小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

新聞サイト、課金について考える

 マードックが一部新聞の課金制を新たに導入する考えを示し、その是非に関して議論が巻き起こっているが、ふと自分の体験から思ったことがある。

 それは、英国の一般紙、例えばタイムズ、ガーディアン、インディペンデント、テレグラフ紙などの場合だが、サイトを有料購読制あるいは課金制(一部はもうそうなっているけれども)にした場合、問題として言われるのが「グーグルに引っかからなくなる」あるいは「読者が他に逃げる(ライバル紙、あるいはグーグルに)」というものがある。(課金にしてもそれほど収益を上げられないという大きな理由もあるだろうけれども。)

 収益面の問題をちょっと棚上げして、単に読者として考えると、一つの新聞が例えば有料購読になって、殆どサイト上では読めなくなった場合、「他の新聞あるいはグーグルニュースに移る」ということは、「ない」感じがするのである。

 つまり、タイムズはタイムズであり、ガーディアンはガーディアンである。(それは読売あるいは日経という言い方でもいいのかもしれない。)タイムズのサイトに行くときは、タイムズの記事が読みたいのであって、何でも良いからニュースが読みたいわけではない。グーグルに行ってある一つのトピックの広がりを見ることはあるけれども、グーグル・ニュースはタイムズのニュースの代わりにはならない。テレグラフもガーディアンも、インディペンデントも、それぞれあるアングルがある。その癖みたいなものを、それぞれのアングルを見たいのであって、グーグルにはアングルはないーランキングはあってもーだから、タイムズ、テレグラフ、ガーディアンなどの代わりにはならない。

 私がFTやエコノミストを有料購読しているのは、別に経済関係の媒体だからではない。なので、「経済紙は特別だから、だから有料にできるんだ」というのは、神話というか嘘じゃないかなと思う。FTやエコノミストのテイクというか、ものの捕まえ方が知りたい・読みたいからお金を払っているのである。もちろん、無料で読めるなら、それに越したことはないのだけれども。

 例えば、タイムズが有料購読になって、サイトではほとんど無料では記事が読めなくなった場合、どうだろう?読者としては有料購読者になるか、あきらめるか。あきらめた場合、少なくともオンラインではタイムズという新聞そのものの見方そのものを、丸ごと捨てる、というか、あきらめざるを得ない。繰り返しになるが、代わりはないのである。

 昔、もう数年前になるが(10年前かもしれない)、アイリッシュタイムズである記事を探していて、全て前の記事は読めないようになっていたので、あきらめたことがある。購読者にならないと読めない、と。その時、私にとって、サイトで読む限りにおいてはアイリッシュタイムズという新聞、そのものの見方、素晴らしいジャーナリズムは「消えた」のである。残念ながら。

 私はいくつかの日本の新聞をウェブサイトで見ている。ある新聞を特によく見ているが、その新聞は主にニュースは短いものばかり載せるので、解説記事が有料購読者にならないと読めない。私は日本にいたとき、その新聞の解説記事を愛読していた。でも、今は、全く読まなくなった。私にとって、その新聞の解説面は消えたのだ。時々、その新聞のロンドン支局の人とすれ違う。その人の記事を読みたいなと思う。私は今、その人がどんな素晴らしい記事を書いているか、殆ど知らないのだ。残念だけども、お財布の中身には限りがあるから・・・。
by polimediauk | 2009-08-09 05:43 | 新聞業界