポール・ステインズ氏(=Guido Fawkes)(42歳): ダミアン・マクブライド氏の中傷メールに関する情報を自分のブログ「Guido Fawkes」や新聞など既存メディアに提供し、マクブライド氏辞任のきっかけを作った。2004年に開始したブログは政治に関わるジョーク、風刺、噂話が満載で、毎月十数万人の利用者を持つ。80年代に保守党青年部に所属していた。ダンス音楽「アシッドハウス」運動の中心的存在で、東京でヘッジファンド会社に勤務したことも。昨年、大物労働党政治家ピーター・ヘイン氏の副党首選挙に関わる資金疑惑を報道し、ヘイン氏を閣僚辞任に追い詰めた。

―メールが示唆した誹謗・中傷

*「同性愛者の保守党議員が小売業の経営陣と肉体関係にある」、議員の立場を利用して下院に招き、小売業者が望む『フェアトレード』の製品を振興している」

*「保守党議員2人が一晩限りの情事を楽しんだ」

*「キャメロン保守党党首は公表したくないような病気を隠していないだろうな」(注:性病を示唆)

*「(影の財務相)オズボーンには困惑するような写真があるに違いない」

*「オズボーン夫人が、昨夏の夫に関するスキャンダル発覚以降、感情的に壊れ易い状態となっていることを、何故夫の友人たちは隠そうとしないのだろう?」
 

―人気政治ブログ

Guido Fawkes
http://www.order-order.com/
噂と陰謀を歓迎する右派系サイト。ブラウン首相の側近による中傷メールの暴露と側近の辞任で注目の的に。

 ちなみに: GUY (or GUIDO) FAWKES: ガイ(またはグイド)・フォークス(1570年―1606年)。1605年の火薬陰謀事件の実行責任者。熱心カトリック教徒で元兵士。当時イングランドでは、国王の国教会(プロテスタント系)優遇政策により、カトリック教徒は弾圧を受けた。貴族ロバート・ケイツビーと共に、国王が上院の開院式に出席するところの爆殺を計画した。議場地下に火薬を貯蔵するところまで行ったが、暗殺計画が発覚し、絞首刑となった。毎年11月5日は「ガイ・フォークスの日」と呼ばれ、英国各地で「ガイ」と呼ばれる人形を焼く習慣がある。

ConservativeHome
http://conservativehome.blogs.com/
2005年の総選挙前、ティモシー・モンゴメリー氏が設置。モンゴメリー氏は元保守党党首イアン・ダンカン・スミス氏の政治アドバイザーだった。インターネットテレビ「18 Doughty Street」(2006年―2007年)のディレクターでもあった。

Iain Dale’s Diary
http://www.iaindale.blogspot.com/
保守系政治評論家の第一人者で、ジャーナリストでもあるイアン・デールのサイト。インターネットテレビ「18 Doughty Street」を立ち上げ、雑誌「Total Politics」の発行人でもある。政治ブログに関する本も出している。

labourhome.org
http://www.labourhome.org/
政治活動家アレックス・ヒルトン氏らが2006年立ち上げたブログ。ConservativeHomeへの対抗ブログとして、労働党を活性化させるために作られた。08年にはプレスコット元副首相が文章を寄せるなど、大物政治家の寄稿もある。左派系週刊誌「ニューステーツマン」の出版社がサイトに投資している。

Recess Monkey
http://www.recessmonkey.com/
アレックス・ヒルトン氏が作った左派系政治ブログで、冗談なども交え、軽いタッチ。Guido Fawkesの保守党版とも言える。

―ブログ戦争:首相側近辞任までの主な経緯

2008年9月23日:ケリー運輸相(当時)が辞任。首相の政治広報担当官ダミアン・マクブライド氏が正式発表前に辞任のニュースを一部メディアにブリーフィング。
10月3日:マクブライド氏が官邸の戦略及び企画担当広報官に移動させられる。
11月:ブログ「RedRag」が開設される。この名称はデレク・ドライバー氏がつけた。
同月:ブリアーズ・コミュニティー問題担当大臣が、右派系ブログを批判し、中でも「Guido Fawkes」には「悪意のあるニヒリズムがある」と述べる。
16日:ドレイパー氏、ブラウン首相との昼食に招かれる。
2009年1月6日:ブラウン首相やマンデルソン企業相らの支援の下、ドレイパー氏が労働党支援のブログ「LabourList」を立ち上げる。
1月13日:マクブライド氏がドレイパー氏に宛てたメールで、保守党を攻撃しないかと持ちかけ、具体策を記す。ドレイパー氏は「何と素晴らしいアイデアだ」と返答。
2月3日:保守系ブロガーのイアン・デール氏がタレントのキャロル・サッチャー氏が黒人テニス選手を「黒ン坊」と呼んだ件に関し、「なぜサッチャー氏がこの発言をしたのか理解できる」とBBCの番組内で発言。LabourListブログが氏を人種差別主義者として大批判。
3月26日:ブログ「Guido Fawkes」を運営するポール・ステインズ氏が、マクブライド氏がドレイパー氏に対し、デール氏への攻撃の仕方を指南していると主張。ステインズ氏とデール氏は情報公開法を利用して、マクブライド氏の指南内容を入手しようと動く。
4月2日:ステインズ氏がマクブライド氏の中傷メールをテレグラフ紙に提供することを持ちかける。テレグラフ紙は掲載せず。
4月9日:Guido Fawkesが、マクブライド氏の写真入りで中傷メールの存在を示唆する。
4月11日:テレグラフ紙がメール事件を報道。マクブライド氏、辞任。
by polimediauk | 2009-07-02 18:27 | 政治とメディア