小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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イラク戦争の意義-2

スクープ

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(左: ゴールドスミス法務長官 BBCオンラインより)

 BBCが、時事ドキュメンタリー専門の番組「パノラマ」の枠で、イラク戦争が合法だったのかどうかを問うエピソードをイラク戦争開戦2周年の20日に放映した。

 23日、チャンネル4で、これをさらに進めるスクープ報道があった。新聞各紙も、イラク戦争の意義を問う報道をしつこく書いている。執念と言うか、「政治家の責任を問う」という流れを汲む報道が、次々と途切れることなく続いている状態だ。

 今日起きた、2つの大きな動きを紹介したい。

ー手紙から消えた部分

 イラク戦争開戦が国際法から見て合法だったのかどうかという観点から、最近焦点となってきたのが、ブレア首相に合法だとアドバイスをしたゴールドスミス法務長官の決断だ。長い間自論では違法としていたのにも関わらず、開戦の直前に合法としたからだ。

 法務長官側は、「一貫して合法だと言ってきた」と主張しているが、このほど明らかになった外務省の元高官の辞職願いの詳細が法務長官の心変わりを示唆している。

 外務省の法律アドバイザーだったエリザベス・ウイルムスハーストさんは、2003年3月のイラク戦争開戦の直前、「イラク戦争は侵略罪」とし、辞職した。辞職願いの手紙は既に公開されていたが、一部が非公開となっていた。チャンネル4は、この非公開部分を探し当て、法務長官がイラク戦争に関する法的判断を変えていた、と報道した。

 ウイルムスハーストさんは、BBCが情報公開法を使って外務省から手に入れた辞職願いの手紙の中で、イラク戦争は「武力の非合法的実行」であり、「侵略罪に当たるもの」とし、「国際秩序と法のルールにとって有害となるだろう武力行為に賛同できない」としている。

 チャンネル4が入手した、これまで非公開だった部分は、「私の見解は、このオフィス(注:外務省の法律チームのオフィス)が、国連安保理決議1441の決議前にも後にも継続して提供してきたアドバイスと同様のもので、法務長官が、3月7日の手紙を書く前の彼自身の見解と一致している。(3月7日の手紙に書かれた見解は、もちろん変わってしまい、別の公式見解になってしまったのだが。)」となっている。

 3月7日以前、法務長官は、新たな国連決議がなければイラクへの武力行使は違法だと考えていたこと、3月7日のブレア首相にあてた書簡の中では新たな国連決議があったほうが安全だと書いたことなどを裏付けた。ところが、3月17日、国会に提出した書簡の中では、法務長官は、国連決議なしでも合法としたのだった。

 国連決議678は米英など多国籍軍による対イラク武力行使を容認したもので、湾岸戦争の停戦に際し、大量破壊兵器を検証可能な形で撤去することをイラクに義務づけている。決議1441は、イラクの現状が687違反であることを明確にし、義務違反を重ねれば「深刻な結果」に直面する、としている。

 ゴールドスミス法務長官によれば、イラクが国連の要求を継続して退けてきたので、これが決議678を再起動させたことになり、したがって、敵意ある行動をイラクに対して起こしてもいい、と解釈される、というものだった。武力行為を可能にするためには新たな国連決議はいらない、つまり、今回のような武力行使を合法と見なすのだ。

 一方、ウイルムスハーストさんは、武力攻撃を可能にする新たな国連決議が必要とする立場を取っていた。こうした決議がなければ違法と見る。

 BBCの取材に、法務長官の広報担当者は、「どのようにして最終的見解に至ったかは、問題ではない」とし、合法と言う判断は法務長官自らの独立した意見である、として、ブレア首相あるいは米政府など他からの影響によって変わったのでは?という疑念を否定した。

 チャンネル4は、手紙の非公開部分入手の詳細を明らかにしておらず、報道が100%の事実を反映しているとは必ずしも言えない。しかし、ウイルムスハーストさん自身が、チャンネル4に抗議をしていないところを見ると、かなり信憑性が高い。

 ウイルムスハーストさんは、外務省辞職後、ロイヤル・インスティテュート・オブ・インタナーショナル・アフェアーズ(通称チャタムハウス)という、在ロンドンのシンクタンクの国際法部門を統括している。

 午後8時、このシンクタンクの広報からメールが来た。チャンネル4の報道に付け加えることはないが、2004年2月27日付のウイルムスハーストさんの見解として、以下を送付してきた。

 「2004年2月27日

 私が外務省の法律アドバイザーの職を辞めたのは、イラクへの武力行使が違法で、どんな状況の下でも、法律アドバイザーとして勤務していたくなかったからです。」


 (続く)
by polimediauk | 2005-03-24 11:08 | 政治とメディア