英新聞サイト、有料化の流れ
1988年、スコットランド南西部の町ロッカビーに、米パンナム機が墜落するという事件があった。荷物の中にあった爆発物が爆発し、飛行機が墜落。この事件で爆破犯として有罪となり、スコットランドの刑務所で受刑生活を送っていたリビア人男性が、8月20日、スコットランド司法局の恩赦によって釈放された。末期がんを患い、余命いくばくもないことからの措置だったが、犠牲者を多く出した米国から大きな反発が出た。釈放の背景には英国とリビアとの間のビジネス権益が絡んでいたという説が出て、ここ数日、大きなニュースになっている。
政府はもちろん権益がらみはないと言っているが、ブレア元首相が2007年、リビアの最高権力者カダフィ大佐のテントを尋ねた映像を見た時から、「何かあるに違いない」とは思っていた。もちろん、特別の裏情報を持っているわけではないが、どうにも「おかしい」感じがあった。真相は最後まで明らかにはならないかもしれない。
無料で過去記事も含めニュースを提供してきた英新聞界が、かつてタブーとされていた有料化を考え出している。この経緯を25日付「新聞協会報」に書いている。以下はこれに若干付け足したものである。
有料化を本格的に考え出した英新聞サイト
英新聞界で電子版有料化案が急速に現実味を増している。今月上旬、米ニューズ・コーポレーションのルパート・マードック最高経営責任者(CEO)が傘下の英新聞各紙電子版の有料化を来年半ばまでに実行すると宣言し、経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)のライオネル・バーバー編集長も「新聞業界を救うために」即刻有料化することを呼び掛けた。広告収入に頼るビジネスモデルの行き詰まりが背景にある。
英新聞各紙はFT紙を除き、ウェブサイト上でニュースを過去記事も含めて原則無料で提供してきた。外部のサイトやブログなどから収集したコンテンツを編成するニュースのアグリゲーションサイトや、無料で幅広いニュースを提供するBBCのサイトを競争相手とするため、無料化への大きな圧力が働く。
これまでにも有料化案は浮上したが、「読者に逃げられる」「有料化で成功するのは経済紙だけ」という考えから一般化しなかった。しかし、部数の慢性的下落に加え、昨今の広告収入減少の加速化で方針転換を迫られている。
マードック氏は5日、広告収入頼みのビジネスモデルは「機能していない」と述べた。2007年にニューズ社は、電子版を有料化している米ウォールストリート・ジャーナル紙の発行元のダウ・ジョーンズ社を買収しているが、マードック氏は傘下のニューズ・インターナショナル社が英国で発行するタイムズ、サンなど複数紙の電子版を、来年夏までに有料化する考えを明らかにした。他紙の課金方針に影響が及ぶのは必須だ。
マードック氏の発言と前後して、電子版を有料で提供してきたFT紙のバーバー編集長は複数の英メディアの取材に対し、「新聞界の最大の間違い」は、「ニュースコンテンツは無料で提供するものだ」という考えに、各紙が「誘惑された」ことだと述べた。
「経済という専門分野があるから、WSJ紙やFT紙などは有料化できたのではないか。一般紙ではできないのではないか」と聞かれ、同編集長は「他紙とは違う固有ブランドの構築、スポーツや娯楽など特定分野の有料化など、工夫をすれば可能」と答えている。
メディアコラムニストのジェフ・ジャービス氏は「有料化は狂ったアイデアだ」と否定的だ。5日放送のBBCの番組の中で同氏は「無料で同様のサービスを提供するメディアが出てくる」「自由に情報が行き来するインターネットの世界で孤立化する」「専門性がない一般紙では不可能」などを理由として挙げた。
しかし、一部サービスの有料化は英国で既に始まっている。インディペンデント紙は電子版記事の印刷の際、一つの記事を5部まで印刷するのは無料(記事の上に広告が印刷される)。6部以上では広告が印刷されない代わりに有料とする。6~10部の印刷では1部当たり1ポンド(約160円)。印刷枚数が増えるにつれて料金は下がり、251~500部では1部25ペンス(約40円)となる。タイムズ紙は電子版でのクロスワードパズルに月額4・95ポンド(約790円)の利用料を徴収している。
有料音楽配信サイト「アイチューンズ・ストア」を通じて1本の記事から買える「マイクロペイメント」制を検討するFT紙のバーバー編集長は「支払い方法をいかに容易に設定できるかが、電子版有料化の重要な要素である」と話している。有料化案はタブーではなくなった。
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記事は以上で終わりだが、インディペンデント紙の印刷有料化の仕組みに関して、若干補足したい。
インディぺデントでは、記事+写真に著作権があることを利用して、読者がどのように自社の著作権物を利用するかに関して、制限・規則を設けている。その仕組みに沿って、「欲しい部数が5部までの場合は、広告付きになるが、無料で印刷できる」「利用は家庭及びオフィス用」という限定・規則をつけている。6部以上欲しい場合は、使用料として「お金を払ってください」と。
6部以上は有料の「インスタント・プリント」を選択することになる。これはお金を払う代わりに、広告なしの印刷ができる。もちろん、ひそかに無料印刷(例えば1部)をしてこれを数十枚コピーして数十部作るとか、しかも広告部分を切り取って広告なしの印刷物を作り、これも数十枚コピーして数十部作ることは、物理的には可能だ。しかし、これをインディペンデントは著作権違反とみなす。利用者は5部以内であれば広告付きの記事を無料で印刷できるが、これ以上の印刷は無料では許可されていない。(ただし、実際に「1部印刷」を選んで同じ記事を数回印刷してみると、6部以上できたのだが。)
どのようにして何部印刷したかが分るのか?その仕組みの詳細をインディペンデントは明らかにしていないが、この仕組みを委託されている会社が「コンピューター技術を使って違法印刷がないか定期的にモニターしている」ことが明記され、「大量違法印刷をしている人がいたら、インディペンデント社に連絡する」ことを呼びかけている。
実際のところ、殆どの人にとって必要なのはせいぜい1部か2部であることを考えると、学校や会議(会社)で大量(10部以上)に必要な場合はお金をとるというのはまあ妥当な感じもする。ただ、無料で印刷してコピーで数十部作った場合は著作権違法にあたる可能性があり、学校とかで見張っているわけではないだが、こう言うことによって、違法行為を抑止する、歯どめをかけているのだと思う。本当に必要があってきちんと使いたいなら(学校の授業など)、著作権を払って、広告なしで購入することを選択させようとしているわけである。
有料印刷を選択すると、必要な部数を選び、カードで支払いをする。支払わないと印刷画面に進めないようになっている。この方式を私は他の主な英新聞のサイトでは見たことがないので、インディペント独自のやり方かもしれない。