小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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電話盗聴疑惑、英新聞界を揺るがす (下) ガーディアンとニューズ社の対決の顛末


 前回の話の続きである。「メディア展望」(新聞通信調査会発行)9月号掲載分。私の記事のほかに、9月号の全ての記事は今月末頃、PDFファイルで見れるようになる予定。

http://www.chosakai.gr.jp/index2.html 

 また、王子二人の留守電のメッセージが盗聴されていたという記事がBBCに出ている。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk_politics/8232900.stm


電話盗聴疑惑、英新聞界を揺るがす (下) ガーディアンとニューズ社の対決の顛末

―残ったものは?

 『ガーディアン』の疑惑報道から2ヶ月弱が過ぎた。新聞界の自主規制団体である報道苦情委員会は「報道に注目している。調査したい」と述べたが、ニューズ・インターナショナル社あるいは傘下の新聞の誰かが近く罰せられるという話を聞かない。

 既に、『ガーディアン』の第一報があった翌日、ロンドン警視庁は「報道には新たな証拠はなかった。改めてNOW紙の組織ぐるみの盗聴行為を調査するには至らない」と結論付けている。『ガーディアン』は、NOW紙と『サン』紙が盗聴行為をしていた著名人の数は「2000人から3000人」と書いたが、ジョン・イエーツ副総監は、「実際の数字ははるかに小さい」と述べた。

 一連の事件をマードック・メディア対『ガーディアン』という視点で見るならば、マードック側は『ガーディアン』の疑惑報道をうまく追い払った、とも言えるのかもしれない。しかし、どんな手段を使ってもスクープをものにする、そのためには探偵を雇ったり、違法行為も辞さないというメディアの暗部が再度大きく報じられる結果となった。

 メディア評論家のロイ・グリーンスレード氏は、特に大衆紙の編集室には良い(売れる)記事を出すためには「規則を曲げる」圧力が働くと『ロンドン・イブニング・スタンダード』紙のコラム(7月15日付)で書いた。「公益があるといえば、どんな手段も許されると考える」誘惑が働くという。

 先の『テレグラフ』のスクープ報道にも、非合法な手段が使われたと推測されている。議員の経費リストの取得経緯を同紙は明らかにしてないが、この情報が入ったCDを販売しようとした人物の存在は業界内では公然の秘密だった。何者かがこれを下院から窃盗し、『テレグラフ』に高額で売ったと言われている。

 当初、窃盗行為疑惑やいわゆる「小切手ジャーナリズム」(情報をお金で買う)となった可能性を他紙は問題視した。しかし、報道の重要度が次第に明らかになり、その後下院が公表した経費情報が非公開を示す黒字部分で一杯になったことを考え合わせると、どんな手段を使ってでも元情報を独自に取得しなければ不正を暴くことができなかったことが納得され、スクープを賞賛する声が圧倒的になった。

 しかし、NOW紙を筆頭にあまりにも多くの報道機関が「公益」という名の下でメディアの特権を悪用しているのではないだろうか?情報コミッショナーの報告書がこの点を指摘していた。先のデービス記者は、メディアが「第4の権力」「法を超える存在になっている」危険性を指摘している。売るためには手段を選ばないやり方を続ければ、国民の新聞に対する信頼度はさらに低下の一途をたどる。『ガーディアン』の一連の報道は「犬は犬を食わない」(同業者の汚点を同業者は暴かない)という業界タブーを打ち破った点で稀有だった。しかし、業界の暗部のうみは未だなくなっていない。(終わり)

             ***

『ニューズ・オブ・ザ・ワールド』紙の盗聴疑惑を、7月8日夕方、スクープ報道する『ガーディアン』紙のウェブサイト

http://www.guardian.co.uk/media/2009/jul/08/murdoch-papers-phone-hacking
by polimediauk | 2009-09-03 02:30 | 新聞業界