新聞業界

ロンドンペーパーの廃刊+「『R25』のつくりかた」

 田舎で所用ができ、9月中旬一時帰国して以来、ほとんどの日々を田舎で過ごしてしまったため、ブログの更新が遅れてしまった。明日にはロンドンに戻る予定。(東京と地方ーー特に私がいた過疎に近い地域ーーでは時間の流れが違うように思う。貴重な体験だった。)

 そこで少々古いネタになって大変恐縮だが、「英国ニュースダイジェスト」(9月17日掲載)に書いた、無料紙ロンドンペーパーの廃刊に関する原稿に補足したものを以下に出したい。

 その前に、いろいろな人から「是非読みなさい」と言われていた、「R25のつくりかた」(日経プレミアムシリーズ、新書)をようやく手にすることができた。やはりすごい本である。たくさん考えるヒントがあったが、私がもっともすごいと思ったのは、最後に近い「MI層を誰よりも理解した存在になる」の項だった。無料週刊誌R25創刊前に、普段は新聞を読まない若い男性層に丹念な聞き取り調査をし、編集者自身の洞察も加えて、発信する内容を練っていった・・・という部分が大きく評価されているが、対象となる読者層といつしか一体となる、つまり「読者が見える」ようになっていく(著者はこれを「イタコ」化と呼ぶ)部分に感銘をうけた。

 ・・・「何かを言葉にした時、『ああ、これはたぶん刺さる(小林注:心をつかむ、あるいは受ける、という意味か)』『いや、刺さらないだろうな』というのが、経験則で分るようになっていきました」という。この「何となくの経験則と、マーケティングの知識とが合わさったとき、ものすごく気持ちよく整理され、アイデアが腹に落ち、しかも結果がついてきたことが何度もあったのでした」とある。そして、R25は、MI層の「インサイトを理解したコミュニケーションの専門集団のような存在をイメージしています。インサイトを怠らず、彼らの心の本音に共感・共鳴する。そんな集団を、目指さなければいけないと思っています」(引用終わり)。

 余談になるが、以前、新聞社で教育面に関わっていたことがあり、毎週毎週作っていると、読者の顔が見えてくるようになった。実際、取材に行くと、「読んでいる」と声をかけられ、編集室まで会いに来られる方(意見をいうためにも?)も複数いらした。それがまた作る上では励みにもなった。やはり、最終的には、情報を届ける相手の顔が見える、というのは強いのではないだろうか。

 R25はこの本の帯によれば発行部数が60万部。例えば百万単位の部数を誇る新聞からすれば、媒体としては小さいかもしれないけれど、いわゆる一般的な新聞には、果たして読者の顔が見えていたんだろうかな?と思った。

「新聞を読むのがとりあえず大人になったら当たり前」という時代には、みんなを喜ばせるために総花的なことを出していけばよかったのかもしれないが、家族がばらばらに行動するようになった現在、新聞を読むという行為以外の場所で情報を交換をすることが当たり前になり、読者が欲しがるものはずい分と変わってきている。「こういう新聞だったら、読みたいんだよね」というニーズをもっときちんと捕らえたり(例えば米国のニュース週刊誌が解説・分析を主とする英エコノミストを目指したり)、それでも過去と比較すれば縮小するであろう紙の新聞の読者数にあわせて、思い切ったダウンサイジングをするなど、いわゆる生き残りのヒントがR25の本にあるような気がした。

 読者が本当に読みたいものとは何か?R25のように、新聞社側がいろいろアイデアをめぐらせてもいい。ある意味では、大きなチャンスである。(1人の読者として、私だったら、事実の報道や解説・分析が読みたい。公の議論の場としての新聞論壇は非常に重要であろうと思う。逆に趣味的なものは思い切ってページを減らしたらどうだろう?夕刊は文化として貴重だろうけれど、やはりニュースが古くなるから、断念してもよいのでは?―といっても、英国の新聞――朝刊と夕刊を同じ新聞が出すということはないーーは文化的記事もかなり充実していて、楽しんで読んではいるのだが。)

 ロンドン・ペーパーの廃刊
 無料化トレンドに変化?

 
 ロンドンの無料ニュース紙「ロンドン・ペーパー」が9月で廃刊されることになった。朝刊無料紙「メトロ」の人気にあやかり、3年前に創刊された「ペーパー」の消滅は不況による広告市場への影響の深刻さを示している。これでロンドンの無料紙市場は事実上なくなるという噂もある。一部新聞のウェブサイトの閲覧有料化計画も出ており、「ニュース=無料で読むもの」というここ数年の常識に変化が起きそうだ。

 新聞を買って読むよりは、インターネットでさっと情報を得てしまう方が手っ取り早いし、お金もかからないーそんな「ニュースは無料」感覚を少々変えなければならない動きが、最近起きている。

 英国の新聞サイトは過去記事も含めてほぼ全ての記事が無料で読めるのが常識だった。ところが、米メディア複合企業ニューズ社の最高経営責任者でメディア王と呼ばれるルパート・マードック氏が、先月、同社の傘下にある英ニューズ・インターナショナル社が発行する「タイムズ」などの新聞サイトを来年半ばまでに課金制にすると明言した。英国の大手新聞サイトで課金制をとっているのは経済紙の「フィナンシャル・タイムズ」(FT)紙のみ。一般紙が課金制に移行するのは初となる。

 マードック発言と前後して、今度はライオネル・バーバーFT編集長が「新聞界の最大の間違い」は、「ニュース・コンテンツは無料で提供するものだ」という考えに各紙が「誘惑された」ことだと述べ出した。

 追い討ちをかけるように、ニューズ・インターナショナル社がロンドンの無料夕刊紙「ロンドン・ペーパー」を9月一杯で廃刊とすると発表し、ニュースは無料」時代が終えんを迎えたかのような印象を多くの人に与えた。

 読者の新聞離れとネットの到来が重なって発行部数の下落が続いている新聞業界で、唯一人気となっていたのが1999年発行の朝刊無料紙「メトロ」だった。この人気にあやかろうと、メトロの発行元アソシエーテッド・ニューズペーパーズ社が2006年、夕刊無料紙「ロンドンライト」を、ニューズインターナショナル社も「ロンドンペーパー」を創刊した。経済無料紙の「City AM」も参入し、ロンドンには無料新聞があふれた。広告収入で制作コストをカバーし、ニュース自体は無料で提供するーそんなビジネス・モデルがもてはやされた。

 しかし、時代はすっかり変わってしまった。金融危機に端を発する不景気で、広告収入が激減したメディア界。赤字が続くロンドン・ペーパーをニューズ社は断念せざるを得なくなった。

―課金が選択肢に

 グーグルニュースやBBCのニュースサイトはいずれも無料で提供され、人気が高いため、新聞社サイトはこれまで課金制をタブー視してきた。もし有料にすれば読者が逃げると考えたのだ。しかし、経済の逆風が吹く中で、課金は非常に魅力的な方法に映るようになった。FTは、アイチューンストアから記事を一本ずつ買えるなどのマイクロペイメント(関連キーワード参照)を導入予定だ。

 「ガーディアン」紙のデジタル部門のディレクター、エミリー・ベル氏は「有料化はばかげている。ネットのニュースは無料で出すべきだ」とブログなどで発言している。「民主主義社会の維持に自由な情報の行き来は必須だ」。しかし、多くの新聞の経営陣が、ニューズ社発行の新聞サイトの課金制が成功するかどうかを熱い視線で見守っている。

―無料・有料の鍵を握るといわれる人物:「メディア王」ルパート・マードックとは

 米メディア複合企業ニューズ社最高経営責任者。オーストラリア生まれの米国人実業家で「メディア王」と呼ばれる。78歳。複数の新聞経営者・ジャーナリストだった父の急死で、オーストラリア南部アデレードの「ザ・ニューズ」紙の経営を引き継ぐ。オーストラリア国内の新聞、英国大衆紙「サン」の買収などで勢力を拡大。ニューズ社は米映画会社「20世紀フォックス」、英高級紙「タイムズ」、米ネットワーク「FOXテレビ」、英衛星放送BSKYB、ソーシャルネットワーキングサイト「マイスペース」、米経済紙「ウォールストリート・ジャーナル」など多くのメディアを所有する。英国では傘下のニューズ・インターナショナル社が先の2紙に加え「サンデー・タイムズ」、「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」も発行。英米両国のメディアの方向性に大きな影響力を持つ。

―無料・有料の動き

1995年:スウェーデンの無料ニュース新聞「メトロ」が発行開始。欧州を中心に世界中で発行が続く。
1999年:スウェーデン紙の英国上陸を察知したアソシエーテッド・ニューズペーパーズ社が英国版無料朝刊紙「メトロ」を発行する。
2006年:アソシエーテッド社が以前から創刊を予定していた無料夕刊紙「ロンドン・ライト」を発行開始。数日後、新聞王ルパート・マードック氏が経営する米ニューズ社の傘下にあるニューズ・インターナショナル社が「ロンドンペーパー」を創刊。
2007年12月:米ニューズ社が経済情報サービス大手米ダウ・ジョーンズ社を買収。ダウ社は米経済紙「ウォールストリート・ジャーナル」(WSJ)を発行する。マードック氏は電子版を有料化しているWSJについて、一時無料化を構想したが、最終的に有料化を維持。
2008年9月:米証券会社リーマン・ブラザースが破綻。金融危機が世界的な景気悪化に発展。不景気と広告収入減少の影響がメディア業界を直撃する。
2009年年頭―春:米「ニューヨーク・タイムズ」紙が、2年前まで有料化していた電子版を再度有料化する観測が出る。マードック氏、英国で発行する新聞の電子版有料化を構想。
同年8月上旬:マードック氏が英国で発行する新聞の電子版を年内に有料化すると宣言。経済紙「フィナンシャル・タイムズ」のバーバー編集長が新聞の電子版有料化を他紙にも勧める発言をする。
8月20日:ニューズ・インターナショナル社が無料夕刊紙「ロンドン・ぺーパー」の発行を一ヵ月後に停止すると発表。

ー有料・無料を試行錯誤する英米大手紙

ーー電子版を有料で提供する新聞と紙媒体発行部数

米ウオールストリート・ジャーナル紙 約200万部
(有料購読者数:約100万人)
英フィナンシャル・タイムズ紙 約40万部(世界中での部数)
(有料購読者数:約11万人)

ーーかつて有料だったが現在電子版無料の新聞

米ニューヨーク・タイムズ紙 約100万部
(2005年開始し、07年無料に。一部は有料。)

ーーロンドンの無料紙紙媒体発行部数

朝刊紙メトロ約130万部(英国全体)
 
朝刊経済紙City AM 約9万部

夕刊紙ロンドン・ペーパー 約50万部

夕刊紙ロンドン・ライト 約40万部


ーー英新聞サイトの7月のユーザー数


ーーー新聞サイト名と固定ユーザー数

メール・オン・ライン29,872,465
 
ガーディアン26,990,072

テレグラフ26,479,638

タイムズ・オンライン21,216,797

サン・オンライン25,094,107

ミラー・グループ・デジタル10,405,191

インディペンデント8,387,819

(資料:英ABC)


ー関連キーワード

Micropayment
マイクロペイメント。超少額決済。通常の支払いシステムでは経費がかかりすぎる少額の金銭の支払いのこと。元々、米国での1ドルの1000分の1を意味し、少額の支払いを効率的に実現する支払い体制を意味する。メディア界では、インターネット上のコンテンツを少額で切り売りする方法として使われることが多い。経費を広告収入でカバーする代わりにコンテンツを無料で利用者に提供するというビジネスモデルが英新聞界では主だが、記事1本、音楽であれば1曲ずつをクレジットカードなどによる電子決済で切り売りするこの手法が新たな収入源として注目されている。
 
by polimediauk | 2009-09-29 21:36 | 新聞業界

ジャーナリズムの話いろいろ+欧州事情も


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